1-2
ガタゴトと揺れる大きな馬車の中で怯えるクラスメイトを柴田先生が冷や汗を流しながら宥めているけど、不安からくるざわめきが止まる事はなく、中には泣き出したり怒り出す人も居てかなり騒々しい。
仲良し4人組は私の傍で静かにしているのがその顔色は悪く、私は彼女達を宥めながら考える。
テヘペロの使い方のどこが間違っていたのかを。
テヘペロは片目を瞑りつつ口の端から舌を覗かせて顔の横でピースしながらテヘペロと発音する事で間違いないはず。
なら使う状況が間違っていたのだろうか?
ちょっとしたミスを誤魔化して場の空気を和ませるジョークの一種なのだからこちらも間違ってはいないはず…。
でも天然空気ちゃんという渾名はなにかしら普通とは違う事をしてしまった時に呼ばれる。
どこか間違っているはずだけど見当がつかない。
私は私が普通ではない事を両親から教えられ、周囲を観察する事で自覚した。
天然空気ちゃんと呼ばれるのは普通である事を目指す私にとって決して小さくはない問題だ。
と、馬車の揺れが収まった。 どうやら城についたらしい。
馬車の扉が開かれるとすすり泣く声しか聞こえない沈黙が場を満たし、扉を開いた兵士は馬車の外に助けを求める様な視線を送る。
「何をしておる!早く部屋へ連れて行かんかぁ!貴様らも早く降りよ!時間は有限なのだぞ!」
怒号が響いたかと思えば兵士が突き飛ばされ、ラインハルトが顔を出して怒鳴りつけてきた。
そんな事をすればどうなるかも考えるまでもないだろうに…、沈黙は壊され、家に帰してと泣き叫ぶ声、ふざけるなと怒り叫ぶ声、皆落ち着いてと宥めようとする声。
仲良し4人組は泣き出したりはしなかったものの、震えながら私に抱きついたり服を掴んだりしている。
あまりにも考え無しなラインハルトにイラッとして殴りつけてやろうかと思った矢先、その頭に杖が叩きつけられた。
「余は控えよと言ったはずじゃが、聞こえていなかったのか?」
ゴン!と人の頭からしてはいけない良い音がしたかと思えば王様がとびきりスマイルに青筋を浮かべながら蹲ったラインハルトに問い掛ける。
どうやら怒ると笑顔が出るタイプらしく、その迫力に泣いたり怒ったりしていた人達も静かになった。
馬車の中の様子に気づいた王様は慌てて謝罪し、馬車の時と同じ様に自ら部屋に案内してくれた。
…いや王様なんだからそこは配下に仕事をさせてあげるべきでは?
実際侍従らしき人々は顔にこそ出ていないものの目が不満であると言っている様に見える。
「本来なら御1人に一室を割り当てさせて戴く所ですが、皆様は現状に強い不安を感じておられる様子。ですので一室に5人ほど入れる様に配慮させて戴きました。本日はゆっくりお休み戴きたい。」王様は侍従達の不満を黙殺してそう言ったけど、正直トラブルの予感しかしないかなぁ…。