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「この通りです、どうか…!」
そう言って声をかけてきたお爺さんが膝を付き、頭を垂れる。
その姿に周囲を囲んでいた人達から動揺する様な吐息が漏れる。
彼らの顔や目からは様々な物が感じられる。
一番多いのはどうも敵意の類に見え、老人の様な好意の類は少ないみたい?
まぁ周りの人達や老人が身につけた物や向けられた感情から中世の王制で、王様だろう人が頭を垂れているのだから不満を持つ人が居るのは不思議じゃないけど…敵意の割合が多いし王制なら貴族という特権階級もあるだろうに顔に出てる人がちょっと多いんじゃないかな…。
「ねぇりっちゃん、これってドッキリ…だよね?」
白井姫花ちゃんが聞いてくるけど、顔色とその震えから察してるみたい。
「ドッキリにしてはちょっと…でも召喚はもっとも現実的じゃないよね…。」
佐々木博子ちゃんは冷静にそう返した様に見えるけど私の制服の裾をぎゅっと掴んでる。
「葵ちゃんこういう小説好きだったよねーって冗談言ってる場合じゃないよねぇ…。」
普段はバカな事大好きなお調子者の斉藤桐江ちゃんもなんかシリアスだ。
「あぅぅ…この手のストーリーは自分が関わりたい物じゃないよぉ…。」
引っ込み思案な鈴木葵ちゃんは桐江ちゃんにしがみついてぶるぶる震えてる。
そこでふと気づいた事がぽろっと口から毀れた。
「そういえば葵ちゃんに見せてあげようと作ったキャラ弁…。」
『いや今そういう状況じゃないよ(でしょ)?!』
総ツッコミだった。えーとこういう時は…。
「てへぺろ?」
「…やっぱり天然空気ちゃんはダテじゃないね」
『うんうん』
仕方ないなぁと言う感じの生暖かい視線を向けられました。
…何か間違えたでしょうか?
「っ貴様らぁ!!我らが王が頭を下げておられるのだ!何時までも黙ってないで応えんかぁ!」
ドガァン!と槍が地面に半ばまで埋まるほど叩きつけて怒鳴りつけてきたのは鎧と武器を持った人の1人だった。
短く借り上げた金髪で豊かな髭で筋骨粒々のおじさんが顔を文字通り真っ赤にして睨み付けている。
これは相当特権階級の力が強そうだなぁと考えていると頭を下げていた老人がその姿勢のまま声を上げる。
「控えよラインハルト!…我が配下が失礼を致しました。どうやら混乱している方も居られる様ですので今日の所は城でお休みいただきたい。明日、改めて事の経緯から説明をさせていただきたく。」
そう言って老人が立ち上がり、目配せをすると鎧と外套の集団が道を開け、老人が自ら馬車まで先導してくれた。
たぶん王様なのに随分とフットワークが軽い、というかそれでいいのか。
いやたぶん周りの反応を見るに良くないんだろうけど。
そうして馬車に乗って城へ行き、次の日まで休む事になった。