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AIにそだてられた子  作者: 荒井 文法
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 リーディーとハグして頬を合わせる。

 艶っぽい話ではなくて、寝る前に挨拶をしているだけだ。ルーティーンじゃない。ルーティーンと呼べるほど儀式ではないし、仕事でもない。リーディーも僕もお互いに必要性があるからやっている。はず。

 ハグするのはニュークとリーディーだけで、他のAIたちとハグしたことはない。もしかしたら、物心がつく前に抱っこされていたことはあるかもしれないけれど。

 ニュークとリーディーは温かい。心とか感情の話ではなく、物理的に温かい。そして、柔らかい。例えば、シルフとハグしても冷たいし硬いし、その辺の岩に抱き付くのと同じ効果しか得られない。実は、シルフはまだ良いほうで、ルーリとか、アルコルフなんかとハグしたら、僕は三枚おろしになってしまうかもしれない、というのは言い過ぎだけど、間違いなく服か皮膚が切れてしまうだろう。

 AIたちの体は人間と接するためにできていないのだ。人間は僕しかいないのだから。


 「おやすみ」

 「おやすみ」


 いつもどおりリーディーと挨拶を交わしてベッドに入る。

 リーディーが『おやすみ』すれば、リーディーの『体』は動かなくなる。だけど、僕がおやすみしても、僕の体は動いている。『眠る』という行為の不合理さをいつも感じながら、僕は眠りにつく。


 「君は、眠るようにできているんだよ。悲しいかい?」


 眠らずに何時間活動できるのか試してみたことがある。

 AIたちの忠告を聞き入れずに何十時間も起き続けたあと、ニュークに言われた言葉は、僕が人間であることを、僕がAIではないことを、強烈に刻みつけた。


 「意、地、か、な」


 朦朧とした意識の中、瞬きした瞬間に眠らないように気をつけながら、僕は答えた。全てが夢の中のように不鮮明で、自分が何を話しているのかさえよく分からない。


 僕の答えを聞いたニュークは、微笑んで、そっと僕を抱きしめた。


 温もり。柔らかさ。


 なぜニュークは人間ではないのだろう?


 意味不明な疑問を自嘲しながら、ゆりかごの中に崩れ落ちるように、僕は一瞬で気を失った。



 ※



 目を覚ますと、だいたい八時間くらい経っている。窓のカーテンが徐々に開き、外光を取り入れるシステムになっているので、アラームがなくても、AIたちが起こしに来なくても、自然と目が覚める。窓の外には、オルブ唯一の木の鮮やかな緑色が揺らめいている。


 「おはよう」

 「おはよう」


 いつもどおりリーディーと挨拶を交わしてベッドから出る。

 今日したいことが山ほどある。

 まずは、リーディーとハグしよう。

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