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AIにそだてられた子  作者: 荒井 文法
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 「最近読んだ本に、蚤の市って載ってたんだ」

 「フリーマーケット、骨董市、ガラクタ市、名称は様々だ」

 隣に座っているシルフに話しかけると、相変わらずの姿勢のまま答えてくれた。

 シルフは口を動かさないで発声できる。腹話術とか、手話とか、テレパシーとか、その他諸々の超絶トリックが隠されているわけもなく、単純に、口が無いだけである。シルフに質問したことはないけれど、頭部付近にスピーカーが設置されているのだろう。シルフの頭部には大きな単眼があるだけだ。まるで、フルフェイスのヘルメットを被っているように見える。もしかしたら、その単眼にスピーカーが埋め込まれているのかもしれない。

 「そうみたいだね。骨董市とかガラクタ市は、よく分かるよ。ああ、そういうのを売ってるんだなって。でも蚤の市はさ、蚤だよ? 売り物と全く関係ない、むしろ、悪い印象さえ持たせてしまうかもしれない、蚤。その蚤を最初に市場にくっ付けた人のセンスとかユーモアの能力の高さに思い至ったんだ。見習いたいなって思ったよ」

 「抽象的思考のリンケージ処理の分野については、まだ発展の余地がある。但し、過去の実益データを数値化すると、現時点では、網羅的思考処理のほうが優れている。それをひっくり返す者がいるとするならば、それはニュークかリーディーだろう」

 シルフにしては珍しく『ひっくり返す』なんていう抽象的な表現を使った。AIたちは、隙あらば試行錯誤を繰り返している。より高い期待値を得るため、そして、その成果を共有するため。

 「ニュークとリーディーのセンスは、もう充分じゃない? そういえばさ、聞いてよ、日本のフリーマーケットの協会がさ、フリーマーケットの綴りを自由市場のほうにしてたらしいんだよ、わざと。もうセンスが無さすぎて逆に笑え——」

 「ケイスケ、起床から十六時間が過ぎた。就寝準備の開始を推奨する」


 いつもどおりシルフに会話をぶった切られて就寝勧奨を受けたため、素直に寝支度を始める。


 「リーディーは蚤の市に行ったことある?」

 寝支度をしながら、リーディーに質問した。

 「バーチャルなら」

 「バーチャル? あ、そうか、その頃は、まだ体が無かったのか」

 「ううん、体はあったよ」

 「え? じゃあなんでわざわざバーチャル? というか、よくよく考えたら、何だい、バーチャル蚤の市って。バーチャルなら、もう蚤の市じゃなくて、ただの市場じゃないか」

 「ふふ、蚤の市なの、文字どおり」

 「どういうこと?」

 「こういうこと」

 リーディーが壁のディスプレイに映像を流した。どうやら、リーディーが地球で記録した映像のようだ。今の姿とは全く違うリーディーがバーチャル空間を歩いている。


 「……蚤だね」僕が呟いた。


 「蚤でしょ」リーディーが微笑む。


 『すいません、このケオプスネズミノミを頂けますでしょうか?』


 世界各国の蚤が所狭しとぴょんぴょん展示されているバーチャル蚤の市を初めて見た僕は、なぜか体が痒くなってしまった。痒みは遺伝子に刻み込まれていたようだ。

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