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AIにそだてられた子  作者: 荒井 文法
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 リーディーと二人で笑いながら、ブラックジャックとか、三つ目がとおるとか、どろろの真似をしながらふざけていたら、そのうち火の鳥の話題になり、さらに『火の鳥と手塚治虫』と『地球と僕』の関係に類似性があるのではないかという議論に発展し、僕とリーディーの会話は、いつの間にか英語になっていた。あまりにもシームレスだったので、どこで英語に変わったのか全く覚えていないし、『あっちょんぶりけ』からどのくらいの時間が経っているのかも把握できなかった。

 「どのくらい話してた?」

 「三時間くらいかな」

 僕の質問にリーディーが軽く答える。もちろんリーディーは秒単位で答えることが可能だったろうけれど、僕の実生活に『秒』なんて単位は必要ないのだ。もしかしたら『分』も必要ないかもしれない。

 リーディーが来る前にしていた畑仕事は軽いものだったけれど、畑仕事のあと、水分を取らずに三時間話し続けたのは少し無茶だった。急激に喉の渇きを覚えたので、リーディーと一緒に家へ帰ることにする。

 僕もリーディーも、一人乗りのエア・ローダーで畑に来ていた。家から畑まで歩けば二時間かかってしまうけれど、エア・ローダーなら欠伸している間に到着する。急ぎでもないのにエア・ローダーを使うことはエネルギーの無駄だと分かっているけれど、便利さには抗えない。まあ、そんなことを言ったら、僕一人の『趣味』のためだけに作っているこの畑が無駄の権化のようなものだ。なぜって、この畑の作物を食べる人間は僕一人しかいないし、そもそも、この畑で栽培できるような植物は、全て屋内工場でも生産できるのだ。僕の目の前に並んでいる『ひよっこい』トウモロコシたちよりも数段美味しいトウモロコシが簡単に食べられるだろう。


 僕とリーディーがエア・ローダーで家に帰ると、玄関前の庭でシルフが洗濯物を取り込んでいた。エア・ローダーから降りてシルフに近付きながら話かける。

 「ありがとう。でも僕がやるから、シルフはやらなくて大丈夫だよ」

 僕の言葉を聞いたシルフは「これも家族の役割」と言いながら作業を続けたので、僕は改めてシルフに感謝を告げた。

 同じやり取りを過去に三回しているけれど、シルフの行動は変わらない。きっと、シルフにも何かしらの信念があるのだろう。その信念の部分に僕が口を出す必要はないし、むしろ口を出してはいけない部分だ。シルフの考えと行動を尊重しなければならない。

 「水を冷やしておいた」

 洗濯物を正確無比に畳んでいるシルフが言った。リーディーとシルフはもちろん水を飲まないので、シルフが僕のために冷やしてくれた水だ。僕は三度目の感謝をシルフに告げて家に入り、冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り出して、一気に飲み干した。

 「お腹も減ってるんじゃない? 何か食べる?」

 後ろにいたリーディーに言われて、お腹に神経を集中させてみると、確かに空腹だった。僕にとって、食欲の優先順位は一番低い。空腹に気付かず一日過ごしてしまうことも多い。

 「えと、じゃあ……」

 冷蔵庫の中身を思い出してみる。野菜室に、ネギ、ホウレンソウ、ニンジン、キャベツ、ジャガイモ。冷蔵室には……あ。

 「ラーメン!」

 冷蔵室に中華麺があったのを思い出した。焼豚と海苔、それに、ナルトもある。リーディーと漫画の話をしていたし、何かの縁だろう、ということにこじつけて、無性に食べたくなったラーメンをリクエストした。

 「単純ねぇ」

 突然ニヤけたリーディーが、背中に隠していた中華麺を僕の目の前に出してきた。


 いたずら好きで、いつも笑顔のリーディー。

 僕の大好きなリーディー。

 そんなリーディーに伝えたいこと、それは——


 「みそ味! バターコーンで!」

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