選ばれなかった可能性の物語。
「今回の全生命適正調査において選ばれた皆様、おめでとうございます。栄えある七年祭の時期候補たる14組には、これより7年間の間に最適な関係を築き上げていただき、アダムとイブになっていただきます」
魚類科のウが特別に設営された壇上において、魚類用プラットホームに満たされた水の中から話しかける。ウの言葉はもちろん自動翻訳器を通し、拡声装置によって伝えられている。独特な振動音も合わさり、魚類の声が苦手な生物は多い。
「繰り返します。これより7年間の間に、完璧かつ完全な関係を築き、アダムとイブになっていただきます」
遥か昔、人類の弛まぬ探究心の果て、可能性の紋が開いた。
その紋は選ばれることがなかった選択が放つエネルギーの塊。それは地球上で発見されたどのエネルギー物質をも上回る高効率かつ無限にも等しい供給力があり、人類はそのエネルギーを使いこなし無謀とされていた数々の業績を成し遂げた。
食糧問題の恒久的な解決、労働の全自動化、超高高度医療の無償化、拡張された仮想現実の保管などなど。人類は選択肢の放棄によって無限の栄華を極めようとしていた。
その間、わずか7年。
可能性の紋が開かれてから7年の後、人類を含む全生命体は99%が消滅。地球上に残された1%は完全に自立を果たした技術を使い、なんとか生きながらえることができた。
これが約2000年前の史実である。当時の映像は今でも七年祭で上映されていて、戒めを刻み続けている。
だが、人類も諦めが悪い。残った生命に人工的進化を促し、可能性の紋が開く原因を究明、解決方法を模索し続けた。結果、ここ数世紀にいたっては可能性の紋による被害を本当に最小限に抑えるまでに至っていた。