5、眠らせてはくれません
アルが連れてきてくれたのは、広すぎない可愛らしい内装のお部屋だった、私の好みの家具が置かれている。
「お前はこういう感じが好きだろうシンプルでピンクっぽい、俺が揃えたんだ」
その説明はどうだろう。まあいい確かに私をよく分かっている、このベッドなんて真っ白なシーツにレースが少しついていて、私が使っていたものとそっくり、いやそっくりとかいうレベルじゃない同じものだ。
「あの、これって。」
「気付いたか、そうだお前が使っていたものと同じものを買ったんだ。他もお前の世界で買ったものだ。」
「やいストーカーこっちに来ないでなんで部屋で使っていたものまで知ってるのよ。それに前の世界に簡単に行けるみたいな言い方だけど。」
「ストーカーではない運命の恋人は全て知る必要があるんだ。世界線が近いからな元の世界に戻れるぞ、戻りたかったら言えよ、俺は結婚を無理強いはしない。ただとんでもない魔力を使う、俺だけなら月1回は行けるがお前は20年はこっちに戻ってこれなくなるな。それに結界は2度とはれなくなるだろう、だからよく考えてくれ。」
「そうなんですか、分かりました。じゃあおやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。俺は隣の部屋だから何かあったら叫べよ、飛んでくるから。」
そう言ってアルは部屋から出て行った、私のことどこまで知っているのだろう、駄目だあまり深く考えるのはやめにしよう。お風呂がついているのでお風呂に入ってから眠ろう。
シャワーを浴びながら泉の決まりについて考えていた、すぐに戻れる環境だからこそ、結婚という約束でこの世界から元の世界に戻らないようにする必要があったのか。
「好きという気持ちだけで、元の世界じゃなくてこの世界を選んできたのか、先代の召喚された人たちは。」
「百合は変なことに巻き込まれるよね、僕いっつも大変やねんで。」
「そうよねって、きゃー今度は何誰?」
百合とは私の名前だ。お風呂の中に誰かいる。
「きゃーて僕の声聞こえてるん?今まで聞こえてなかったのになんでやろ。」
「なんだどうしたんだ、無事か。」
今度はアルがいきなりお風呂に現れた。
「ぎゃー入ってくんな変態野郎。」
……
「助けにきたのに、平手打ちなんて。」
アルの頬にはきれいな紅葉ができている、肌が白いので余計にはえる少し申し訳ない。でもお風呂場にいきなりワープしてくるなんて本当に魔法使いなんだと今更実感した、この人の飛んでくるは比喩じゃないんだ。
「なかなか似合うでにーちゃん。」
そしてお風呂場に急に現れた関西弁の正体は柴犬だった、丸い顔の方の。これもアルの仕業かと思いアルの方に視線をやると、アルもびっくりしている。
「すみません、犬なのに何故喋れるんですか。」
「おい、お前1番気になるところはそれじゃないだろう。」
「犬の形をしているだけで犬ちゃうからな、僕は守護霊みたいなもんや、だから姿は変えられるで。」
そう言って私が1番好きな俳優さんに変わった。
「百合はこんな感じが好きやったよね。」
声も変わっている、少しぽーっとしてしまう。
「百合、そろそろ寝よか。」
と手を引かれますますぽーっとしてしまう。だめだ流されては、何よりアルの視線が怖い。先ほどからつま先が凍るのではないかという位寒い、もしかして嫉妬している?
「お前何者だ。」
アルが私の腕を掴みさっと引き離すと今まで聞いたことのない声をだした。向こうは特に気にするでもなく、
「僕の名前は藤、この子の守護霊みたいなもん。さっきから言うてるやん。僕は百合が生まれたときから一緒にいる、なんやったら1番近くで守ってきたし、ぽっとでの君よりな。でも見えるようになったのは僕も分からん、この世界の空気がそうさせるのかも、元いた世界の時より力強なってるし。そうや百合ごめんな、百合の両親守れんで僕は君を守ることしかできひんかってん。」
藤はひざまずいて私の手をにぎり許しをこうように見上げた、藤のせいではないそれは分かっている。私は藤の手をそっとひっぱり立ち上がらせた。
「あの事故は藤のせいではありません。でもありがとう。」
「ありがとう、よかった。それにしても最近、百合を死なさないようにするのは大変やったで、気を抜いたらすぐに百合に死がすり寄ってくるんやから。」
迷惑をかけたようだ、申し訳ない。
「いいけどな、僕は百合を守るために生まれたんやから。」
そっかありがとうって、口にだしてたっけ。
「百合とは一心同体やからね、心の声が聞こえるんや。だから僕に嘘は吐かれへんね。」
わお、なんとまあ厄介だ。それにしてもここまで話してもアルは手を離してくれない寒さは和らいだがこっちも厄介だ。
藤は仕方ないとでもいうようにため息を吐いて柴犬に戻った。
「ほら、これでええやろ魔法使いさん。嫉妬に狂う男は嫌われるで。」
嫌われるという言葉に体がピクッとなったがアルは私の腕をはなしてはくれなかった。
「男の姿に変われること、こいつに触れられることを見たのに、はいそうですかと部屋に戻れるか、こいつは俺のものだぞ。」
「ねえ、本当の姿はどんな感じなの。」
藤は一瞬光りすぐに姿を変えた、そこにいたのは白髪で赤い瞳の背の高いお兄さんだった。これで藤って。完全に日本人ではない、でもかっこいい。
「心の声聞こえてるからね、僕傷ついてるからね。まあ褒めてくれたから許すけど。」
ありがとう、好き。なんとなくだけど藤はいつも傍にいた気がする。
「百合、僕も好きやで。ずっと一緒にいるからそう思うのかも、ここにいるよー、百合は1人ちゃうよーっていつも念を送ってたから。」
優しく私の前髪をかき上げておでこにキスをしてくれる、絶対に日本人ではない。
「おい、俺を無視するな、勝手に触るな。」
と言ってアルは私を抱き寄せる。
「いや君より付き合い長いからね、僕と百合は。君よりもっと知ってるよ。お風呂でどこから洗うか教えたろうか。」
「教えてくれ。」
「あかんな、僕だけの秘密や。なあ百合。」
な、なんでお風呂のことまで。
「だから、守護霊やからどこでも一緒や。なんかあったら困るからな。」
「分からないけど分かった、私とにかく今は寝たい。全てが夢であって欲しい。」
「じゃあ僕も一緒に寝よ。」
そう言って柴犬の姿に戻った、何故急にわんちゃんに。
「そのままやとでかいから邪魔やし百合は犬派やし、隣で寝るにはこの大きさがちょうどいいねん。」
可愛い。柴犬が関西弁で笑いかけている撫でたい、もふもふしたい。
「ええよ。百合なら撫でても。」
足にすりすりしてくるのでそっと撫でる。やわらかいふかふかとした毛の部分とつるつるの毛の部分がある。夢中になって撫でていると。
アルは呆れたように、
「もういい早く寝ろ何かあったら叫べよ、こいつに変なことはするなよ。」
と念を押して部屋から出て行った。




