30、病魔の元へ行きましょう
朝までぐっすり眠ったのは久しぶりだった。この部屋の再現度は素晴らしい。アルにお礼を言っておこう。そう考えていると勝手に扉が開いた。
「百合起きているか?」
「アル、私が着替えてるとか考えられないの?」
「まあもう何度か見てるしな。」
「えっ。なっ。もういいや。この部屋ありがとう。昨日はぐっすり眠れた。」
「ああ、運命の恋人だからな。気にするな。お前の為なら何でもしてやりたいんだ。お前を愛してるんだそれを利用してもいいんだぞ。もっとわがままを言ってもいいくらいだ。」
そう言ったアルは優しい顔をしていて、私の頬に大切そうに触れる。ああこの人は私のことが好きなのか、と客観的に思った途端恥ずかしくなって顔が熱くなるのが分かる。
「百合はうぶだな。」
私の心を知ってか知らずかそんな事を言ってくるアルを少し小突きながら私は質問した。
「ブレスレットの加護何か分かった?」
「ああ、それで来たんだ。2つ付いている。1つは相手の言葉が嘘か真実か分かる。ブレスレットが反応を示す。」
「えっなんだか怖いね。もう1つは?」
「分からないんだ。どれ程金をつんだんだ?とんでもない強い魔法がかかっているぞ。」
「とんでもない大金を出しました。リリアに良いものをあげたくて。」
てへっと言うとアルは呆れた顔でため息をつき私の腕にブレスレットをつけてくれた。
「ああすまん厳密に言えば3つだな。お前のにも何からも守る力がついているな。」
「あのおじ様いい人だわ。」
「そうだな。さあ朝食を食いに行こう。今日は俺の行きつけだ。」
そう言って連れて行かれたのは、ドーナツ屋さんだった。
「俺は甘いものが好きだ。それと紅茶とを合わせるのが好きだ。知ってたか?」
「いいえ、知らなかった。」
「なあ俺の事をもっと知ってくれないか?俺はお前をずっと見てきたけど、お前の口から聞きたいんだ。色んな事を。」
「アル…。分かった。」
「お前は何が好きなんだ?」
「私も甘いものが好き。紅茶も好き。」
「まあ正直、お前のを見て好きになったんだ。他には?」
「うーん、お酒は得意じゃないから飲まないかな。後、騒がしい場所も苦手。それに人も苦手。未だに怖いの。大切な人を失うのが。」
「俺はこの世界で1番強いし賢いんだ。お前が悲しむ事は絶対にしない。」
「ありがとう。アルの事を信じてる。」
「ああ。今日は出発だな。すぐにつくぞ3時間もない。」
「うん。分かった。」
私たちはゆっくりドーナツと紅茶を味わいお店を出た。
部屋の前で藤が待っていた。
「お前は忠犬か何かか?」
アルが嫌みを言うといつもなら何か返すであろう藤が何も言わなかった。何も言わず私をじっと見ている。
「じゃあ一時間後に。」
それだけ言ってアルは私たちを残して行ってしまった。
「百合ちゃんほんまに行くん?」
「行くよ。ここがメインでしょ。」
「そっか、分かった。僕も行く。」
そう言って藤は準備を手伝ってくれる。病魔は近く、帰りは魔法具で帰って来られるので軽装だ。着替えも一応と考え一着だけにした。
王夫妻に見送られながら城もとい研究所をあとにした。
数時間でついたそこは割と現代風の建物だった。神殿みたいなとこかと思っていたのに。そう考えていると中には部屋程の大きな金庫があった。
「ここのセキュリティはこの国で1番堅いんだ。俺は鍵を持っているが。代々結界をはるものが受け継ぐんだ。」
そう言って何もない空間から鍵を取り出した。幾重もの分厚い扉を開けると中にいたのは少年だった。
「えっ彼が病魔?」
「百合はこれが人に見えるのか?俺には黒いもやにしか見えない。」
アルは真剣な面持ちで私に話す。私には高校生位の真っ黒な鷲のような翼が生えた男の子に見えた。眠っているように見える。藤はここに来る前からずっと黙っている。
「やあ、君は私が見えるのだろう?少し話さないか?」
私はびっくりして病魔の方を見た。いつの間にか目を開けてこちらを見ていた。
「えっあっはい。」
「百合どうしたんだ?」
「病魔さんが話かけてきたの。」
「何だと。危険か?帰るか?」
アルは帰り支度を始める。
「ちょっと待って話してみるから、ここに居てくれない?」
「そうだ、アルヴィン・シューベル、君もここにいればいい。そこの藤君も。」
「アルヴィン・シューベル、君もここにいればいいって、藤君もって。」
「なんだと!百合あまり近付くな!こんなこと今までないぞ!聞いたことがない、百合やめよう、帰るぞ!」
アルは強い口調で私に言う。
「大丈夫だ。この結界がある限り私は君たちに何もできぬ。」
「この結界がある限り私は何もできないって。」
「それにそのブレスレット、それにはさすがの私も欺くことはできぬ。」
「それにブレスレットを欺けないって。」
「だが……分かった少しだけだ。」
アルの許しを得て私と病魔は話し始めた。




