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27、黄の国です


 黄の国へは3日程で着いた。赤の国を出て進むと岩が消え、高い木々も少なくなり、段々と花畑が多くなり辺り一面の花畑を進むことになった。見晴らしもよく遠い場所からでも黄の国が見え始めた。今まで行った国の中では小さめで国というよりは里という方が近い気がする。黄の国に入ると姿は見えないけどそこかしこから囁くような笑い声が風に紛れて聞こえている。今までで1番綺麗な国だ。


「珍しいわ、旅の方?」


 籠いっぱいの花をもった朗らかなお姉さんが話しかけてくれる。


「そうです。泊まれる所をご存知ですか?」


「ええ、唯一のホテルがあるわ。あそこよ。」


 そういって指を指した場所にはアパートのようなものが建っていた。お礼を言ってホテルを目指した。ホテルは木の温もりを感じる内装で明るく窓の大きな部屋に通された。窓からは一面の花畑が見えている。私は1人部屋を寂しく思いながら荷をほどいた。


「お客様、この地区の外れにある屋敷には近寄っては行けませんよ。なんだか怪しい研究をしている女が住み着いているんです。」


 先程まで名所の話をしていたのに急に顔色を変えてホテルの方が話始めた。


「研究ですか?」


「ええ、なんだか血を吸う衝動を抑える研究ですって。」


「血を吸う衝動を抑える?」


 どこかで聞いた話だ。


「ええ、まあとにかく近付かないほうが身のためです。妖精が悪堕ちしかけてるって言ってますので。」


 そう言ってホテルの方が部屋を出て行った。血を吸う衝動って。まさかね。



「うん、僕の事かも。僕の村はここから遠くはない。」


 夕食の時思い切ってカート君に話をふるとそう返された。


「他の人かもしれないけど一応会ってみたいな。」


「じゃあ明日の朝、全員で行くか。」


 珍しくアルが話に入ってきた。いつもなら黙って聞いているのに。


「じゃあ決まりやね。」


 明日の待ち合わせをして、それぞれの部屋に戻った。

 でも何故そんなピンポイントで研究をしているんだろう。血を吸う衝動ってカート君意外にも居るんだろうか?突発的になるものなのだろうか?考えても仕方がないので1人眠りについた。



 屋敷はホテルのすぐ近くでこの辺りだけ異様に暗い花ばかり咲いていた。


「すみませーん!」


 私は扉の前で叫んだ。家の中で音がするので誰かはいるようだ。でも何度声をかけても出てきてくれる気配がなかった。私、藤、アルと声をかけカート君が声をかけた時走って階段を駆け下りてくる音がして扉が開いた。


「カート君?」


 やっぱりカート君を知っている。そしてカート君も彼女を知っているようだ。


「キャロル、君は。」


 カート君が何か言いかけようとしたとき彼女は大きく肩で呼吸を始め段々と呼吸の仕方がおかしくなった。


「いっ。いきが、できない。」


 この人、カート君を見て過呼吸を起こしたのか。私は彼女の背中に手を置き、


「ゆっくり自分の呼吸に意識を向けてください。吐くことを意識して。」


「くっ、苦しいのに。はく?死んでしまう。」


「呼吸は息を吐かないと新しい新鮮な空気を吸えませんよ。さあゆっくりと吐いて。」


 私は彼女の脈を確かめながらそう伝えた。異常な発汗、呼吸困難、脈もとても早いこれは多分心の病だ。もしかしてこの国の人はそれを知らないのか。それで彼女が公共の場所でパニックの症状が出ると、その光景を悪堕ちだと噂したんだろうか。

 彼女の呼吸も2、3分で落ち着き彼女自身も落ち着き始めた。


「いつもならもっと長い時間続くのに。ありがとう。あなたは医者なの?」


「いいえ。違います。どうすればいいのか知っていただけです。」


「そうですか。ありがとう。それで話を戻します。カート君ごめんなさい。私のせいであなたは村を出て行った。」


「僕は君のせいだとは思っていないよ。僕が君に噛み付いたのだから僕の責任だ。」


「でも、あなたを本当に好きだった。黙っていればよかったのに、怖くなって両親に話してしまった。」


「仕方ないよ。付き合って初めてのデートで噛んだのだから。でも1つだけあれは君が可愛くて愛おしくて噛んだんだ。殺そうとではない。」


「そっか。ありがとう。入って。聞きたい事も、言いたい事もたくさんあるの。皆さんもどうぞ。」


 そう言って中に案内してくれた。白衣を着ている女性は、どうぞ好きな所に座って、お茶を入れてきますと足早に他の部屋へ消えていった。屋敷の中は、底が抜けるのではないかと思う程の書類と本で埋め尽くされている。

 皆、口を開かなかった。カート君は辛そうに何かをこらえていて、誰も声をかけられなかった。


「お茶が入りました。」


 彼女がいれただろう紅茶は、葉っぱが浮いていたりマグカップによって濃さが変わっていて、なれていないのが伝わってきた。


「カート君あれから何年経ったか覚えてる?」


「10年かな?」


「20年よ。あなたが村を追い出されて。あなたは村中の人に暴力をふるわれ、家族からは罵られ捨てられた。あなたが傷だらけで村から出て行くのを私は見ているしかなかった。それからずっとあなたの病気を治そうと必死になって研究を続けた。時が経てばたつほど焦り始めて答えが見えなくなって、さっきみたいな事が起こるようになってしまった。前は不安と緊張で汗がでるとかだけだったのに。今は息もできないし、吐きそうだし心臓が爆発しそうになる。それでも、あなたを治したくて寝ずに研究を続けているの。感謝されたい訳じゃない。私とにかく償いたいの。あなたは魔物だと両親に言ってしまったこと。」


「僕の見た目を見て、未だに子どものようだろう。多分魔物なんだよ。」


「やめて!そんなことない!」


 彼女は叫んで否定する。彼女は15歳で俗世と離れたからなのか、喋り方も考えもどこか幼い。


「キャロル現実を見ないと。僕はきっと魔物だ。」


「じゃあ、あなたのお母様が魔物と関係をもったとでも言うの?」


「ああ、そうだろうね。母は最後まで僕と目を合わさなかった。母は金髪だったけど、父は濃い茶色の髪だった。紫の髪になんてならないよ。」


 彼女は何も言わずに涙を流し始めた。


「じゃああの衝動は?」


 消え入りそうな声で彼女が質問した。


「時間とともに減ったよ。今は誰を見てもあの衝動はわいてはこない。」


「時間ですって。私は時間に体を蝕まれた。こんな体にしたものがカート君を助けた。20年かけて、私の20年は。」


 ああこれはまずい。彼女の耳を塞がなければ。彼女を助けなければ。心とは裏腹に足が重くなり前に進まない。


「ああ、そうだ時間が全て解決してくれたんだ。君が気に病む必要はなかった。君は研究なんかせずに結婚すればよかったんだ。僕を忘れて。」


 何故それを言ったの。そういうもの全てを犠牲にした結果、彼女自身も村を出てここで人に疎まれながら研究を続けているのに。


「あはは!妖精が言ってた通りだった。私の20年は全て無意味なものだった。」


 キャロルと呼ばれた女性はただ虚空を見つめてぶつぶつとつぶやき何かと話をし始めた。


「キャロル大丈夫。僕がそばにいるよ。ずっとそばにいるからね。僕らが死ぬまで永遠に。ああ僕のせいだ。だから次は僕が償うよ。」


 カート君は笑みを浮かべながらキャロルさんを抱きしめている。キャロルさんは安心して身を預けているようだ。

 ああここは地獄だ。私はぺたりと床に座った。カート君が作った優しい地獄。彼女が20年身を削って行った研究をカート君は5分程で壊した。もうここに居たくない。私にできることはない。

 妖精だ。彼女が口にした妖精を探そう。私はここから逃げ出す口実がほしかった。

 やっぱりカート君は大人なのだ。復讐だろうか。アルも藤も一言も話さない。


「カート君、私たちは1度外へ行きます。また戻ってきますので。」


 2人の耳に届くかも分からないが、それだけ言って私たちは屋敷から逃げ出した。


「俺は妖精達の国を治めている妖精の長に会いに行く。どの妖精か分かれば連れてくる。百合と藤は人々にあの屋敷のことを聞いてまわれ。」


 アルがこんなに頼りになると思わなかった。私はまだ放心している。藤は支えてくれている。


「分かった。百合ちゃん連れて色んなとこに聞いてみるわ。あの屋敷のことと、カート君の村にことについて。」


 二手に分かれて情報収集することになった。リリアとバートさんがもう恋しい。



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