第2話 兄と弟
少年の名前は藤井 有一といった。
中学二年生にしては少し小柄だが体つきはしっかりしていた。坊主頭からしてなにかスポーツをしているのだろう。普段は活発そうな彼も怯えているのか憔悴しきった表情をしていた。
有一には小学4年生になる準という弟がいた。弟はクラスで軽いイジメに遭っていたそうだ。その日も弟の準はいつものグループに連れられて小学校の裏山でからかわれていたらしい。裏山は先生の目も届かないいじめの場になっていたのだ。
だがいじめっ子グループのひとりが山のなかでおかしなものを見つけた。山道を登った舗装されていない道の奥に真っ黒なお堂のような建物があった。
少年たちは初めて見つけたその場所に多少の怖さを感じていたが好奇心のほうが大きく躊躇いもなく皆で近づいたという。
長い間誰も訪れていなかったのだろう、そのお堂を囲むように長い草が生い茂っていた。
おい、準。中見てこいよ。
いじめっ子のリーダー格の少年がそう言った。
準は始め拒否していたがまた殴られそうになったので恐る恐る近づいたそうだ。
中どうなってるか大きな声で説明しろやー!
現場の準さーん?w
ゲラゲラ周りから野次を飛ばされながら準は扉を開いた。中は暗く、お寺のように奥のほうに祭壇のようなものがあるだけだった。
準を先に行かせて安心したのか後からぞろぞろと中に入ってくる少年たち。
祭壇には細いクローゼットのようなものが置いてあったそうだ。そして観音開きになるであろうところにはお札が貼ってあったという。
少年たちは怖がるどころか喜んだ。封じられた何かは彼等の目に非日常感を与え少年心に惹かれるものがあったに違いない。
遊びだ。悪ふざけの延長でしかなったのだ。
そして準は言われるがままお札を剥がしてしまった。
「これがそのお札です...」
久々子は有一からボロボロの紙を受け取る。なにやら沢山の字が、書いてあるが古過ぎて読めない。辛うじて天保元年と書いてあることはわかった。
「それで準くんは?」
「わからないんです...。俺が部活から帰っても家に準は戻ってなくて。また裏山だと思って行ったらいつも準に意地悪してるやつらが山から降りたところで泣いててこれを...」
有一は準がいじめられていることを知っていた。今日こそはいじめっ子どもを泣かせてやると思い行った先でのことだったので驚いたという。
「それで?」
「よくわからないんですがめなしどちが出たって言って泣いてて。それでそのグループのケンとリョウタって子が連れてかれたって言うんです。それで慌てて逃げてきたら準もいなかったらしくて。」
「...有一くん、君も見たって言ってたよね?」
「...はい。急に泣いてる奴が叫んだのであいつらが降りてきた林の上を見たら...いました。暗くてよくわからなかったんですけど白い着物を着てて、話してる俺らを見てました。」
そこからは散り散りに逃げ帰ってきたという。
「で、でもそれだけじゃないかったんです!親に言っても準なんて子は知らないと言われて!他のいなくなった子も初めからいないって!」
有一は声を荒げる。
弟の存在を認めない両親に有一は一番恐怖したという。家からは弟の私物は一切なくなり準の部屋は物置きになっていたそうだ。
「そ、それで今日になったら逃げた他のやつらもいないことになってて!た、助けてください!弟を探してください!」
有一の目から涙が溢れだした。きっと次は自分だということもわかっているのだろう。だが彼はそれでも弟を探してくれという。恐怖に耐えながら。
「わかった。落ち着いて。大丈夫。君も準君もきっと助ける。」
久々子は幼いながらも兄の目をした少年を抱き寄せた。
陽は既に山の向こうに落ち、あたりには完全な闇が迫っていた。




