表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
橘家の人人・ドゥームズデイ  作者: 佐々原廠
31/32

第三十一話「一番星」


 利根屋は、なにをしていたのか。

 米軍の只簑占領に伴い、アメリカ兵四千人分のさまざまな需要が発生した。只簑へ向かう陸送は急激に増えた。

 米軍の艦船は、越後新潟港に物資をおろし、そこからトラックで運ぶのだが、なにしろ只簑は内陸で距離があり、時間がかかる。このあたりにトラック野郎が急増したのはそのためであった。

 奉行所を追われた利根屋もみじは、実家にもどった。

 大淀が当初、呉の実家にもどろうと考えていたように、利根屋もまたそうしたのである。

 利根屋の実家は、上州にある。

 所のやくざ世界のなかではすこしは名のある一家であった。

 当時の運送業は、やくざ衆の専売稼業のようなもので、江戸時代後期になり、物流が加速すると、その規模は大きくなり続けた。

 要するに利根屋は、実家の稼業を手伝っているというわけである。

「くそっ、あのやろう……」

 只簑から越後にむけ、十二トン車を走らせている利根屋は、むかむかしていた。

 ハンドルを握る手の痛みが胸にきて、刺さるのである。

 ――大淀め、なんだってあんなところに居やがるんだ。

 大淀がおどろいたのと同様、利根屋も大淀をみて、仰天したのは言うまでもない。仲間のトラック野郎が大淀をポリとみて、袋叩きにしていた。

 どうにか助けだし、おまけに一発食らわせてやったものの……。

 ――なんか行きづらくなっちまったなあ。

 と思うと、やるせない気分になる。

 商売上、いまが稼ぎ時の只簑航路は維持しなければならない。が、行けば大淀がいる。自分以外に、十二トン車を任せられるようなドライバーのあてもない。

「もみじもみじ、応答せい応答せい。こちらとーちゃんだ」

 搭載している長距離無線が、親分であり実の父親でもある利根屋助五郎の声を吐いた。

 助五郎は、只簑航路があまりにも儲かるので、このところ新潟の温泉宿に居続けをし、司令部を設けている。

「なんだねなんだね、こちらもみじ。なんか用かよ」

「その仕事が済んだらな、新潟港の二番埠頭へ行ってくれ。車を待ってる客がいる。アメ公だ」

「おいおい、もう一度行けってのか? 勘弁しろよ」

「まあ、きついのは分かるのが、これも商売ェだ。ひとつ気張ってやってくんな。テメエはもう八時五時のお役人さんじゃねえんだぜ」

「わかってるよ、うるせえな」

「こいつはでけえ稼ぎになるんだ。フツーの相場の二倍、いや三倍にはならあな。おめえしか頼めるのがいねえんだ。な、宜しく頼むぜ」

 利根屋は、だまった。目つきが、鋭くかわる。

「親父、そりゃ一体どういう荷なんだね」









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ