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無口のベース

作者: 膝野サラ

無口のあの子は今日もベースを弾いている。

そして僕もベースを弾いている。



今日は休日という事もあってか、

他の部員はおらず僕とあの子の二人だけだ。

あの子は全く喋らず僕もあまり喋らない方の為、

狭い部室には窓に打ち付ける強い雨の音と、

二本のベースの音だけが響き渡っている。



しばらくするとその女の子は僕の方を見つめていた。

どこか分からない部分があったのだろう。

「どうしました?」と聴くと、

女の子は分からない部分の楽譜を指差した。

僕が自分のベースでその部分の弾き方を教えると、

頭を深めに下げ再びベースを弾きだした。





その無口の女の子は一つ後輩であり、

ベースはまだ始めたばかりだ。

分からない部分があると声は発さず、

今みたいに僕の方を見つめてくるのだ。

僕がベースに集中していたりしてしばらく気づかないと、

たまに肩をトントンと叩いくる事もある。

やはりあまりコミュニケーションが得意ではないらしい。

まあコミュニケーションに関して言えば、

僕も苦手な方ではあるのだが。



僕は小さな体で大きなベースを頑張って弾いている、

あの子の様子に少し可愛くも感じていた。





しばらくベースを弾いていると、

喉が渇いたので小さなペットボトルに手をやると、

水が全て無くなってしまっていた。

空になったペットボトルを部室内のゴミ箱に捨て、

「少し飲み物を買って来ますね」

と女の子に声をかけ部室から出ようとした時だった。



女の子は僕の腕を掴み、

振り向いた僕の顔をチラチラと見ながら、

おどおどしていた。

少し驚きながらもまた「どうしました?」と訊くと、

肩までに真っ直ぐに伸びた綺麗な黒い髪の先を、

指で少しいじりながら、

また少しおどおどしながら女の子は、

「わ、私も、行きます...」

小さな声でそう呟いた。



久しぶりに聞いた女の子の声は、

か弱いという言葉があまりにも似合い、

しかし声のトーンは高く可愛らしい声だった。



そして女の子と部室を出て階段を下り、

学校内にある自動販売機に向かった。



道中、以前に聞いた女の子の声を思い返した。

前に僕がこの女の子の声を聞いたのは、

女の子が入部してきて少しくらいの時だった。

あの時も部室には僕と女の子の二人だけだった。



あの日は今日とは違い平日の放課後だった。

二人で別々にベースを弾いていた。

ふとその女の子の方に目をやると、

女の子もこちらを見ており目があった。

するとその女の子はすぐに目を逸らし、

僕も目を逸らし再びベースに手をかけようとした時だった。


「あ、か、かっこいいですね...」


急なその言葉に少し驚きつつ僕が訊き返すと、


「そ、その、ベース...」


最初僕自身の事を言っているのかと勘違いした自分を、

少し嘲笑いながらも、

ベースをかっこいいと言われたのは普通に嬉しかったので、

「ありがとうございます、まあ安いのですが。」

と慣れない笑顔で返した。



すると女の子と僕は再び別々にベースを弾きだした。

あの時の女の子の声もまたか弱くでも高く、

可愛らしい声だった事を思い出した。





外に出ると既に雨は止んでいた。

水たまりがまだ残る運動場では、

野球部が汗を流し土や泥でユニフォームを汚し、

必死に練習をしていた。

蒸し暑さが漂う中、自動販売機に小銭を入れ、

よく冷えたペットボトルのコーラを買った。



もう一度小銭を入れ、

「どれを買いますか?」と女の子に訊くと、

女の子は少し戸惑っていたので、

「大丈夫ですよ、これくらい奢りますよ」

と微笑みかけると女の子は遠慮しつつも、

頭をコクリと下げ小さな声で、

「あ、ありがとうございます。」と言った後、

少しの間迷った末に僕と同じ、

よく冷えたペットボトルのコーラを買った。



階段を上がり三階の部室に戻った。

そして再びお互いにベースの練習を始めた。

そこからしばらくずっとベースを弾き続けていた。



しばらく弾き続けていると、

肩をトントンと優しく叩かれ振り向くと女の子が、

少し困ったような顔で僕の顔と楽譜を交互に見ていた。

「どこが分かりませんか?」と僕が訊くと、

先程と同じく分からない部分の楽譜を指でなぞった。

そして僕が弾き方を教えたのだが、

どうしても分からないらしいので、

隣同士で一緒に弾いてみる事にした。



僕のベースに少し遅れながらも女の子は隣で、

必死に僕のベースと楽譜を目で追いながら、

小柄な体でベースを弾いていた。

その後何度かゆっくりと一緒に弾き続けていると、

なんとなくではあるが女の子も弾けるようになってきた。

すると女の子は僕の顔を見つめて少し微笑んだ。



いつも殆ど表情を変えない女の子のその自然な微笑みは、

言葉では表せない程に可愛く綺麗で、

ただただ愛おしかった。

ずっと眺めていたいとそう思った。





そこからは先程の女の子の微笑みを思い出し、

思い浮かべながら自分のベースを弾いたり、

女の子のベースを弾く姿を眺めたり、

そのベースの低く心地良い音を聴いたりしていた。





いつの間にか夕方になっていた。

そろそろ帰らないとなと思い、

ベースを置き女の子の方を見ると、

女の子も少し休憩しながら、

ベースを置いて片付けようとしていたので、

僕も片付ける前に少し休憩しようと体勢を少し横にやり、

先程買ったペットボトルのコーラに、

手をかけたその時だった。





隣で僕の肩に何かが乗った感触がした。

ゆっくりと振り向くとそこには女の子の顔があった。

よく見てみると女の子は眠っていた。

ベースを弾き続けていたので疲れていたのだろう。



僕はかなり驚き戸惑いつつも、

コーラにかけていた手を離し体勢を戻した。









窓に差し込む夕日に照らされた女の子の小さな寝顔は、

それはそれは綺麗でしばらくの間眺めていた。





そろそろ帰らないといけないなと分かりつつ、

もうしばらくはこうしておきたいとそう思った。

ご読了ありがとうございました。m(_ _)m

ここ最近リアルの方が中々忙しいので、

全然書けずというか思いつく事もなく、

思いついて書いてても途中で断念したりと、

全く投稿が出来ておらず、

一年続けていた月一以上更新も、

途絶えてしまいましたが、

なんとか書く事が出来ました。

理想の夏のお話です。

最近私がベースを購入しましたので、

ベースの登場する作品を書かせて頂きました。

まあまだ一、二曲程しか弾けませんが。

相変わらずリアルは退屈ですが、

退屈を脱出する努力をしている最中です。

これからも更新頻度はどうなるか分かりませんが、

読んで頂けるとありがたいです。

平成最後の夏くらいは青春をしてみたいものです。

長々と失礼致しました。



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