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9.謎の女と俺と

「なぁ、オッド、心の声が聞こえる様にするやつ、今日試したいんだけど。」


「後々も会う者には使わないのが条件だが?」


「わーってるって。だからなんか発動条件とか時間制限つけてくれるといいな、なんて。」


「何故だ?」


「今夜会う女に使う。多分二度と会うことはないと思うから、そいつで試す。本当は催淫も練習したいんだけど、一気にやったらヤバそうだよな?」


「ふむ…。」


オッドは目を細めた。暮らしはじめてかれこれ1週間ほどだが、考えている時はこうなるらしい。オッドの器が雌なためなのか俺はオッドのことがなんとなくわかる様になったようだ…猫としては好みのタイプだからな…俺ってば、守備範囲広すぎ。


「では発動条件を決めて、そこから催淫も発動する様にすれば良い。催淫は我のところまで帰るまで切れぬ。心の声は…そうだな、主たちが言う時間で5分もあれば十分だろう。」


「5分か。短いが…。」


「主を納得させるためだから試せるのだぞ?」


「へぇ、へぇ。その5分、ありがたく使わせてもらうよ。」


俺はうへぇと言う顔をして言うと、オッドは俺の足のあたりで爪を立てた。


「いってぇ!」


「今のは主が悪いぞ。」


「スイマセンッシタ!」


どうやら気を悪くしたらしい。そして、俺たちは発動条件を決めた。気づけばもう会社へと出勤する時間だった。


「うっし。行くかー。オッド、行ってくる。」


俺はいつも通り、オッドの頭を撫でた。


「主、気をつけろよ。」


オッドはいつもと違い、心配そうに俺を見て言った。こいつも不安そうな顔などするのかそう思って家を出た。後にオッドの心配は的中したことが分かるのだが、心配の質が異なるものだということをこの時の俺たちは知る由もなかった。




マスクの女との約束は繁華街のビジネスホテルだった。仕事が終わってから俺はその一室に向かった。


「お待ちしてました。」


女はマスクをしたまま慇懃無礼に言う。俺はオッドと事前に打ち合わせていた発動条件、パチンと指を鳴らした。これにしたのは普段することなどない動作、しかしやる人はやるもの。これならまだ不自然ではないと思ったからだ。


【何こいつ指鳴らしてるの?イケメンでもないのに。】


早速聞こえた心の声に心を折られそうになる。思わず眉間に手を当てると女の頭にはハテナが浮かんだが、構わず続けた。


「今日はですね、あなたが契約しているものの話をしに来たのです。」


こいつ…俺のことも、オッドのことも知ってる。何者なんだ。やっぱり心の声が聞こえる状態で来て良かったかも。


「俺のことは知ってるなら、自分も名乗るのが筋じゃねぇ?」


俺は女を睨んで言った。


【はぅ!なんだかクラっとしました…。フツメンなのに。】


催淫は効いている様だけど、すっげー、やな感じ!


「私はあなたがたとは相反する存在とだけ言っておきましょうか…。」


【決まりましたわ!さすがワタクシ!】


うん、やっぱり心の声が聞こえるって面倒かも。知らぬが仏っていう言葉はマジだな。聞きたいことを聞くのに5分で足りるかな。


「で、俺をどうしたいわけ?」


「あなたをどうこうしたいわけではありませんが、今あなたが契約をしている者に力を与えるわけには行かないのです。ですからあなたには、契約を破棄して頂きたいのです。」


「は?破棄はできないはずだが?」


「出来るはずですよ?破棄すると宣言すれば。」


【あなたは死にますけどね。クラクラしますが、フツメンですし。惜しくありませんわ。】


何が惜しくねぇだよ!俺の命はどうでもいいってか。俺は平静を装う。俺も器用になったもんだ。前はこんな小細工できなかったのにな。


「そうかい。ところで、なんで契約してる者に力を与えるのがマズイわけ?契約してる身としては知っておきたい。」


俺は吐き捨てる様な声が出てしまう。しかし、女の目は笑っている様な形をしたまま続けた。


「ええ。あの者は運命を乱します。秩序が崩れるのです。」


【乱されること自体は困らないけど。彼の方に愛されている者の運命が変わるのが困るだけなんだけど!彼の方は気まぐれだから、仕事が増えるし、やなのよ。】


口ではもっともらしいこと言って、腹ん中は違うじゃねぇか。自分が面倒なだけじゃん。とりあえず、心が読めるうちに聞けることは全部聞いておこう。


「俺が破棄するのは嫌だと言ったら?」


「それは仕方ありません。諦めます。話は以上です。」


【破棄させるのは諦めて、あとでひっそりと処分っと。】


マジか。これは厄介だな。このままだとすぐ死ぬことになるな、俺…とりあえずこの女をどうにかしないと。うん!よし!面倒だ。よろしく、オートモード!そう思って俺は全てお任せした。女は俺に背を向けたのだが、俺はぐっと腕をとり、無理にこちらを向かせて壁ドン。そして、耳元で囁く。


「本当にそれだけでいいの?」


「何がです…?」


【はぅ…。仮の身体が反応しているだけですわ…。気にしてはダメ。相手はフツメンですよ!】


いちいち腹たつなぁ、フツメン、フツメンって!どーせイケメンじゃないわ!…早く5分過ぎねぇかな。依然壁ドン体勢のまま俺は続けた。


「仮の身体の欲望に身を任せてみたら?」


「あぅぅ…」


【欲望に負けてはダメ!趣味のイケメン観察が!タツキのことが見られなくなる!】


俺は自分でも悪魔的な笑みだとわかるほどニヤリと嗤った


「タツキさんがいいんだ…。」


「何故さっきから…。」


「彼の方に仕えるのなどやめてしまえばいい。そうすれば、気がすむまでタツキさんのそばに居られる。」


【まさか心が読まれている…?】


「ご名答。正解者にはご褒美。」


俺はまたもや悪魔的に嗤うと、女のマスクをズラし、無理やりに深くキスをする。女の顔は中性的でいくつにでも見える不思議な顔だった。決してブサイクではないのだか、綺麗でもない。実態がない顔といえばいいのだろうか。女は拒絶して顔を横に逸らす。


「このまま欲に溺れれば、タツキさんともこんなことができる。もっと先だって…」


俺はそう言うと女の逸らした顔を手で無理やりに正面に向かせるとまた無理やりにキスをした。


【あぁぁ。いけません…】


途端に白い羽根が舞い散り消えて行った。女は俺に応えるように舌を這わしたが、突如力が抜け、どさりと倒れ込んだ。顔は先ほどの印象とは違い、実態のない顔ではなく、20代の地味目女子が倒れて居た。俺はよくわからないまま、先ほどのキスの感触だけが残っていた。俺はご丁寧に女の子をベッドに寝かせてから、部屋を後にする。顔は守備範囲内だったけど、気絶している女子を襲うほど、俺は鬼畜じゃないのだよ。

ホテルを後にする際、色々あり過ぎて催淫の練習中であることをすっかり忘れて声を出し、掃除のおばちゃんから熱視線を浴びたのは言うまでもない。







「ただいま。オッド、催淫切っといてくれ。結局練習できなかったわ。」


無事に家に帰り着いた俺はオッドに言う。


「む、主。早かったと言うべきか、遅かったと言うべきか…。」


なんだか歯切れの悪いオッド。今日はベッドにお行儀よく座って待っていた。


「なんだ?なんかあったのか?」


「なにかあったのは主の方であろう?」


「そうだけど、なんで知ってるんだ?」


「先ほどから羽虫がうるさいのだ。」


「羽虫…?」


「まあ、いい。主の口から聞きたい。」


なんだか彼女の様な台詞をオッドが言ったので、 ビジネスホテルの一室であった出来事を聞かせる。 オッドは時にふむふむと頷く様に時に目を細めて俺の話を聞いていた。その様子はよく動画サイトで新聞を読む猫とかいうタイトルで上げられている動画みたいだった。今日、俺は殺されかけたはずで、こんなに和みながら話す内容ではないはずだが。


「主…。自身が何をしたのか分かっているか?」


「いーや!」


俺は首を力強くブンブンと横に振った。


「主は其奴を堕天させた。我の様な存在を作り出したのだ。」


「は?!」


堕天ってことは…さっきの女は天使…?天使ってあんな腹黒なのか?そうなると彼の方っていうのは…。怖いから考えるのやめたくなってきたぞ。それで、オッドは…堕天使…やっぱり悪魔か。


「何やら妨害が入っている様には感じていたのだが、我の前には現れず、苦労しておったのだ。主の方をどうにかしようとしてた様だな。」


「あのさ…オッド。質問なんだけど。さっきのヤツだ天使だったとしたら、天使ってあんな嘘つきなのか?」


「…………本人に聞くがいい。さっきからうるさくてかなわん。」


オッドは欠伸をすると、何やら声が聞こえる。


「さっきから話掛けてるのになんで聞こえないのよ!心の声聞こえるんじゃないの?!私は嘘つきなんかじゃないわよ!!」


さっきの女の声だった。5分過ぎたから聞こえないなんてこの女は知らないもんな。オッドが聞こえる様にした様だ。


「今は聞こえるが、嘘つきじゃないってどういうことだよ?散々だったぞ?お前の心の声。」


俺はスーツのままオッドと話ていたため、着替えをしながら女の声に応対する。


「ただ大事な事を言わなかっただけで、嘘は言ってません!」


「ふむ。其奴らは嘘は言えんはずだから、大事なことは隠す。我には隠しだてできぬがな。それに其奴は元々堕天しかかってたようだが。」


「一歩手前で…俺が背中を押した?」


「多分そうであろう。ただ、そのあと一歩がなかなか堕ちぬのだが。主はなかなか才能がある様だな。」


オッドは弾んだ声で言ったが、俺は嬉しくないよ…。悪魔の才能って。それに。


「俺の能力使っただけだぞ。」


「ふむ、そうであるが、しっかり使いこなしている様だ。その分だと『甘言』も使えておるな。」


なんか能力増えてねぇ?オッドが片方の目だけ見開きピクリとし、口を開き掛けたが、女の声で中断される。


「ちょっと!私を放って置かないでよ!!」


「そういやぁ、コイツ今どういう状態?」


「受肉しておらんから、主の周りを羽虫の様に飛び回っておるぞ。」


だから羽虫か…。


「俺とりあえず風呂入りたいから、コイツの声切っといてくれねぇ?どうせ身体もフツメンですわとかいうだろうから。」


「ふむ、何やら気配を感じたから聞こえる様にしていたが、我も耳がキンキンしてかなわん。遮断しておくことにしよう。」


「ちょ…!!」


女の声は途切れて消えた。俺はため息を吐いてから、


「風呂入ってくるからちょっと待ってな?」


そう言ってオッドの頭を撫でる。


「あぁ。続きは後で話そう。」


オッドは気持ち良さそうに目を細めて言うのだった。



読んでくださってありがとうございます!

風呂敷畳まないことが決まって、書いたらこんな話に…あと残り6話で済まない予感もうっすらします。

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