7.心のモヤモヤ
モヤモヤって打とうとしてもやしって出た件。心のもやしって!
「ねぇ…いいよ?」
ゆーちゃんは俺のベッドに寝そべっている。俺はゆーちゃんにキスをして…
というところで目が覚めた。
「夢かよっ!」
思わず突っ込む。あー、朝だねぇ。どこにもぶつけられないモヤモヤを抱えてベッドでゴロゴロとしていると、オッドがトテトテとやって来る。
「主?飯はまだか。」
「あ、オッド。ちょーと待って頂けると…?」
その台詞無視するかのように、幻惑でゆーちゃんの姿になってベッドに上がるオッド。俺を押し倒したような体勢でオッドは挑発的に言う。
「早くしてくれ。飢えている。」
「…少し言葉を選んでくれ…。別の言い方もあっただろうよ?あとその姿でその声ナシな?」
声がゆーちゃんだったら…などと色々モヤモヤしながらベッドがら起き上がり、猫缶を開ける。オッドは幻惑を解いておすわりをして待っていた。
「オッド、色々聞きたいことがあったんだが、どうして昨日いなかったんだ?」
昨日帰ったらオッドはいなかった。聞きたいことやお願いしたいことがあったのに。急に消えてしまったので、実はかなり焦った。オッド自体が夢で、ここ数日の事も全て夢だったのではないかと思いながら俺は眠ったのだった。
「む?昨日少し気になることがあってな…。少々弊害が出ているようだ。主を満足させる為、必要なことをしに。とだけ言っておく。」
何か思案している顔なのだろうか、目を細めてオッドは言うが、猫なので眠そうにしか見えない。にしても俺を満足させる為って…妙に真面目なんだよなぁ。この猫。
「それで?聞きたいこととは?」
猫缶の中身を食みながら、オッドは聞く。
「あぁ。おまえのことが管理人さんにバレそうだ。バレたら追い出されて、家がなくなる。」
「主の能力でなんとかなろう?何と言っても我の力が使えるのだから。」
「なんともならねぇだろ。」
「いや、なるはずであるぞ。では次。」
解決してねぇよ…。でもオッドの中では解決してしまったらしく、この話はおしまいにされてしまった。オッドを追い出せば解決なんだろうけど…それはしたくない。俺の能力でなんとかできるならしてみよう。そう無理やり納得して、次の質問をする。
「次…最近身体の感じが変わったって言うか…運動神経以外も、色々10代並みっていうか…。これもリミッター緩めたせいか?」
「む?良いことなのではないのか?」
「おまえのいう発情ってやつが、今は色々問題があるんだが?」
「そうなのか?雄として優れているという証ではないか。それに、主を満足させるには必須な能力だ。」
「もしかして…俺の願いが…」
「ハーレムを作るのであろう?」
俺は思わず頭を抱えた。スイッチが入りやすいのはそのせいかよ!
「あー、オッドさん、まだ相手もいないので困るんですが?」
「む?その点についても安心しろ。では次。」
…全然解決しませんけど、オッドさん?俺はため息を付きながら続ける。
「…じゃあ次ね。本当に心の声が聞こえるようになったら困るのか体験してみたい。おまえは俺が満足する必要があるんだろう?お試しくらいしたい。もし、困らなければそれも常時聞こえるようにしたい。」
「ぬ、やはり主は面白いな。ただ、試すとなると今後も会うことになる者には試すな。それが条件だな。本当なら試すなど選択肢にないのだが、主の満足が我との契約であるからな、仕方もあるまい。」
やっぱり、お試し状態ではゆーちゃんには使えないってことか。今後会う事がない人っていうと難しいんだけど。どっかもう行かなそうなとこに行って……。そうだ!俺は昨日の女の事を思い出した。あの怪しい女。心の声が聞けたほうが色々問題もないし、多分今後会う事もない気がする。
「じゃあ、試したいから、あとで教えてくれ。あとな…。」
「まだあるのか?」
オッドは猫缶に満足したらしく、食後の毛づくろい中だ。足をヒョイっと持ち上げ、腹を舐めている。そこにオスの証は確かにない。
「おまえ、メスなのな?」
「…我に性別はない。器がメスなだけだ。」
「声がそれだからてっきり男だし、オスと思ってた。」
「我に生殖は必要ないからな。」
そういえば俺はオッドが何者なのか知らない。多分…っていうか絶対、悪魔的な何かだとは思うけど。喰らうとか言ってたし。俺は自分が悪魔に魂を売ったというのが確定させたくなくて、オッドに正体を聞けずにいるのだが…今、聞くべきだろうか。
「なあ、オッド。」
そう話かけるとオッドはクッションの上で丸くなって既に寝ていた。その様子は可愛らしく、猫カレンダーの表紙のようだった。これが悪魔なのかと思うとなんだか笑えてくる。ふっと息を吐いて俺は昨日のメモを出してあのマスクの女と連絡を取る事にしたのだった。
オッドが眠ってしまっているので、俺は買い物に行く事にした。餌用の皿もプラスチックのトレーだったり、トイレもないから箱に新聞紙とかでなんとかしていたけど、流石に問題があるので、ホームセンターにでも行って、まとめて猫用品を買っておうと決めた。たった2日程だが、俺はオッドのいる生活を楽しんでいる。追い出す気もない。それにお高い猫缶はコンビニではなく、そういうところの方が安い。オッドも高い猫缶がいいって言っていたし。俺は眠っているオッドの頭を撫で、
「ちょっと行ってくるな。おまえのもん買ってくるよ。」
そう言って家を出たのだった。
ホームセンターまでは少し遠いが歩いて行く。自転車がまだ来ていないからだ。今日の夕方には届くのだが、しょうがない。
「寒くなって来たな。」
そうひとりごちると、ポッケに両手を突っ込んでのんびりと歩いてホームセンターへと向かう。
「えっと…。ペットコーナー…。」
ホームセンターに到着してペットコーナーへ。餌用の皿、猫缶、トイレと猫砂…あとは…何気にあいつ猫じゃないとか言いながら、遊んでやると喜ぶからな、おもちゃも買おう。あと爪とぎもいるだろうか?ダンボールで養生してあるだけだし。それとも養生シートを買った方がいいかな。うーん。色々あって迷ってしまう。色々あって目移りしていると、猫鍋を発見した。いいな。やってみたい。でも…あの喋る猫が鍋にハマってる姿を想像して思わず吹き出してしまった。視線を感じて後ろを向くとおばちゃんが俺をみていたのだが…その視線は変なものを見るのではなく、なぜか熱っぽい視線。やだ、怖い!俺はその場から離れたくて迷ってたものをあらかたカゴに入れるとそそくさと立ち去った。なんだったんだ、アレ。
レジで精算を済まし、買ったものを持って外へ。その重さに思わず
「これ持って帰るのか…。」
思わず、呟いてため息。すると後ろから、
「乗って行く?」
振り向くと、お姉さんが手招きしている。正直、美人ではないが、愛嬌のある顔をしていた。内心は戸惑っていたのだが、足は勝手にそちらへ。
「お言葉に甘えて。」
ニコリとさわやかに笑って、車に乗り込む。
「どこまで?」
「じゃあ右で。」
なぜか家と反対方向を指示して、繁華街の方向へ車を走らせていた。しばらくしてお姉さんも何かに気が付いたらしく、
「家、こっちじゃないわよね?」
ニヤリとした顔をする。
「そのつもりで声かけたんでしょ?」
俺は表情を変えずに言ったが、俺にはわからない。どのつもり?俺もなんのつもり?俺なのに俺は置いてけぼり。心の声が聞けないからなんだかわからないし、オートモード発動中だった。
「適当でいいわよね?」
「あぁ。」
カッコよく「あぁ」とか言ってますが、なにが適当なの?でもこの建物って。もしかして。そう言うことですか?そして駐車場に入って車を止めると、お姉さんはいきなり俺にエロいキスをした。嫌でも反応する身体。いや、嫌じゃないけども。でも…いいのか?
「我慢できない?でも、続きは部屋で。ね?」
俺は脳内とは裏腹の言葉を言ってイタズラに笑うとお姉さんの手を引いて、建物の中へと歩いて行く。
「オッド!!俺は一体どうなってるんだよ!」
バタバタと部屋に帰ってきた俺は開口一番オッドに聞く。オッドは丸くなっていた身体を伸ばし、欠伸をしながら言った。
「少し能力を足しただけだが?」
「全然少しじゃないと思うんだが?!」
俺は猫に怒鳴っている。
ーーーーここに帰って来るまで大変だった。据え膳は食わぬはなんちゃら精神が働いたのと、今朝のモヤモヤもあり、俺はお姉さんを残さずいただいた。その後は、家ではなく最寄り駅まで送ってもらった。車内で別れを告げた後、駅前でおばさまの集団が目の前にいたので、退いて欲しくて
「すいません」
と声を出しただけで、周りのおばさまの団体に熱っぽい視線を送られ、おばぁちゃんらしき女性にベタベタと触られたのだったーーーーー
「どういうことなんだよ?」
俺は買ったばかりの猫グッズを持ったまま捲くし立てた。
「ぬ?それは!」
どうやら高級猫缶やマタタビオヤツがオッドの目に入ったようだ。
「説明するまではこれはやれん!」
俺は袋を持ち上げて不機嫌に言うと、オッドは俺の足に爪を立ててガリガリした。
「いてぇよ!あ、いいんだな?これはなくなっていいんだな?」
「む…。でも主よ…随分スッキリした顔をしているが…?」
「う…。でも、説明は必要だ。どうしてこうなったか知りたいんだが。それができないならコレはナシな?」
オッドはそっぽを向き、ツンとして座っていた。いちいち可愛いポーズ取りやがって!このまま猫鍋に入れて写真取りたくなるだろうが!ちくしょう!でも今はお説教中なので、やらないけども。ジッと見ているとオッドは口を開く。
「簡単なことだ。主が喋ると催淫がかかるようにした。」
「は?」
「耐性の低いものや、普段から不満を抱えてるものは主の声を聞けば嫌でも反応し、行動するようになる。安心しろ、主の好みでなければ主の能力は発動しない。あくまで主を満足させるための能力だからな。」
「あのさ、オッドさん?それはちょっと足したのレベル超えてるからね?しかも、心読めるより、そっちの方が普通に生活できないから!それに…。」
「それに?なんだ?」
「…とにかく、催淫はナシだ。ことあるごとにおばちゃんの熱っぽい視線にさらされるのは耐えられん…。美魔女ならいいが。」
俺は贅沢になってしまった悩みを心にしまい、冗談を言って誤魔化した。オッドに言うべきなのだろうけど言ったらどうなるのかわからない。とりあえず、今は言わずにおくことにして、オヤツやおもちゃを出してオッドと遊びはじめたのだった。
「オッド、これに入って丸くなれよ。」
「こうでいいのか…?」
思わず「くっ」と声が出た。中身はアレだけど、猫としては最高に可愛らしい。思わず「見て、うちの仔可愛い!」と言いたくなるのを我慢する。
「…ゆうちゃんに写真送ろう。猫鍋買いましたって。」
「我は猫ではないぞ?」
「はいはい。」
そういいながら俺はスマホを取り出したのだった。
読んでくださってありがとうございます!