4.乙女な俺とイケメンなユウちゃん
一見するとモデルのような雰囲気だった。格好はパンツスーツのようなものだったが、シンプルものでも華やかな雰囲気が醸し出されている。俺はヤマトさんに手を上げて挨拶した。
「お、驚かないんだな…。」
ちょっと残念そうなヤマトさん。
「いえ、雰囲気違ってびっくりはしてますけど?」
「いや、雰囲気じゃなくて…男だと思われてると思ってたから。」
照れくさそうにいうヤマトさんはちょっと可愛かった。男…そう思ってました…すいません。でも、俺の顔にはその様子が一切出ないらしく。
「男だなんて。素肌がキレイだなぁって思って見てたけど。」
さらっと褒める俺。さらにヤマトさんが赤くなりながら言う。
「いや、普段は化粧なんてしないんだ、でも…友人達が…男性と出かけるならしていけって…無理やりされたんだ。それで、自転車はどんなのがいいかな?」
「あー、俺は乗れれば何でも。ヤマトさんに任せます。」
「じゃあ、友人がスポーツショップをやってるんだ。そこなら運動着も買えるし。それと…私はヤマトユウリと言うんだ。その…ユウと呼んでくれないか?」
ヤマトユウリ…なんか聞いた事ある気が…。最近立て続けに店舗数を増やしてるって噂のスポーツジムってユウリなんちゃらってそんな名前だった様な…。社長は女性だったのか…ってそこじゃねぇ!その社長が俺の目の前にいて、男だと思ったら女で、しかも美人で…またユウで…俺の頭は大混乱だ。混乱しているはずなのに俺はしれっと対応していた。
「じゃあ、ユウさん、でいいのかな?でもなんか固い感じだからユウちゃんでも?」
なに言ってるの俺?!失礼じゃないの?しかも色々聞かなきゃいけない事あるんじゃないの??
「あぁ。構わないよ。じゃあ、行こうか?」
ヤマトさん、改めユウちゃんは嬉しそうな顔をして、俺に車に乗るよう促した。俺は車に乗ったが、内心は色々パニック中だ。
「ヤマトユウリって名前は聞いたことないの?」
「いえ、ありますよ?あそこの社長さんでしょう?」
「それをわかっててその態度なのか。」
少し驚いた顔をしたユウちゃん。……俺もそう思います。今すげーパニックです。しかし、俺の口は無意識に動く。
「だって今更態度変えられても嫌でしょう?」
「そうなんだよ。分かった瞬間急によそよそしくなったり、媚びへつらう態度になるのがほとんどで。しかも男だと思われてることも多いし。だから君みたいなのは稀でね。嬉しいんだ。」
そう答えたユウちゃんは本当に嬉しそうだった。俺は心の中で謝り倒したい気分になった。その大半の奴なんです、本当は。すいませんでした!!昨日オッドが心の声など聞けたら生活できないと言ったのはこういうことなのかもしれない。知らぬが仏ということも世の中にはあるのだ。
車内で色々話をして聞いたのだが、ユウちゃんは俺より少し上で、代表を務めてはいるが経営は友人に任せていると言っていた。自分は人脈作りやジムのコンセプト、メニューを作るのがメインで細かいことは向かない、すごいのは友人だよと豪快に笑っていた。ユウちゃんは割とサバサバとした女性のようだ。話をしているうちにショッピングモールに着いた。スポーツショップはそこにあるらしい。
俺は自転車なんて滅多に乗らないからと言って、一番安いヤツをチェックしてそれを購入してもらい、ジャージも希望の額だけ伝えて店員さんに見繕ってもらった。ジャージを購入しようとレジに行くと、ユウちゃんが
「ジャージ代も出すよ。誘ったのはこっちだし。」
「え、でも、いいですよ。自分のですし、自分で。」
「自転車だって値段見て決めたよね?遠慮しなくていいのに。」
呆れた顔をして言われた。
「フットサルの時間までまだあるなら、付き合ってほしいところが。それでチャラで。」
俺は笑って言っているが、俺はどこに行こうというのか。俺にもわからないからドキドキだ。しかし、結局ジャージはユウちゃんが自転車と一緒に支払いを済ませてしまい、自転車は防犯登録の住所に配送をかけられていた。マジで抜かりない。どこのイケメンだよ?ユウちゃん、女子にモテそうだな…。化粧してないと本当のイケメンだし。
「で、どこに行くんだい?」
ユウちゃんが笑って聞くが、その台詞、俺も言いたい。帰ったらオッドと話さないとダメだ。俺が俺の行動管理ができないっていう、完全オートモードは結構ドキドキもんである。行った先は服屋だった。レディースもメンズもある店で、俺は自分の財布と相談しながら洋服を買っていた。そして、なぜか最後に女性店員さんの元へ行き、耳打ちをした。女性店員さんも頷いて、用意をする。財布の中身は一気に寂しい状況になっていた。辛うじてフットサルの参加料くらいはあるか…。そして、所在なさげに店内にいたユウちゃんに俺は紙袋を渡した。
「ジャージのお礼です。高いものじゃないですけど。」
「え?」
ユウちゃんは目を丸くした。そう、俺が頼んだのはユウちゃんに似合いそうな服。金額だけ伝えて、店員さんに見繕ってもらっていた。オートモードの俺はユウちゃんに負けないほどのイケメンな中身だよ…と思いたい。
「あ、ありがとう…。あ、それなら…。ちょっと待ってて!」
何かを思いついたようにユウちゃんは見繕ってくれた女性店員さんを捕まえて話しかけ、そして試着室に消えていった。数分後、戻ってきたユウちゃんに俺は息を飲んだ。
「変かな?」
「いや…どこのモデルかと。」
本音だ。オートモードでもなんでなく。俺が買ったトップスに合わせて、スカートや上着もフルコーデしてもらったらしい。そしてそのまま店を出てきた。豪快に全てお買い上げしたようだ。俺の横にはモデルのようなユウちゃんがニコニコとした笑顔で歩いている。
「服なんてよくわからないから、買ってもらった服がちゃんと着られるようにしてもらったよ。」
「そこまで喜んでもらえたなら良かった。」
「私の格好見てみんなびっくりするかな?行こう?」
ユウちゃんはニカっといたずらっぽく笑って、俺の手を引っ張る。なんか完全にリードされちゃってますけど?いいのか…?オートモードが作動しないあたりはこれが正解みたいだけど。
フットサルコートはショッピングモールの近くだった。ユウちゃんはまず、着替えずに、コートにいるお仲間たちに声をかけていた。
「おわ!誰かと思った!…女装?」
「誰か女装だ!私は女だよ!!」
「わー、社長、キレー!!可愛いー!」
女装とか言ったやつ、美人すぎて焦っただけだよ、絶対。女性たちは口々にユウちゃんをキャイキャイ言いながら褒めていた。男性たちはポカンとした顔が多かった。多分普段とのギャップが凄すぎてついていけないのかもしれない。
「…ところで、横のやつ誰です?」
「もしかして彼氏さんとかですか?」
誰かが俺にようやく気がついて、疑問を投げかける。俺…やっと気づいてもらえた。ユウちゃんは少し照れ臭そうにしてから、言う。
「彼氏……ではないけど…今日たまたま会ってスカウトした助っ人だよ。戦力になってくれると思う。じゃあ、着替えてくるから!行こう?」
「あ、よろしくお願いします!」
俺はユウちゃんに手を引っ張られながらも、挨拶を辛うじてした。更衣室で着替えながら俺は冷静に考えて冷や汗をかいていた。ここで下手な姿は見せられない。ユウちゃんの面目もある。リミッターが外れていても、俺は俺だ。大丈夫なのか…?しかし、その心配は杞憂に終わることになる。
まるでボールは足に吸い付くように扱うことができ、相手の動きがゆっくりに見える。躱すなんて簡単だった。キーパーもどちらに動くかがわかる。あとはシュートを打つだけ。頑張ればアニメのような火が出るシュートすら打てるのではないか、そんな感覚だった。
「なんだよ、あいつ!本当に素人か?」
ざわめき始めたので、後半は手を抜いた。あまりやりすぎは良くない気がする。俺は満足しすぎてしまうと人生が終わるんだから、文字通り。試合が終わると同じチームの人たちに囲まれた。「プロじゃないのか」とか、「高校や大学でやってたのか」など質問責めだ。ユウちゃんも
「こんな人どこで見つけたんですか?」
と聞かれていたが、
「内緒。」
といたずらっぽく答えていた。試合後、みんなでごはんを食べに行こうと誘われた。俺のお財布は既にレッドラインだったので断って帰ろうとしたら、ほぼ全員に引き止められてた。今日の主役が帰るなんてだとかなんとか言われて。素直に金がないんだと笑って白状したら奢るから!と言われて行くことになった。
食事に行くと、数人の女の子に連絡先を聞かれた。そして
「彼女…いないんですか?」
と聞かれたが、
「いないよ?」
と俺は爽やかに笑って答えてある。ある男性には
「その…ヤマトと付き合ってるの?」
と聞かれた。多分、ユウちゃんの綺麗さに気がついた男性は焦っているのだと思われる。多分、女装って言った人だ。
「今日出会ったばかりで。ユウちゃん、キレイだから誰かいい人がいるんじゃないんですか?」
と俺が言うと、男性は
「ユウちゃんって…ヤマトを完全に女扱いしてる…。」
と驚愕の顔をしていた。最初こそ、男扱いだったし、中身もイケメンなユウちゃんちゃんだけど、数時間の間でちょいちょい乙女な一面があった。ユウちゃんを女扱いしないなんて、君の目が節穴だったのだよとしか言えない。まぁ、この発言は数時間前の俺へのブーメランだけどな!!
食事を終えるとユウちゃんが家まで車で送ってくれた。フットサルをしたので、化粧は取ってしまっていたが、格好は先ほど購入したやつなので、ユウちゃんは男には見えない。しかし、完全に俺が女子だな、このシュチュエーション…。
「またフットサルがある時は連絡するから来てくれるよね?」
「うん。せっかく買ってもらったし。」
俺はジャージの入った袋を持ち上げ言う。ユウちゃんはにっこりと笑う。
「じゃあね。」
そういって車を降りようとしたら、ぐっと胸元を引き寄せられて俺はユウちゃんにキスをされた。突然唇を奪われパニックだったが、オートモードの俺は冷静におでこにキスを返して
「おやすみ。」
といって笑って車を降りて手を振った。ユウちゃんも手を振って帰っていった。俺は思った。どんだけイケメンなのよ、ユウちゃん。俺、完全に乙女だったわー。
読んで下さってありがとうございます!