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23.敵はイケメン

「お疲れー。」


「お疲れ様でーす。」


俺たちは居酒屋でささやかに乾杯していた。(ヤロウ)2人で。金曜日なので、本当はゆーちゃんが泊まりに来たいと言ってたのだが。タツキさんとの先約があり、断ったら友達と一緒に来たいって言ったけど、全力でお断りした。ダメ。ゆーちゃんはタツキさんには紹介しない。友達の方は来てもいいけど、それだったらゆーちゃんをなんで呼ばない?って話になる。男だけで話したいこともあるからとかなんとか言って、断ったことをタツキさんは知らない。知らぬが仏です。


「いやー、傑作だったなー。先週の滑り込み出社。」


「先週の話とか、マジやめてください…。」


ビールを流し込んでから言う。


「それで…女の子を紹介するにあたって、タツキさんってどんな子が好みですか?巨乳以外で。」


タツキさんがビールをぶばっと吹きそうになった。


「俺さ、おまえにその話したことあったっけ…?」


「こないだのリアクション見ればわかりますよ?」


タツキさんはおしぼりで吹いたビールをふきふきしながら、焦っていた。リアクションじゃなくて淫魔情報に基づいます。ずっとタツキさんを見てきた確かな情報筋だ。


「そだなー。本とか読む子で俺の趣味に理解のある子だな。」


「で、巨乳と。」


「おまえさぁ…会社ではミステリアスなタツキさんで通ってるみたいだからイメージ壊さないようにしてんのに。」


イケメンにはイケメンの悩みがあるようで。大変だねー。元々壊れるイメージもないフツメンな俺にはわからんわ。


「で、おまえは、経理のあの子と付き合ってんの?」


今度は俺がぶばっとビールを吹きそうになる。付き合ってると明言して良いものか。色々言っちゃうと、問題あるからな、俺の場合。


「んー。内緒です。一応社内恋愛禁止とかありませんでしたっけ。うちの会社。」


適当言っておく。


「んー、あったようななかったような…つまり、まぁそういうことか。わかった。」


タツキさんの中では俺とゆーちゃんは付き合ってるってことになったっぽい。明言はしてない。タツキさんがそう思っただけで。よし、オッケー!


「なんでそんなこと聞くんですか?」


「いやな、こないだ見た例の夢にその子っぽい子が誘惑してくる夢を見たもんだから、ちょっと意識しちまって。」


あるある。夢に出て来た子を好きでもないのに意識しちゃう。あいつ、余計なことしやがってと内心で舌打ちする。


「タツキさんが相手じゃ俺の勝ち目はないですよ。」


俺は残りのビールを飲み干し、本心からそう言った。この高スペックイケメンになんかに勝てるわけない。しかも本来、運命(さだめ)ってヤツで決まってた相手らしいし。


「おまえとそういう仲ならどうこうしねぇって。そこまでしてあの子と付き合いたいわけじゃないし。」


にししとイタズラな笑顔を浮かべるイケメン。いい人でイケメン。羨ましいというところは通り越してる。むしろ惚れそうだわー。そんな趣味ないけど。俺は女の子が大好きだもの。じゃなかったらハーレムなんて願わないわ!それはさておき、でも、本当にタツキさんにはなんで彼女いないんだ?こんなに好条件イケメンなのに。


「ねぇ、タツキさん、なんで彼女いないんですか?こんなにいい男なのに。」


俺はどストレートに聞いてみた。


「ちょ!おまっ!そんな顔して聞くな!」


タツキさんがなぜか少し赤くなって慌てているが、俺はどんな顔をして聞いていたんだろうか…?普通の顔だったはずだが。俺、フツメンですし。


「どうしたんですか?普通に聞いただけですけど?紹介するにも変な趣味があって逃げられるんだったら、紹介しても意味ないでしょ?」


「あ…悪い、悪い…。趣味は…笑うなよ…?物書きだ。」


挙動不審になりながらタツキさんは答えた。物書き?あぁ、小説とか書いてるのか。意外だな。タツキさん、スポーツマンなイメージだったから。


「俺も本好きだから、書きたいって思ったことありますよ。」


「俺もその口だ。書いてみたら意外とハマってな。それ以来、書くのが趣味になった。でもな…。」


「あ、すいませーん。生2つ追加で。でも…?」


俺はタツキさんと自分の分のビールのおかわりを頼むと続きを促した。


「前に付き合ってた彼女が構ってちゃんだったから『そんなことより私を構って』ってうるさくてな。別れて以来、付き合うのがめんどくさくなった…」


「あーなるほど。」


運ばれて来た枝豆をつまみながら相槌をうつ。付き合うのがめんどくさいなんて…。付き合いたくても付き合えないって人も多いんだよ?わがままな悩みだねぇ。と心で呟いて、タツキさんをみて微笑む。


「タツキさんの作品読ませてくださいよ?」


「ヤダ。リアル知り合いには読ませたくない。」


「まさか官能小説…?」


「違うわ!!」


笑いながらつっこみを入れ、タツキさんは運ばれて来たビールをあおる。


「とにかく、理解がある子じゃないと付き合えないっていうのはそういうことだ。休みの度にデートしろだのいう子は無理だな。」


誤魔化された…ちょっとタツキさんの作品、読みたかったのに。でも納得した。ゆーちゃんも休みの度にデートしろだの言ってこないし、主に漫画だけど、本は好きだ。だから付き合うはずだったのか。巨乳ではないけど。しかし、淫魔は趣味に勤しむタツキさんが好きって言ってたし、淫魔が好条件の身体を見つければ最高のお相手になるのでは?あ、でもあいつちょっとアホだった…そこ、大丈夫かな。そう思いながら笑いをかみ殺す。


「とりあえず、むこうの予定が見えたら紹介できると思います。」


「まぁ、最近エロい夢も見なくなったから急がなくても、大丈夫だ。どうせ年末年始は忙しいからな…。」


「そうですね…。」


来たる年末を思い浮かべてちょっとげんなりした俺たち。ため息を吐いた後、俺はタツキさんに質問する。


「タツキさんは…自分の命と引き換えに願いが叶うとしたら何を願います?」


「んだよ、急だな。んー。宝くじ…はあたっても死んだら意味ないし…。文才と成功とか?」


「よく考えておいた方がいいですよ?願いを叶える機会っていうのは大抵急に来るんですよ?」


俺みたいにね。と小声で呟いた後に、


「間違っても取引先の担当が代わりますようになんて願っちゃダメですよ?」


と笑ったら、真顔でタツキさんが言う。


「本当代わってくれねぇか?雰囲気イケメン!」


「いやですよ!!」


後は仕事の話とか、部長の愚痴とかをして店を出た。




明日、予定があるとかそんな話をしながら歩いていると、


「お暇なら飲みに行きませんかー?」


女子2人から声をかけられる。片方は割と可愛いが派手目な子で、片方は地味目な普通の子だった。きっとタツキさん目当てだろうなぁ。もし飲みに行ってもタツキさんを巡って争いが起きるに違いない…。


「タツキさん、どうします?」


そう俺が振ると、タツキさんは少し困った顔をした後に、小声で


「大抵こうやって声かけて来る子は構ってちゃんが多いから、いいや…。」


ため息を吐いた。きっとイヤってほど、この手のナンパはされてるんだろうなぁ。しかし、俺は思いついたことがあって、催淫を強制的に入れてから、


「ごめんね?今帰るとこだったから。機会があったらまたね?」


と2人に言って俺は立ち去ろうとすると、


「じゃあ、機会作りましょうよー?連絡先交換しましょう?」


と地味目な方の子がかかった…。意外だったが、まぁいいや。


「いいよ?今度連絡するね?」


そう言ってさっくり連絡先を交換して立ち去った。歩きながらタツキさんが、


「いいのかよ…?」


小声でタツキさんが言う。多分、後に続く言葉は彼女居るのにだと思う。


「ただの人脈作りですよ。あの子たちの友達にタツキさんの気にいる子がいるかもしれないし、紹介した子をタツキさんが気に入るとは限らないじゃないですか。」


淫魔の身体も探さないとだしねー、と言うのは建前。人脈作りをしたいのは別の目的もある。俺の不満が爆発しないよう知り合いを増やしておきたいだけ。…我ながらゲスい。


「おまえ…。」


後輩が思いやってくれてるのに少し嬉しそうなタツキさん。ごめん、タツキさん。ダシに使わせてもらうよ?そして…


「バレたらタツキさんのせいにします。」


声に出てた。しまった。


「ひでぇな、それ。」


「…ちなみに、さっきの子達、どっちが好みでした?」


「うーん…右の子。」


地味目な方の子だ。パッとみてわかるほど大きかった。


「じゃあ、今通った集団は?」


「分かんね。強いて言うならダッフルコートの子。」


「…………ブレませんね。彼女いないのそのせいとかありませんか?」


「おまえ、やっぱ最近俺に対する態度ひどくねぇ?」


「実は最近悪魔に魂売ったんですよー。」


俺は笑いながら言う。本当だけど、タツキさんも信じないでしょ?


「悪魔か…いるなら会って、話してみてぇな…。」


ちょっと真顔で言ったタツキさんに俺はニヤリと笑いながら答えた。


「今度紹介しますよ。」








突然、遠くから「わー!」という声や聞き取れない悲鳴、怒号が飛び交う。何事かと思うが、そちらには行ってはいけないと何かが警告をする。


「なんだ?」


タツキさんは人だかりの方へ。行ってはいけない。止めなくちゃ。しかし、タツキさんはそちらへ向かってしまう。人だかりの先には刃物を振り回す男。


「あいつは何で俺を…いい男なんて…モテる男は敵だ…みんな敵だ…!」


などと意味はわかるけど、八つ当たりのような台詞を吐いていた。血走った目をこちらに向けると男は人を掻き分け、タツキさんに向かって走ってくる。


「敵だ!敵はおまえだ!」


そう叫びながら。


「危ない!!」


咄嗟に俺は男の前に立ちふさがった。俺にはオッドの確率変動や、オートモードがあるという驕りがあったのかもしれない。しかし、その驕りもあっさりと覆された。


「え…。」


腹下に生温かい液体が伝う。手で触れるとどろりとした感触。手を見遣ると紅い…血。


「嘘だ…ろ…。」


膝から崩れるように俺は倒れた。眼前は白く…白く遠くなっていった。

読んでくださってありがとうございます!次で終わりです。

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