21.初めての
活動報告、あらすじにも書きましたが、納得したものがかけなくなってきていることに気がついたので、年内で終了する事を決めました。不定期で書けたら上げて、年内終了します。もう少しだけお付き合いください。
「セー…フ…。」
滑り込んで会社へ。本当に滑り込んだやつは俺が初だろうな。周りに目線が痛い。いや言いたいことはわかるが言わないでほしい。素知らぬ顔で自席へ。タツキさんがいる。最近よく顔合わす気がする。
「おす。なぁ、今日なんだけど…。」
突然、俺のスマホが鳴る。わからない番号なので取りあえず、
「ちょっとすいません…。」
タツキさんに断って出る。
「はい…はい?え…?あ…わかりました…はい…はい…失礼します…。」
「どうしたんだ?なんか顔色おかしくなったぞ。」
タツキさんが心配そうに俺の顔を覗きこむ。
「すいません、今日は無理になったんで、来週でお願いします…。」
「お…おぉ。わかった。来週な。」
タツキさんの誘いを断った後、俺は仕事が手につかなかった。まさか、オッドの飼い主が見つかるなんて…。詳しくは仕事が終わってから。警察にオッドを連れて行くことになった。
家に帰るとオッドが
「主、今日は遅いのではなかったのか?」
とトテトテ歩いてきた。
「オッド、バッグに入ってくれ…。」
俺は力なく、オッドに言うと、
「まさか…あそこに行くのか?」
オッドが警戒したような表情をする。病院に行くのだと思っているようだが。
「いや、あそこじゃない…おまえは帰るんだよ?」
「帰る?どういうことだ?」
「おまえを元々飼ってた飼い主が見つかったんだと…。だから元の飼い主さんにおまえを返すんだ…。」
「ふうむ…そうであったか…」
随分長い時間目を細めて座っていたオッドは口をようやく開く。
「例え、主と離れても、主の能力はそのままだぞ。………心配するな。」
「そうなのか…。でも、そうじゃないんだ…。」
俺はオッドを抱き上げて、鼻と鼻を合わせる。
「主…?」
オッドが顔をぺろっと舐める。
「泣いてなんかいないぞ…。」
俺は先に言っておく。
「とにかく行こう。時間がない。」
俺は半ば無理やりオッドをバッグに入れて、警察署へ向かった。
警察に着いて、待っている間、詳細を確認することにした。俺は信じたくなくて担当警官に詰め寄るかのように聞く。
「本当にこの仔なんですかね?確認できるものとか持ってました?」
「あぁ。片目づつ色の違う黒猫って言ってたし、そんなの滅多にいないだろう?写真も持ってきてたぞ。」
「写真?その写真見せてもらっても?」
「置いて行ってたっけ…えぇっと…ちょっと待ってね?」
警官は写真を出して来たが…
「あの…この仔とは違いますよ?」
「え?え?」
警官は焦り始める。
「目の色、違いますよ?」
写真の黒猫はブルーと金のオッドアイだった。オッドは紫と緑。とんだ人違い…違う。猫違いだ。俺は写真とバッグから出したオッドを警官に並べてみせる。
「あぁぁ…申し訳ありません…左右色の違う瞳ってだけで………勘違いでした!ご足労願ったのにすいません…。本当にすいません…。」
「いや…いいんです。違うならそれでいいんです…。」
俺はほっとしていう。
「なんでこんな違いに気づかなかったんだろう…。見比べればすぐにわかるのに…」
とブツブツ言った後、
「あ、違うので、帰っていただいて大丈夫です。先方にはこちらの勘違いだったと伝えておきます…。」
「じゃあ、帰りますね?」
俺はそそくさと警察を後にした。
「なぁ、オッド…。」
俺は小声でオッドに話しかけた。
「なんだ?」
「あの写真に幻惑使ったのか?」
「主にはわかったのか。」
「なんとなくな。」
オッドはクククと笑っていう。
「見破るとはさすがだな…。」
「離れると俺を満足させるのが難しくなるから、そばにいる方が都合もいいもんな。」
「それもあるがな…。」
「?それも?」
「いいや。なんでもない。」
「おまえもそばにいたいって思ってくれたらいいなって思ってたんだけどな?どうなんだ?」
「…………にゃー。」
誤魔化しやがった!
「せっかく早く帰って来たから今日は家でゆっくりしよう。いっぱい遊んでやるぞ。」
そういうと、
「にゃ!」
と返事した。可愛いからいいか…。オッドも俺と一緒にいたいって思ってくれたらいいなと俺は思いながら夜空を見上げる。もうすぐ満月になろうとしている月が浮かんでいる。もうすぐあれからひと月経つのか。いいことはいっぱいだし、幸せだが、不満が溜まることも多くなってきた。幸せ故、もっともっとと欲望が湧いてくる。やはり俺はとっても欲張りなようだ。鼻歌を歌いながらもう一度、夜空を見上げてた。
今日はユウちゃんとテーマパークへ行く日だ。ユウちゃんがやはりユウちゃんが車で迎えに来てくれるので、支度をして連絡を待っていた。スマホが鳴ったのでオッドに声をかける。
「オッド、今日は遅いから先に寝てていいからな…。」
「ふむ…。」
まだ猫鍋でまどろむオッドに小声で言って撫でる。
「行ってくるからな…。」
「ふむ…。」
寝ぼけているオッドを置いて俺は家を出る。いつもの場所にユウちゃんは車を止めて待っていた。今日も俺が買ってあげた服を着て来ている。コーディネートは先日と違うものだ。店員さんにお願いして違うものをまたフルセット買ったのかもしれない。ユウちゃんならやりそうだ。
「早いのに迎えに来てもらってごめんね?」
「いいや。楽しみにしすぎて早く起きたんだ。問題はないよ。」
「運転もし疲れたら代わるから言ってね?」
「うん。わかった。」
そう返事して快調に車を走らせるユウちゃん。しばらくするとキュリュリュと可愛い音がする。ユウちゃんが顔を赤らめた。どうやらお腹の音のようだ。可愛いなぁ。
「朝食は?」
「早く起きたのはいいが、支度に手間取って、ご飯にまで手が回らなかったんだ。」
「ちょうどいいや。俺も早かったから朝食食べてなくて。おにぎり。食べる?」
俺は一口サイズに握ったおにぎりをいくつか出した。運転中でも食べやすい大きさにしてある。やっぱ、ユウちゃんに対しては完全に乙女な俺は朝食も準備済みだ。
「あぁ。ありがとう。」
赤いまま、ユウちゃんが答えたので、ラップを剥いて
「はい、あーん。」
口を控え目に開けたユウちゃんの口の前におにぎりを持っていき、食べさせてあげる。なんだかエロいな…。これが「あーん」のよさなのかもしれないとアホなことを考えながら自分もおにぎりを齧る。むずっとした下半身に今起きてもどうしようもできないからねと言い聞かせて、思考を別なことに行くように努力した。
音楽を聴いたり話したりしているうちに目的地についた。12月の土曜ということもあり、混雑している。しかし、久しぶりのテーマパークで俺はウキウキしていた。女の子とくるなんて…あれ、よく考えたら俺も初めてだった。なぜ気づかなかった、俺。
「行こう!」
俺はユウちゃんの手を取り引っ張る。
「あ、ちょっと!!」
俺たちは入場ゲートに向かった。
テーマパークにデートにくると、待ち時間に無言になったり、疲れてしまって険悪になってしまって別れるというのが多いらしい…が。俺たちは2人とも初めてのテーマパークのデートということで待ち時間など苦にしなかった。それにオートモードが上手く動いてくれて、待ち時間が少ないものを選んだり、混んでいるものは優先入場権を活用するなどして動いた。こういう時でも便利だな…この能力。
お昼は事前予約をしてあるお店。前日にキャンセルが出てないかチェックして予約済みだった。前日タツキさんと飲みに行かなかったので、事前予習も準備もしっかりできた。こういうのを怪我の功名というのだ。
昼を食べ終わると、何だかユウちゃんの歩くのが遅くなったので、近くのベンチに座った。
「ユウちゃん、パンプス脱いで。」
「あ…。いや、大丈夫だよ。」
「ダメ。靴擦れしてるんでしょ。」
俺はユウちゃんの前に跪き、膝の上に足を乗せる。踵の上が靴擦れしていた。
「履きなれない靴で来たね?」
「いや、だって…」
「俺のために可愛い格好したかったの?」
俺はニコっと笑って、靴擦れの上に絆創膏を貼る。
「ストッキングの上からだから応急処置でしかないけど。ここで脱がすわけにもかないしね?」
と少し意味ありげな笑顔を浮かべると赤くなっていたユウちゃんはより真っ赤になっていた。
「靴と靴下買いに行こう。確か中央のお店に売ってた。」
俺は跪いたままユウちゃんに靴を履かせてあげると、手を取ってユウちゃんを連れて行く。お店に入って靴を見てみると
「しかし、この格好に運動靴は…」
と渋るユウちゃんに、
「じゃあ、このパーカーとこのブランケットとこの耳あてすれば…。ほら可愛い。夜寒くなったらまた着替えればいいよ。」
俺はお店にあったものを合わせて提案する。しかし、
「いや…なんだか恥ずかしい…から…。」
「じゃあ俺もこれとこれ買ってお揃いで。それでも嫌?せっかく遊びに来てるんだし。いいでしょ?」
「あ…う、うん。わかった。」
と嬉しそうに返事をしてくれた。
「じゃあ着替えてね。」
「…うん。」
夕方まで俺たちはお揃いの格好でデートを楽しんだ。あっと言う間だった。日が落ちて、ユウちゃんに着替えてもらうと、俺たちはゲートに向う。
「もう帰るの?」
ユウちゃんは残念そうに言うが、
「ううん。帰らないよ。ちょっと夕食を食べに。」
「外なの?」
「うん。」
敷地内の移動手段に乗って、移動し、ホテルのレストランへ。もう一つのテーマパークの中が見えるレストランを朝からキャンセル待ちして予約した。そこはオッドさんの確率変動でどうにでもなるのだ。
「わぁ。キレイ…」
ユウちゃんから可愛い声が出た。暗くなってきているのでライトアップがキレイだった。
「喜んでくれた?いっつもユウちゃんにいいとこもってかれちゃうからね、これくらい俺だってするよ?」
そう言って微笑む。俺たちは食事を楽しんだ後、また再入園してショーを観てから帰った。
帰りの車内、俺は申出て、運転して帰っている。一応免許はあるし、オートモードの補正で運転に抜かりはない。助手席に座るユウちゃんは俺の横顔を見つめていた。
「私に夢中にしてみせるって言ったのに…私が夢中になってしまいそうだ。」
ユウちゃんがそう囁いた。俺は前を見ながら、
「そうなってくれて構わないよ?」
そう言うと、ユウちゃんの目線を感じる。信号待ちの間に俺はユウちゃんを見つめてキスをする。
「今もまだ気が向いている?」
そう聞かれて、優しく笑うとユウちゃんは困った顔をしていう。
「ズルイな。」
「まぁね?」
車は俺の家ではなく、ユウちゃんちへ。俺はその晩ユウちゃんちに泊まった。
読んでくださってありがとうございます!遺失物が生き物の場合はどうやって受け取りするのかわからないので、想像です。テーマパークに関しては、わかる方にはわかる某所がモデルです。