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16.からまわり

アクセスのみならず、ブクマしてくださった方々、ありがとうございます!

月末ピークを終え、そろそろ来たる年末ピークを前に仕事はややひと段落気味。今日は早く帰ってオッドの病院に行くつもりだ。ただ…前回騙し打ちにように連れてってしまったので、大人しく病院に行ってくれるだろうか。キャリーはオッドが警戒しないように買った日から猫鍋の側に常時置いてあるので、その中に誘導しすればいい。何も言わずに連れてってしまおう。それが今回の作戦である。


「オッド。オヤツだぞ?」


ペットシートと敷いたバッグにオッドの大好きなマタタビオヤツを置く。


「む、それか。主の手から食べる方が好みだが。そちらに入れてしまったならしょうがあるまい。取りに行こう。」


そう言って案外簡単にバッグの中に入っていったオッド。小窓から覗く姿はかなり可愛いらしい。しっかりチャックを締め、素知らぬ顔でリュックを背負う。


「ぬ?主、我を連れて何処か行くのか?まさか!?」


チャックを閉められて初めて慌てだす。


「そのまさかだが、多分、今日は結果を聞くだけだと思うから安心しろよ。」


「本当であろうな…?」


「多分な。」


お医者さんが必要って言ったら注射するけどね。そんなことを心の中だけで呟くと俺はオッドとともに動物病院に行った。折角リュック式にしたので自転車で行くことにした。俺は楽で良かったのだが、途中もぞもぞとオッドが動く気配がしていたので、オッドはどうだっただろうか。乗り心地は後で本人に聞いてみようと思う。



動物病院に到着して診察券を出す。 そういえば、受付の子、前も可愛いと思ったんだった。催淫の練習してみようと思いついたので、ちゃんと意識して催淫が効くようにと念じつつ声を出す。こんな感じで大丈夫かな?必要なやりとりが済んで、椅子に座ってしばし待つ。その間にちらっと横目で確認。熱い眼差しがこないあたり効いてないっぽい。以前オッドも不満のあるものや、耐性の低いものに効くって言ってたから、発動も100%ではなさそうだし。効いたかどうか確認しづらいもんだなと思っていると


「…オッドちゃーん。」


順番が回って来てしまった。とりあえず会計まで頑張ってみるかとオッドの診察と全く関係ないことを考えながら、俺は診察室で先生の説明を聞いた。


結果としてはオッドは健康で手術済みの個体であるとのこと。ただ、手術済みであることと、オッドアイの黒猫など珍しいので、捨て猫とは考えづらく、何処かの迷い猫ではないかと言われてしまった。捜索願い等が出ていないかちゃんと調べておかないと後々面倒なことになるから警察や保健所に連絡する必要があるらしい。オッド関係のことは落ち着いたと思ったのに。

万一元の飼い主さんが居て、返さなくちゃいけなくなったら、オッドが居なくなったら…と考えるとどうにも不安な気持ちになった。何処かで平日有給取って諸々手続きをを、と思ったのだが…12月の忙しい時期に休みなど取った日にゃ白い目で見られかねない。遺失物届けやと問い合わせくらいなら、どうにか仕事の途中にやりくりして時間を作ることしよう。会計待ちの間そんなことを考えていた。


会計で呼ばれて支払いを済まそうとすると、受付の女の子が領収書の横にメモを出す。


【30分くらいしたら仕事終わるので、食事でも。】


と書いてあった。どうやら催淫が効いたようだ。俺は心の中でガッツポーズをしながら、そのメモに番号と【駅前で】と走り書きして、にっこりと笑った。食事?行きますよ?翌日仕事だけどね!


オッドを連れて一旦家へ帰り、


「俺また出かけるから留守番頼むな?」


そう行って出かけようとしたら、


「主、万一帰らない日があっても我は構わぬからな?」


などと同居の彼女のようなことを言い出したのだが。


「翌日仕事だし、絶対帰ってくるってば。チャリだしな。」


そう言いつつも、なんだかんだオッドが心配なのもある。存外、オッドは寂しがりなとこがあるからだ。


「あ、そうだ、リュックタイプのキャリーはどうだった?」


「安定性にかけるな。意外とこないだの方がいいかもしれぬ…。」


話せるって便利だな。本人に居心地聞けるんだから…。そんなことを思いつつ、俺は出かけるために靴を履くとオッドがいつものように玄関にやってきた。


「なんか安全祈願みたいだよな。火打石とか。」


「?」


「いや、なんでもない。行ってくる。明日は仕事だから夜中でも帰ってくるけど、寝てていいからな?」


やはり同居の彼女にかけるような言葉をオッドに言うと頭を撫でてから俺は家を出た。




そろそろ時間なので、駅前で連絡を待っていると、受付の女の子が私服でやってきた。アレ…?大したこと…げふん、げふん。マスクと白衣は3割増しって言うのは本当かもしれないと心で思ったとだけ言っておく。ちなみに自分のことはだいぶ棚に上げていることはいうまでもない。


「お疲れ様でーす。」


「お疲れ様。何処で食事しますか?」


俺は自分の心内はおくびにも出さずににこやかに丁寧に聞いた。


「あ、なんでいいですよ〜。」


そういうので、適当に駅前の店に入ろうとすると、


「え、そこなんですか?」


彼女は露骨に嫌な顔をした。ここじゃダメなのか。なんでもいいって言ったじゃん…。


「まあ、いいからついて来て欲しいな。」


めんどくさい子だなと思ってしまったが、オートモードには何か考えがあるらしい。駅前を通り抜け、裏路地へ。あぁ。この店か。外見汚いんだけど、中はそうでもないし、美味いんだよな。でもちょっと高いんだから外見も綺麗にしなよって思ってる。この子をここに案内するとは…。俺、チャレンジャーだな。案の定嫌な顔しながら彼女は店内へ。しかし、店内に入ると彼女の顔は「案外やるじゃない」みたいな顔になった。なんだか値踏みされてる気分だ。


食事をしながら、色々話をしたのだが、ちょくちょくスマホは出して返信をしているし、スマホ見ながら箸持って相槌とかするし…どれか一つにしなさいとお母さんではないが言いたくなった。極め付きは彼女は断ることなく煙草を出した。吸うなとは言わない。しかし、同席者に断りくらい入れようよ…。俺、もう帰りたい。萎えた。


誘ってしまったこの子をどういなしたらいいのかも考えることすら面倒になって、俺は本当適当に話を流して関係ないことを考えながら彼女の話を聞いていた。明日警察にオッドの届け出にいこうとか、オッドに猫タワー買ってやりたいけど、どうしよう。通販でポチろうかとか、いつ宝くじの換金に行こうかなとか。本当に全く関係のないことを。

オートモードも好みの子じゃなきゃ発動しないし、催淫もしっかり切れているはずだ。きっと彼女もなんで俺について来ちゃったのかと思ってるに違いない…自分で思って切なくなる。催淫は無意識に入切した方が外れもないのかも。


今後動物病院に行きづらくなるのも嫌なので、とりあえず、食事だけはしっかりと奢って帰って来た。ただ出費しただけだったな。今回は能力の勉強代ってことで割り切ろう。よく考えてみろ、能力がなかった頃は出費しただけなんて日常茶飯事だったじゃないかと…悲しい考えに至った。………泣くな、俺。


「主、だいぶ早かったな。」


オッドがトテトテと欠伸をしながら歩いて来た。


「欠伸するくらいなら寝てて良かったのに。」


俺はなんでか冷たく言ってしまった。折角可愛いオッドが俺を待っててくれたというのに。


「風呂入ってくる…。」


頭冷やしてくる。と言う想いを言外に込めたが、オッドに伝わりはしないだろう。俺はなぜオッドに当たってしまったのかと自己嫌悪に陥りながらシャワーを浴びた。出てくるとオッドはベッドにおすわりをしながら待っていた。髪をわしゃわしゃ拭いてオッドの隣に座ると膝に乗って俺の手をペロペロしだした。気遣っているようなその仕草に、俺はオッドを抱きしめて鼻と鼻をくっつける。言いはしないが当たってごめんというつもりだった。


「主、早く満足したいか?」


オッドが急に聞いてきた。俺は苦笑いしながら言う。


「満足したら死ぬんだろう?それは困るわ。まだ死にたくはねぇよ。」


死にたくはないし、それに俺はまだまだ満足する予定ではない。それに…


「俺が途中で満足して死んだらおまえの器の世話はどうするんだ?というか、おまえはどうなるんだ…?」


俺はオッドを抱きしめたまま、ベッドにごろりと横になると柔らかな毛並みに顔をすりつけながら聞く。オッドは呆れたような声で言う。


「我の心配か…。主は本当に変わっているな。」


「…俺の前にも色んな人の願いを叶えたんだろう?」


今迄オッドの昔の話などと聞いたことはなかった。でも、オッドが本当に変わってるとか、悪魔の才能があるとかいうものだから今迄の人たちがどんな人たちだったのか興味が湧いた。


「そうであるな。巨万の富を求めるもの、特定の才を求めるもの、あるものの愛を求めるもの、様々であったな。」


オッドは目を細めながら俺の上でうねうねと動いて起き上がる。そして俺の胸の上におすわりして俺の目を見つめた。


「…主は数多くの愛を求めた。それを得るために才を求め、富を求めた。主は全てを求めたのだ。我もそれに答え、能力を与えた。主はそうして得た能力を人だけに飽きたらず、我にすら使う。本当に面白いものだ。」


オッドの緑と紫の目が妖しく光った。その妖しさには一種の神々しさが宿っており、俺はその美しさに思わず息を飲んだ。


「主…?」


俺がオッドを見つめたまま黙っていたのでオッドは小首を傾げて俺の様子を伺う。


「おまえ、やっぱり綺麗だな。」


俺はオッドを見ながら微笑んだ。最初もそうだったが、本当に心からそう思ったのだ。


「褒めても何も変わらんぞ。」


オッドは欠伸をしながらいう。オッドの喉元を優しく撫でて俺は


「もう寝ようぜ。俺も眠くなって来た。」


「ふむ。そうであるな。」


ベッドに入り、オッドを抱きしめた。オッドは少し苦しそうにしていたが、何も言わずに俺に抱きしめられたまま眠りについた。その晩は淫魔も夢に出ることもなく、静かな夜だった。そう、夜は静かだったのだ。


翌朝。俺は…滾っていた。これでもかというくらい。色々し損ねたせいなのか…中々収まらないそれに俺は困惑した。


「どうしよ、これ…。」


俺はトイレで悪戦苦闘していたのだが、中々出てこない俺にオッドは気がつき、


「主?中々出てこないがどうしたのだ?主?」


トイレのドアをカリカリとしだした。


「あふぅ…大丈夫だからヤメろよ…ドア…傷ついちゃうだろ?」


急に声を出したため、思わず変な声が出てしまう。


「主?大丈夫なのか?」


「……会社に遅れないよう努力してるだけだから、気にするな…。」


昨晩は静かだったのに。なんでこんなことになってるのか。朝からやや涙目になった。

読んでくださってありがとうございます!あわてんぼうのサンタが来たのか…。ジャンル別日間、週間ともにランクインしました!ありがとうございます!

オッドとのやりとりが書けたのは良かったんですが、ちょっと繋がりが悪くてこんな感じになってしまいました。クリスマスは推し事が…もごもご。

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