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11.言わせねぇよ?

猫回です。

昼ごろにユウちゃんから連絡が来た。


【日曜日、試合があるのだけど、来られないか?】


土曜は前々から予定が入っていたが、日曜日なら大丈夫だった。


【大丈夫だよ?】


そう返事をすると、


【楽しみだ!】


とスキップしているスタンプとともに返事が来た。日曜日か。身体が休めてない気もするけど、大丈夫かな。


俺は仕事を終わらせて、帰ろうとしていた。同じく、そそくさと帰って行くタツキさんが目に入る。今日あたりタツキさんは淫魔に襲われるのだろう。ただ、あの残念淫魔がちゃんとできるのか。思わず笑いがこみ上げてくる。まぁ、そのうちまた夢にひょっこり現れて、近況報告しに来るだろう。生温かい目でタツキさんを見送った。


俺は大急ぎで帰り、調べた動物病院に向かおうとしたが、猫用キャリーなど買ってなかった。しまった。俺はクローゼットの中をガザガサと探す。


「あぁ、あった、あった。」


スポーツバッグだ。


「入れというのか?」


「おまえは逃げたりはしないけど、病院に行くまで危ないからな。ダンボール敷いて…っと。これでいい。」


「ふむ。」


ぴょんっとバッグの中に入って行ったオッドは丸くなって鼻をひくひくさせた。


「悪くはないが…少し臭う。」


「少しだから我慢してくれ。次はちゃんとしたのを買っておくから。」


俺は申し訳ない顔をした後、バッグを背負う。


「なんかあったら言えよ?」


「ふむ。」


オッドは薄く開けたファスナーから顔を出し答えた。ゆーちゃんのクルクルした目線といい勝負だよ、オッドさん…俺、キュン死しそうです。これは死ぬほどの満足じゃないけど。


「む、どうかしたのか?」


「いや、なんでもない…行くぞ。」


オッドもだけど、俺も長く生きられるようにしないとな。そう苦笑いしながら、俺は病院に向かった。



「…オッドちゃん。どうぞ〜。」


白衣の女の子が呼ぶ。可愛いな。うーん。どうにかしたいが…あとでオッドに催淫を入れてもらうかな。そう思いつつ診察室にオッドを連れていった。


最近拾ったので、詳しくことがわからないと言って、調べてもらったら既に不妊手術済みだろうということであった。確定は血液検査の結果次第らしいけど。俺が決断する必要がなくて少しホッとした。しかし、ワクチンは念のため打って置こうという話になり、採血と注射をしたのだが…それまで大人しかったオッドは注射をするため押さえつけられた時、俺に聞いてないという目線を送って暴れていた。うん、言ってない。でも俺、嘘も言ってないよ。




会計待ちの間、こそっとオッドに


「催淫の練習したいんだけど。」


と、とても小声で言ったら、ぶすくれた目線を送られた。どうやらお怒りのようです。きっと催淫も入らないことでしょう。残念です。そしてその後呼ばれ会計をしたのだが、万超えしていた。残念です。手術となるともっと高額だから、覚悟はしてたけどさ。お財布が寂しいです…。





帰り道、オッドがバッグの中でカリカリとしていた。


「どうした?」


声をかけると、


「我に『甘言』を使うとは…主、本当にただの人間でなくなって来ておるかもしれないぞ?催淫も入切できる日も近いかもしれんな。」


バッグの中から、くぐもった声が聞こえる。


「催淫の入切ができるのは嬉しいが、俺、人間やめるつもりないぞ?」


小声で答えると、オッドは言う。


「こちら側に来るようなら歓迎するが?」


「…俺が満足したら考えとくわ。」


俺は依然として小声で、バッグの奥で妖しく光る目に微笑みながらいった。






家に帰り着いて、俺はオッドをバッグから出してやる。オッドは猫鍋の方にトテトテと歩いて行って、その中に座った。俺は猫鍋の前に正座する。これからお伺いを立てるためだ。ちゃんとした話をするときは正座する。それがこの国での作法…だった気がする。俺にも、オッドにも大切なお話である。


「あの…オッドさん?大事な話があるんですが。」


「む?今朝のことがあるからな。気を抜かず聞こう。」


軽くニヤついてしまったのをオッドに見咎められた。


「いや、だって…オッドも注射とか怖いんだなって…思い出したら何と無く…。」


「あれは器の本能反応だ!」


「いってぇ!!」


爪を立てられた。ただ、オッドはちゃんと加減している。本当怒ってるわけではないらしい。


「それで、大事な話というのは?」


オッドは半眼になりながら言う。


「あのですねー。オッドさんを養ったり、女の子達とデートを重ねていて…そのー。」


斜め上の方を見ながら口ごもる。


「ふむ。」


「俺の甲斐性がないので…」


言いながらどんどん項垂れていく俺。


「ふむ。」


ふむしか言わないオッド。きっとわかっててやってる。俺は遂にorzの体勢になる。


「お金がありません。」


「ふむ。」


「あの、ふむ。じゃないんですが。このままだとハーレム作る前に俺は破綻します…。」


依然としてorz体勢で言うと、


「主、『甘言』を使えるのだから簡単であろう?他者から絞り取ることだって…。」


「あ、オッドさん、俺はあくまでも合法的に稼ぎたいんだけど?」


「む?ダメなのか?」


「手が後ろに回って、それはそれでハーレムが遠のくわ!」


顔をあげてツッコミを入れる俺。あくまで合法的に解決したい。オッドに頼んでる時点ですでに非合法な気もするけど。


「オッドは未来が見えるんだろ?」


そう、俺はオッドの言ったことは当たる事を思い出して、この話をしている。


「先は見えぬぞ。気配や予感といった範疇に過ぎぬ。ただ、確率を乱すことはできる。」


「確率を乱す?」


俺はorzからまた正座に戻って、オッドを見つめる。オッドは香箱座りに座りなおした。


「例えば雨の降る確率が0.1%でもあったとする。それを95%程度に上げることができる。」


天使が「運命を乱す」って言ってたのはそのせいなのか。それにしてもそれって。


「見えるどころか、変える力だな…。でも、なんで100%じゃないんだ?」


オッドは少し不機嫌そうな顔をして吐き捨てるように言った。


「あの羽虫の仲間らの妨害や稀に羽虫の主人(あるじ)の気まぐれが働くこともあるからな。まぁ、今は羽虫も堕としたばかりだ。悟られなければ100%に近くなるとは思うが。」


「じゃあ…宝くじの方がいいかな…?」


「む?主の希望する合法的な方法、というやつなのか?」


「そう。未来が見えるなら競馬とかサッカークジで勝つのを教えて貰えば稼げるなーって思ってたんだけど。見えるって訳じゃないなら、宝くじとかかなって。あれもある意味確率だし。」


「なんのことやら我にはわからん。宝くじとは何だ?」


「たくさんの人からお金を集めて、当たった人は何倍にもなってお金が入ってくる。夢を買う仕組みっていうのかな?」


「ほう?そうか。」


「当たれば大金持ちになれるし…。俺の満足には繋がるな。何せ金持ちっていうのはモテる!」


「主、顔が酷い事になっているぞ。それに主がモテているというのか?それは。」


オッドのツッコミに俺は咳払いをして、手を口元に持って行く。どうやら鼻の下が伸びていたようだ。オッドは半眼になりながら続けた。


「ハーレム形成に必要な資金や、我の器を管理する上で必要になる分くらい、というのはできるのか?その宝くじというのは。」


オッドは高額のお金を当てさせる気はないようだ。アレもコレも叶え訳にもいかないのかな。とりあえず、協力してくれるだけありがたいか。


「当選金の少ないやつとか、数字を自分で決めて…あ、そっちの方が確率って意味では良さそうかな。」


オッドは目を細めた。


「ふむ、あるのなら主に任せる…。」


香箱座りでそのまま目を瞑ってしまった。きっと病院で疲れたのかもしれない。俺はちょっと配慮が足らなかったのかもと思いながら、眠ってしまったオッドを見ながら柔らかく笑う。


「悪魔なのにな。俺はおまえの方が天使に見えるよ。」


そう呟いて、俺は部屋着に着替えて、読みかけの本を読む事にした。明日は土曜日。予定はあるけど、デートじゃないからぶっちゃけ適当だし、夕方からだ。俺は久しぶりに静かな夜を過ごしたのだった。





翌日、俺は買物に出ていていた。最近土日も忙しくので、冷蔵庫の中身も空っぽだ。食料品を買いに出ていたのだった。


「こんにちは。」


管理人さんが挨拶して、ニコニコしていた。


「こんにちはー。」


「猫ちゃん元気?」


「えぇ…え!!」


誘導尋問!!しまった!引っかかった!俺は狼狽える。オートモードは…女限定なのかな。あの能力。


「え、でもなんで俺だって…。」


「実はたまたま猫グッズを山ほど持ってるのを見かけたんだ。」


あの日か!気にしたつもりだったけど、見られてたみたいだ。


「あの…。」


俺はバツの悪い顔をしていると、管理人さんはニコニコしたまま続けた。


「ちゃんと許可とったら?意外と下りるみたいだよ?」


「え?そうな…んですか?」


「交渉次第みたい。聞くだけ聞いてみたら?あれだけちゃんと用意して、ちゃんと保護する覚悟があるみたいだし。…僕も猫好きなんだ。」


「あ、ありがとうございます…。」


一旦部屋に戻って管理会社に連絡しよう。急いで家に戻るとオッドが欠伸をしながら、


「主、だから主の能力があれば大丈夫と言ったであろう?」


と言った。


「オッド?俺なんも言ってないけど?」


「む?我は300m範囲なら声が聞こえる。」


「…本当に地獄耳ってあるんだな。」



管理会社の担当さんが運良く女性だったので、甘言と念の為、催淫まで駆使して、大家さんに許可をもらうという事になった。多分女性担当だったのはオッドのおかげだと思う。確率を乱したのだろう。そして、交渉の結果、家賃は上がったんだけど。…猫飼うのってやっぱりお金かかるわ。でも、これでオッドと暮らすのはほぼ問題なくなったようだ。色々やっていたら、もうそろそろ出ないといけない時間だった。


「よしっと。これで宝くじが当たれば完璧だな!」


「主、今日くじとやらも買うのだろう?」


「おう。おまえの言う通り、あんまり高額じゃないのを買う予定。じゃあ、行ってくるな。」


「ふむ。傘を持って行くがいい。」


そう言って玄関まで見送りに来たオッドは、折りたたみ傘をみる。


「雨降るのか。耳の後ろまで洗ったのか?」


「?」


「いや、なんでもない。留守番頼んだぞ。」


「主…我を撫でないのか?」


思わずニヤニヤしてしまう。可愛いじゃねぇか。思わず抱き上げて撫でてやると、オッドは目を細めて気持ち良さそうにした。


「主…。」


「言うな。いくらおまえが好きでも猫とはしねぇぞ?」


そう言って家をやっと出発したのだった。





約束していたのは大学時代の悪友たちだ。


「久しぶりだな〜。」


「3ヶ月くらいだろ?久しぶりでもねぇし。」


俺は思わずツッコミを入れる。


「そうだな。俺の結婚式以来だもんな。」


「新婚が土曜日に飲みに出てていいのか?」


「嫁も今日は飲み会って言ってたからいいの!」


「「…浮気じゃね?」」


俺も思わず言ってしまったけど、トウマも同じ事を思ったようで、思わずハモる。


「絶対ない!!あいつに限ってそれはない!」


慌てふためく新婚夫ヤスを笑いながら、どこで飲むかーなどと適当にフラフラしていると、大学生のグループとすれ違う。その中に見知った顔。


「あれ?ゆうちゃん?」


思わず声をかけてしまったら、ゆうちゃんは輝く笑顔で手を振ってこちらにやって来た。悪友2人のリアクションと言ったら…俺は思わず笑ってしまうのだった。


読んで下さってありがとうございます!実際、複数人とデートするとお金かかるんでしょうね…。

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