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1.癒しの黒猫

「癒しが…ほしい。」


深夜に帰宅中、俺は呟いた。しかし、今は深夜。癒されるようなものなど…夜中の癒しというと歓楽街くらいしか思いつかない浮かばないが…果たして癒されるかどうか。金を使うだけ使ってハズレ。なんてことだってある上に、そろそろ閉店時間だということに気がついた。はぁ…。ふと帰り道の公園に目がいった。そこには、猫がいた。


「癒しだ…。」


俺は近くのコンビニに行って猫缶を買う。歓楽街と比較すれば高級猫缶は安い買い物だ。これでモフモフ癒されるのなら十分釣りが来る気分。猫缶を2つほど持って先ほどの公園へ向かい、先ほどの猫を探す。ベンチ近くの茂みにソイツはいた。黒猫でオッドアイだった。野良にしちゃあ綺麗だし、オッドアイって確か高いんだよな?どっかの飼い猫だろうか?多分、家から抜け出してきたか何かだろう。


「おまえ、綺麗だな。オスか?メスか?どっちにしても、おまえはさぞかしモテるだろうなぁ。羨ましいな。俺もモテてぇわ…。」


そういいながら餌を食べる黒猫を眺める。はぁ…俺、疲れてるんだなぁ。疲れるとストレスで独り言も激しくなるって…どっかで聞いたことがあるようなないような。


「モテたい?それが主の願望か?」


どこからか声がする。とても良い声だ。


「そりゃ、男なら一度はモテたいと思うと…。」


ところで、俺は誰と喋っているのか…?キョロキョロと見回すが誰もいない。まさか幻聴?疲れが来るとこまで来たな。さっき歓楽街とか、モテたいとかいったからな。俺はベンチにもたれて空を仰ぐ。…今日はなんだか月がデカイな。


「では、契約成立だな。主よ、我を捧げよう、そして主の命を我に。」


「…は?」


俺はそのままの体勢で答えた。幻聴がめちゃくちゃなことを言ってきた。幻聴だからだろうけど。


「我を捧げ、勤めを果たす。その勤めを果たしたのち、主の命を我に。」


「や・だ・ね〜。」


俺はダルーい声で答えながら、下の方を見ると、黒猫がこちら見ている。


「なっ!主は供物を捧げ、願いを言った。先ほど主は願いを言ったであろう?」


猫が……喋った!遂には幻覚?いや…これは夢だな。俺、ベンチで寝てるんだ、きっと。夢ならいいか。風邪ひかなけりゃ。


「俺は猫缶をおまえにやっただけだぞ?」


「それが契りだ。契りは為されたのだぞ?あとは主が誓うのみ。」


「モテたいって言っても、モテた所で死んだら意味ねーだろ…。」


依然としてだらーんとした姿勢でベンチにもたれていると、猫缶を食べ終わった猫は膝に乗ってきた。折角だから存分にモフモフしてやる。猫の喉元を指でなでると、猫はごろごろと喉ならしながらいう。


「ぬ?そういうものなのか?では、モテて何をしたいのだ?」


モテて何をしたいかって…そういや考えたことなかったな。


「……………ハーレム?」


「ではハーレムを作れば良いのか?」


「ハーレム作って終わりって…その方が意味ねーわー。」


愉しまないで終了とか。その選択肢ないわー。ハーレムを愉しむ…考えただけで顔が…ニヤける。


「主、顔が酷いことになっておるが?」


「………とにかく、ハーレム作っただけで死ぬっていうのはナシ。だから、この話もナシだ。」


喉元を撫でるのをやめると、もっとしろと言わんばかりにすり寄ってくる黒猫。喋ってる内容がコレで無ければ、すごく癒されるのだが。


「契りは為されておるというのに…。まだ足りぬというのか、主は欲深いな。こいつは美味そうだ…ふっ。ならば、主がハーレムを作り、死んでも良いほどの満足がいった時、主の命は我に、というのはどうだ?」


「そんなん不可能だろ。やれるもんならやってみろよ?」


そう言いながら、俺は黒猫の頭を撫でると黒猫は目を細めて気持ち良さげにした。死んでも良いほどの満足ってなんだよ?それほどの思いならしてみたいもんだ。


「では主よ、我に命を。」


「あぁ。やる、やる。」


俺は適当にいうと黒猫は言った。


「誓いは為された。」


そういうと、黒猫は去っていった。俺は夢だと思いつつも、このままもまずいだろうと思い、家へと歩いて帰った。



ーーーーーーー


「あ゛ー疲れが取れねぇ…。」


俺はベッドから身体を起こしながら、ひとりごちる。昨夜…0時は回ってたから厳密には今日だけど、まぁいいや。昨夜は公園のベンチなどではなく、きちんとベッドで寝ていた。けれども疲れは取れないし、9時には出勤しないとならない。近いといえども家を8時前には出なくては。ここんとこ納期やらなんやら立て込んでて、身体がつらい…。

それにしても昨日の夢はなんだったんだ?俺ってば欲求不満?………うん、不満だった。そうだった。彼女イナイ歴はかれこれ6年だ。学生時代、奇跡的に出来た彼女にフラれ、それ以降さっぱりだった。不満じゃないわけないな、そう思いながら俺は自分の下腹部を見やる。朝だしな、うん。


「うしっ。行くかー。」


会社は2駅先。そんな遠くもない。すごく都会ってわけではないが、そこそこに栄えた所にある。駅も最寄りが複数あり、不便ではない。俺の家からは頑張れば自転車でも通えるのだろうが、ギリギリまで寝ていられるように俺は電車通勤だ。疲れた身体で自転車漕いで帰るなんて…そんなことは趣味じゃないし。


「おはようございます。」


「おはようございまーす。」


経理の女の子に挨拶した。可愛いんだよなぁ、この子。ゆるふわな雰囲気と小動物な可愛らしい見た目。あの目で見つめられて…笑いかけられただけでも「ありがとう」とお礼が言いたくなる。まぁ、挨拶しかしないけど。関わりほぼないけど。朝から福眼だったからよしとしよう。

自席に着いて今日の予定をチェックする。よし、今日は絶対早く帰ってやる。どこにも行かず、まっすぐ。そう思ってメールチェックをしていると、部長の声が響いた。


「はぁ?請求書の誤り?先方に訂正と謝罪に?担当今いないぞ?!あー行けそうなヤツ…」


部長の目が獲物を探している。ヤバイ。目を合わせたらヤられる。合わせたら負けだ。今日は早く帰るんだから…。そう思っていたはずなのに。思いとは裏腹に口が動いた。


「私、行けます。行ってきます。」


えー?!俺?!なんで?俺行くって言ってるの?しかも食い気味に。でも行くって言っちゃったから行かなくては。だって、会社員だもの。





…怖かった。担当じゃなくて良かったって思うくらい怖かった。めっちゃ怒られた。土下座に近いものはしたとだけ言っておく。会社に帰ってくると部長がニコニコしていた。


「いやー助かったわ。あそこ怖くて有名でなぁ。お疲れ。」


マジでか。そんな怖いとこ行ったの?俺。っていうか担当誰だったっけ?毎回あんなの相手してるのか。俺は心の中で合掌する。


「でな、本当は会社のミスだから良いっていったんだけどな、本人がどーーしてもっていうから。」


部長の後ろには今朝の経理の女の子。


「あの…実は今日の、私のミスのせいで…。本当、ありがとうございます。」


ぺこりと頭を下げて申し訳なさそうな顔しているが、あぁ、俺、見つめられてる。やっぱ可愛いな…。


「いやいや、気にしないでください。そういう役割なんで!」


俺は笑って言った。


「はい、謝罪が終わったら、さっさと仕事戻る!はい!」


「あ、はい…。」


部長が後ろを向いた後に、経理の子は俺にメモを手渡すともう一度頭を下げて帰っていった。可愛かったなぁ…。あれでにっこり笑われたらやばかった。疲れも吹っ飛ぶけど、色々吹っ飛びそうだ。そんなアホな思考に蓋をして、自席についてメモを開く。これは…もしや…L◯NEのIDでは…?

俺はすぐに


【さっきのことは気にしないで、何かあったらまた連絡ください。】


と送った。しばらくすると


【お礼させてください。今夜御飯でもいかがですか?】


との返信が来た。これは…もしや…いや、期待するのは危険だ。このパターンは「本当にお礼だけのつもりでー。彼氏?いますよ?」のやつだな。あぁ、危ない。騙されるとこだった。

しかし、可愛い女の子との食事。いやでもテンションは上がる。まっすぐ帰る予定?しらねぇな!

その日の仕事を猛烈な速度で終わらせて、俺は定時ちょっと過ぎに会社を後にした。



食事は会社から少し行った所の彼女のオススメの店だった。


「へー。ユリちゃんっていうんだ。」


「仲いい子はゆーって呼ぶんです。」


「ゆーちゃんか。可愛いな。あ、でも、こんな気安く呼んだら怒られるんじゃない?彼氏とかに。」


「彼なんていませんよぉ?」


「意外だな。すっごく可愛いから確実にいると思ってた。」


「そんな〜。お上手ですね!」


「いや、いつも挨拶するとき思ってたよ。可愛いなって。」


俺はゆーちゃんに、にっこりと笑いかけた。すると、


「そんな褒めても何もでませんよ?」


ゆーちゃんはそう言ってちょっと赤くなった。本当可愛い。どうしよう。それに可愛い、可愛い言っても嫌がられたりしてないあたりなんだか好感触だな。お近づきになれた感がある。

それにしても、今宵の俺は一味違う。冗談じゃなく、本当に。なんだか魔法のように口が滑らかに動く。普段なら萎縮したり、カラ回りすぎたりするのに。なんだろう、ものすごく自然に話すことも褒めることもできてる。


そして、会話も弾み、仕事の話だけでなく、趣味の話となった。


「あ、その漫画俺も好き!」


「あれ、いいよね?あのシーンとか感動したよね!あの人が仲間になるシーン!」


ゆーちゃんは漫画好きらしい。俺も本は全般好きだ。話は白熱する。


「じゃあ、あの漫画は読んだ?ソレが好きなら面白いと思うよ!あ、絵が苦手とか無ければだけどね。」


「え、本当?タイトルは知ってるけど、まだ読んだことないの。」


「俺、全巻持ってるよ?今度貸す?」


「うん!良ければ、貸してほしいな!」


時計をみたら結構いい時間だった。今日はまだ水曜、明日も仕事だ。


「ゆーちゃん、今日はこれくらいにしとこうか、明日も仕事だしね。」


「あ、本当だ。まだ話足らなかったなぁ。」


「そうだねぇ。あ、お会計お願いしまーす。」


会計はゆーちゃんは奢ってくれようとしたようだが、気がつけば、有無を言わさずに俺が払っていた。店を出た後、ゆーちゃんは代金を払おうとしてくれていたのだが、俺は


「いいよ。また一緒に食事行った時で、ね?漫画も貸したいし。」


と自然と次の約束を取り付けようとしていた。ゆーちゃんも、


「そうだね。また一緒に御飯いこう?」


ノリ気で答えていた。あれ?俺ってこんなキャラだったっけ?


「ゆーちゃん、何線だったっけ?あっちの線?遠くないし、駅まで送るよ。」


そう言ってゆーちゃんを駅まで送った。本当に今日の俺はデキる子だった。


誰もいなければスキップでもしたくなるような帰り道だった。本当、謝罪に行った時は今日はツイてないって思ったのに。行ってよかったな。そもそも俺行くってなんで言ったんだろ?そんなことを考えていたら、昨日の公園から昨日の黒猫が出てきた。


「おまえが招き猫だったのかもな?」


なんとなく昨日の今日なので、話掛けてしまった。話をしたのはただの夢だったというのに。すると黒猫は


「主の望みはこんなものではないだろう?」


そう言って闇に消えていった。また幻聴…?浮かれすぎたのかもしれない。




読んで下さってありがとうございます!

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