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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

最悪な繰り返し

作者: 自来也
掲載日:2016/09/15

俺は村井永司むらいえいじあるド田舎に住む中学3年生。

中3と言っても、着ているのは制服ではなく黒ジャージの上着に短パンだ。その理由は面倒だから。じゃなくて、俺らが小1のときは20人ぐらいの生徒がいたんだけど、みんな学年バラバラで教師の数も足らないからみんな同じ教室で授業してた。それで、小学生から中学生までの服装を統一感がないんだったらいっそ自由でということで制服は着ていない。というか、持ってない。

そして、ここにいるもう1人の学生というのは、

「永司行くぞ」

そうそれが俺よりもいくらか低い声で無愛想に言ったこいつ中野庄司なかのしょうじだ。

庄司は青いジャージの上着を着て、青い短パンを履いて青いバッグを背負い教室のドアに手を掛けて言っ た。

ここまで青で統一するのも凄いが、ある意味これじゃ変態だな。とか、考えていると庄司がもう1度こっち見たのでバックを持って立ち上がりながら言った。

「おう。」

庄司は俺と同じ中学3年生でガキの頃からずっと一緒にいる。上の学年やつらと遊ぶ時も俺らは一緒になってそいつらと遊んだ。つまりは、幼馴染みってことになる。

それともう1人この教室にいる人物それは、

「2人とも早く帰るのよ。気を付けてね。」

優しい声で注意を言ったこの人、中野由紀恵なかのゆきえだ。俺達の唯一の先生であり、庄司の実の母である。歳は確か今年で40歳だったはずだ。

そんな先生は髪を後ろで縛り、丸眼鏡をかけて短パン半袖と随分地味な感じだか、整った顔立ちやスタイルの良さから髪を下ろして着飾れば今でも目を惹くほどの美しさがあるように思える。

「分かってるよセンセー」

「分かってるよ母さん」

俺らは教室のドアの所で俺は先生のほうを振り向きながら、庄司は完全に廊下に出た状態で言った。

俺は慌てて庄司を追いかけた。

「おい、待てよ。」

俺は靴を履き替えながら数メートル先を歩く庄司に向かっていった。

「はあ、早くしろよ。」

半ば呆れたように庄司は言った。

俺はやっと靴を履くと、小走りして庄司に追いつた。

「何、急いでんだよ。」

「は?お前忘れたのかよ?」

「ん?なんのこと?」

今度は本当に呆れたように、いや、呆れて庄司が溜息をついた。

「神社に行くって...」

「ああ!そうだった、そうだった」


この村には小さい神社が一つある。この村と言っても、元は14〜5年前になくなってしまった隣村の神社だったのだが、なくなってしまったため一番近いこの村が引き継いだというわけだ。でも、場所はほとんど移さなかったというか移せなかったため、隣村との境の林のなかにある。

それに、神社と言っても実際は鳥居があるだけで神社とは呼べないほどの大きさであり、誰もお参りをしたりするわけではなく、住職がいるわけでもなく掃除なんかも年に一回やるかやらないだ。最早、神社としての機能も意義もないと言っていい。

さらに、村の住人は近づこうとしないし、掟でも近づくことを禁じていた。

掟と共に語られる言い伝えがある。その言い伝えでは、狂った男が村人を全員殺して最後には自分も首を吊って死んだというこの手の話ではありがちなものだ。その首を吊った場所があの神社もとい鳥居の中であると言われている。

俺はこの言い伝えには半信半疑なのだが、庄司は事実だと信じている。

だから、興味本位で何度か入ってみようと試みたのだが、その度に見回りをしている大人に見つかり怒られ、または、完全警備の状態になっていて近づけなかったりした。

しかし、祭りを来週に控えた今日は村人たちが急ピッチで祭りの準備し始めるため平日同様に警備をする余裕もいちいち見回りをしに行く暇もない。


なので、行くなら今日だという話しになった結果、今に至る。

「はあ、やっと着いたぁ。少し休もうぜ。」

俺がぼやくとバッグから青い長ジャージの下を引っ張り出して履いていた庄司が睨みつけてきた。

「何言ってんだ早く行かないと入れなくなるかもしれないだろ。行きたくないなら俺一人で行くぞ。」

「はぁーもう、分かりました分かりました。行きゃいいんでしょ行きゃ。」

俺が諦めると庄司は林に向き直った。俺もそれにならって林の方を向く。

「さてと、行きますか。」

鳥居は林の奥にあり、ここに鳥居があることを知っていたとしても注意深く見ていないと通り過ぎてしまうほどだ。

「ああ、だな。」

こうして、俺と全身青で統一しきった庄司が林の中へ入っていった。


林を抜ける頃には俺は膝下にいくつかの擦り傷を作り、上のジャージには小さな穴をあけた状態になった。庄司は膝下に擦り傷がないだけで大体俺と同じ状態だ。

林抜けてそこにあったのは、横幅約3メートル高さ5メートルほどの赤い鳥居だ。その奥にはまた林が広がっている。

「ほんとに鳥居だけだな。」

俺が呟く傍らで庄司が目を凝らしている。

「いや、こっからじゃ見づらいけど石畳の道がある。ほら、あれ。」

俺も目を凝らすとそこには林に隠れて石畳があるのが分かった。

「ああ、ほんとだ。」

「きっとあの奥に神社があるんだろ。行こう。」

「ああ。」

本当は行きたくないと言いたいがここまで来て引き返すのもコイツが許さないだろうし、何よりも奥に何があるのか知りたい気持ちが強い。

ので、また林の奥へと俺らは進んで行く。

石畳があるので、鳥居までの道よりは林から受けるダメージは少ないがそれでも、一つ一つ傷を増やしていった。


「何もねぇじゃん。また、進むのか?」

石畳の道がなくなったところには開けた場所があるだけで、期待した神社らしきものはなかった。

それゆえに、半ばキレ気味に俺は庄司に聞いた。

「いや、ここでいい。多分ここには昔神社があったんだろ。」

確かにそう言わればそうだと分かる。周りとは明らかな違いその部分には木がなく草ばかりが生えている。さらに、その中心と思われる場所は草すら生えていず土が露になっている。

「はい、これ。」

庄司が突然俺に小さいスコップを渡してきた。

「何すんだよ?てか、何でこんなもん持ってんだよ?」

「んあー本当はあの鳥居の下に何かあると思ったんだけどさ、来てみたら道が続いてたってわけさ。」

庄司は言った後、スコップで土が露になっているところを掘り始めた。

それにならって俺も背負っていたバッグを脇において掘り始めた。


2人で黙々と小さいスコップで20分ほど掘ると「ゴツっ」という音がした。

周りの土を手で避けるとそこにはよくタイムカプセルを入れるような箱として使われる感じの銀色の箱が出てきた。

「何だこれ?」

「とりあえず開けてみるか。」

そう言って庄司は箱を開けようとする。しかし、蓋は固くなかなか開きそうにない。

「うぬぬぬぬ!はあぁぁぁぁぁ!うおりゃぁぁぁ!」

庄司が気合を込めて開けようとするのだが、蓋はびくともし無い。いや、どんだけ固いんだよと内心で思いながら手を出した。

「貸してみろ。」

「ああ。はあ...はあ..」

俺が箱を開けようと力を入れるとあっさりと開いた。

庄司が隣であんぐりといった形で口を開けて固まっている。

それを無視して俺は箱の中を漁った。

「袋か?」

「2つあるな。」

中には2つの黒い袋が入っていた。中を透かしてみることは出来そうにないが1つには何枚かの紙のようなものがかさなっているようで、もう1つのほうにはナイフが入っているようだ。

とりあえず紙のようなものが入っている方から開けることにした。

「写真みたいだな」

中に入っていたのは数10枚の写真だった。

「これは...どういうことなんだ...」

俺はその中の1枚を取り出して驚愕したそこに写っていたのは、赤ん坊の俺と庄司そして、その真ん中に先生だ。

この写真が何を意味するのかを考える時間は突然奪われた。

出てきた物に夢中になり過ぎて気づかなかったが、俺らの正面つまりは村の反対側から右手にナイフを持って歩いてくる男がいたからだ。

俺も庄司も気付いて走り出したが俺は途中で盛大に転んだ。膝を擦りむき、口には砂が入る。

その一瞬で、男はナイフを構えて距離を詰めてきた。

ー怖い痛いやだやだ死にたくない死にたくない

「あ..あ..あぁぁぁ!く、来るなぁぁ!」

「うっ」

男が腹の辺りを抑えて呻き出した。

「永司!早く逃げろ!」

俺は庄司のいる方に走り出した。

「待て、クソガキがぁ殺してやる!」

男が立ち上がって追いかけて来るのに向かって庄司が石を投げた。男は石を避けるときに態勢がよろけた。

その隙に俺達は村へと続く林の中へと入った。


そして、そのまま走り続けて村についた。その頃にはもう太陽は沈みかけていて、辺りをオレンジ色に彩っていた。

「はあ..はあ..ここまで来ればあの男も来ないだろう。」

「そ、そうだな。てか、あの男誰なんだよ。」

「分かんねぇ。まあ、とりあえずみんなにあいつのこと言いに行こう。この時間ならみんなまだ広場にいるだろうから。」

広場とは村の中心にある普段は何も置いていない場所だ。しかし、祭りの一週間前になると祭りの中心地となる広場では準備のために村人が集まる。


広場が見えるところまで近づくと人が寝ているというのが分かった。

俺らはそれが見えて少し走る速度を上げてそれがはっきりと見えるとこまで行って立ち止まった。

「あ..あ...あぁ...うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

俺は膝から崩れ落ちて喉が張り裂けんばかり叫んだ。泣き叫んだ。

何故なら、そこにいる全員が寝ているのではなく死んでいるからだ。

全員に刺傷があり、辺りを血が赤く染めていた。

しかし、この場にある死体はまだよかった。ある死体は何度も刺された跡があり、ある死体はドブに半身を突っ込んでいた。それら全てはこの村で生活を共にした仲間だ。

「と、父さんと母さんは...父さん...母さん...先生...」

俺はおぼつかない足取りで家に向かった。

「あ、あぁ...あぁ...あぁ..あぁぁぁぁ!うっ..あぁぁぁぁぁ!」

家に着くとまず玄関にもたれかかって口から血を流して死んでいる父さんを見つけ、肩を揺すりながら叫んだ。

「うあぁぁぁぁぁ!父さん!父さん!起きろよ!」

死んでいると分かっていても信じられなくて何度も肩を揺すりながら叫んだ。

家の中に入って母さんを探した。もしかしたら、母さんだけは生きているかもしれないと必死に死んでいる可能性を否定し続けながら探した。

「母さん!どこにいるだ!」

台所に行って母さんが背中から血を流してうつ伏せになって死んでいるの見つけた。

「うぁぁぁぁ!母さん!母さん!うっ..うぐっ...うぁぁぁぁぁ!」

声が枯れるまで叫び、涙が枯れるまで泣き続け気付けば外は暗くなっていた。

いつの間にか消えていた庄司が家の玄関のところに立ってこっちを見ているのに気づいた。

「永司..」

「あいつだ...」

「えっ?」

「あの男だ!あの男がやったんだ!あの男が...!あの男が...!許さない!許さない!殺してやる!殺してやる!絶対殺してやる!」

俺がそのまま飛び出そうとすると庄司が立ちはだかった。

「どけよ!俺はあいつを殺しに行くんだ!」

「待てよ!どこにいるかも分からないだろ!第一こんなに暗くなったんじゃ危険過ぎる!」

「知るか!俺はあいつ殺して...うがっ...何しやがる...」

庄司は思いっきり俺の鳩尾を殴った。その一撃は結構強烈で吐きそうになる。

「いい加減にしろ!今はみんなの死をとむらうべきだろ。」

庄司の正論に俺は黙って従うしかなった。


だから、俺らは出来るだけそれぞれの死体をそれぞれの家に運び入れた。それがせめてもの弔いだという結論至ったからだ。

運び入れるために村人を持ち上げようと触れる度に冷たくなった体が改めて死んでいる事を実感させて、最初の5人まではずっと涙を堪えていた。それからは、慣れたのか段々と死に対しての感情が薄れていった。

勿論それで、悲しくない訳ではない。ただ、ちゃんと家に帰してやりたいと思ったから泣くのではなく、家に死体を運び入れる作業に没頭したのだ。


村長を家に運び入れているときに庄司が呟くように言った。

「母さんがいないんだ。」

「えっ?家にいなかったのか?」

「あぁ村のどこにも学校にも行ってみたけどいなかった。」

庄司が言った事がどうしても先生が逃げるのをあの男が殺したというのを想像をさせる。そして、忘れていたがあの写真のことも否応なく思い出され、俺はもう思考停止寸前である。

「夜が明けたらもう一回あそこに行こう。」

俺は何故と問い返す気にもならず曖昧に頷いた。

「今は、とりあえず俺の家に行こう。」

庄司はそう言って歩き出す。俺はそれに従ってついて行った。

途中で着替えを取りに行けと言われて家に寄ることになった。なるべく父さんと母さんの死体を見ないようにして着替えをとり、出る時には敢えて父さんと母さんを見て、少しでも目に焼き付けておくことにした。

5分ばかりそうして、着替えを袋につめて走って庄司の家へと向かった。

庄司の家の玄関に着くと、裏庭の方から庄司が出てきた。

「風呂入っとけ」

庄司が唐突に言ったそれはあまりにも今の状況を考えていないように思えた。

それに、今はそんな気分ではない。村人が殺され、愛していた父さんも母さんも殺され、先生は行方不明なんだ。さらに、村人を殺した男の居場所も分からない。こんな状況で風呂に入れというのは頭がおかしいのではないかと思った。

だから、強く否定しようとしたが、精神も身体も疲弊しきって強く否定するほどの体力も気力も残ってないかった。

「そんな気分じゃ...」

「ダメだ。服も体も汚れてるだろ。それに、その傷どうにかしなきゃだろ。」

庄司は憮然ぶぜんと言い、半ば強引に俺を風呂に入らせた。


俺はとりあえず風呂に入ることにした。風呂と言っても湯につかるわけではなく、シャワーだけを浴びることにした。

蛇口をひねってシャワーのお湯を流す。

流れるお湯にダラダラと当たりながら今の状況を客観的に整理しようとしたが、浮かんだのは父さんと母さんの死に顔と生きていた時の元気な様子ばかりだ。母さんがよく作ってくれた肉じゃがの味。仕事の合間に昔話や色んなことを教えててくれたり、車で遠くに連れてって遊んでくれた父さん。

「あー肉じゃが...食いてぇなぁ...釣りしてぇなぁ...」

ジワジワと涙が出でくる。

「くそ!あの男...絶対に殺してやる!」

この時俺は覚悟を決めた。殺人を犯す覚悟を。


風呂から上がって傷の治療して、腹は減っていたが食欲はなかったから何も食わなかった。

そして、余りにも疲れていたせいか気づいたら居間のソファで俺は寝ていた。

翌朝、早くに目が覚めた。

起きてまず庄司を探した。庄司は2階の自分の部屋で昨日よりもいくらか小ぶりのバックに荷物を詰めていた。

「庄司...」

「永司行くぞ」

庄司は荷物を詰め終えたところで、バッグを担ぎながら言った。

昨日も聞いたこの言葉は全く違う状況で全く違う場所で発せられたにも関わらず、行く理由も向かう場所も同じであるこの奇妙な偶然は庄司のイタズラか、運命のイタズラか。

理由はただ、真実を知り、あの男を殺すために。俺らはもう一度あの場所へと向かう。

ならば、その答えは昨日と同じであるべきだと思ったから

「おう」

それからすぐに、俺らは神社跡地に向かった。


神社跡地に行くために林の入口に立った時、それはまるで異世界への入口なのではないかと思うほど不気味だった。

ここに入ってしまったらもう後戻りは出来ない。入ったが、最後俺達は生きて帰れない。とさえ思えた。

それなのに、不思議と恐怖は感じない。感じるのは、今にも爆発しそうな怒りと高揚だ。

俺らはこの先にある何かに引き寄せられる様に林の中へ入っていった。

林の中は相変わらず俺らの服に穴を開け、傷をつけてくる。

今回は流石に上下ともに肌を守るように長いもの着ているため服に穴が開くだけですむ。

10分ほどして林から抜け、鳥居に着いた。

小さな赤い鳥居は異世界への入口を開けて俺達が入るのを待っているようにさえ見える。

その鳥居をくぐって、林に囲まれた石畳を進んだ。


さらに、10分ほどしてようやく目的の場所神社跡地に着いた。

俺らが着いた時そこには俺らに背を向けて立っている人がいた。

最初はあの男かと思ったがそれは違うとすぐ分かった。

そして、誰であるかも。

「母さん...」

「先生...」

こちらに背を向けて立っていたのは昨日と変わらない服の中野由紀恵だ。

普段は結んでいる髪を下ろしているがそれでもすぐに分かった。

「来たのね。あなた達...。」

俺らの方に振り向きながら言ったその顔はどこか悲しげで、嬉しそうだった。

「良かったわ。生きてて。」

「センセーも...」

庄司が俺の目の前に手を出して言葉を遮った。

「母さん昨日はどこにいた?」

「庄司どうしたん..」

「永司は少し黙ってろ。」

またも、庄司に言葉を遮られる。

庄司は激しい怒りと悲しみの混在した目で先生を見ている。

しかし、俺には何故庄司が先生にキレているのかが全く分からない。

先生はその目をまっすぐ見つめて儚げに笑った。

「何がおかしい?」

庄司はさらに語気を強めて言った。

「やっぱりあなたあの人に似てるはね。」

「あの人って誰だよ!いや、そんなことどうでもいい!質問に答えろ!」

庄司は先生に襲いかかりそうな勢いで言った。

「まあ、落ち着いて。その質問に答えるよりも先にあなたたちに伝えなければならないことがあるの。」

「伝えなければならない事だとふざ...」

今度は俺が庄司の前に手を出して言葉を遮った。

「センセー俺達に伝えなければならないことってなんだよ。」

「そうね、さしずめ嘘と秘密の真実といったとろね。」

随分と勿体ぶって言った。それはまるで、この状況楽しんでいるようにも思える。

「嘘と?秘密?」

「ええ、そうよ」

先生は昨日俺達が掘り出した銀色の箱を林の中から持って来た。

箱の中から恐らく写真の入っている袋を取り出した。

そして、袋から写真を全て取り出して、俺達に見える様にした。

「この写真の右側の赤ん坊は庄司。そして、左側は永司あなたよ。」

「どういうことなんだよセンセー。」

先生の言ったことの真意が俺には分からなかった。いや、分かっていて分かろうとしなかった。

「つまり、あなたは私の子供で、庄司とは実の兄弟なのよ。」

俺はそれに対して反応できなかった。理由は告げられたことに驚いているからだけではない。

確かに、驚きはしてるのだが、何故かそれは薄い。あの写真を見た時からこの展開を予想していたのかもしれない。心のどこかでそんな気がしてたからなのかもしれない。

いや、あの写真を見た時からではない。もっと前からのような気もする。だから、俺は咄嗟に反応できなかった。

それは、庄司も同じであった。

「意外と驚いてないのね。」

先生は黙っている俺達に少し残念そうに言った。

「驚いているよ。けど、何で俺が...」

「その理由はもう一つの真実を聞けば分かるわ。」

「そのもう一つの真実は何なんだ。」

庄司の声には親しみの感情はなかった。しかし、俺には何故庄司がここまで怒っているのかがまだ分からなかった。

「この村の言い伝えよ。」

「言い伝え?あれがどんな関係がある?」

「そうね。あの言い伝えは2つの事実に基づいたものよ。」

「事実だとあんなのが2度も起きたってのかよ。」

「意外ね庄司あなたがそんなに驚くなんてね。てっきり、あなたはあの言い伝えを信じていると思っていたわ。」

先生は庄司を煽るように言った。

「あの言い伝えがある程度は事実だとは信じでいたけど2度もあるなんて思わなかっただけだ。」

「まあ、それもそうよね。話してあげるわ。」

そう言って先生はその場に座った。

「あなたたちも座ったら長くなるわよ。」

俺らはそれに答えず立ったままでいた。

「まあ、いいわ。古いほうはここに神社ができた年の出来事で100年以上前になるらしいわ。こっちに関してはこの程度しか知らないわ。」

先生は考えるように目を閉じた。

しばらくの間のあと先生は目を開けた。

「まずは、プロローグからね。」

「プロローグだと」

「ええ、これを話さないと多分訳分からなくなわよ。」

庄司は口をつくんだ。

「あなたたちが生まれて1ヵ月した頃あなたたちの父さん波白連なみしろれんはここの隣村の住人を退去させるという仕事をやらされていたわ。あの頃連は会社で酷いイジメを受けていたの。というのも、連が優秀過ぎて周りが妬んだのとその会社の社長の息子に目をつけられてしまったことでイジメは加速したのよ。本来なら連がやらなくてもいいような雑務やキツイ仕事ばかりやらされていたわ。それでも連は耐えて仕事をしていたわ。でも、業績はなく連はリストラ対象になってしまった。そして、最後のチャンスとしてやらされた仕事がさっきも言った通り隣村の住人の退去よ。」

先生はここまで言って、遠い目をして空を眺めた。

そして、向き直ってまた話始めた。

「でも、この仕事は最初から無理だった。何故なら隣村の村長は社長の息子から賄賂を貰っていたの。結局連は住人を退去させられずリストラ。さらに、私達の荷物を隣村に持ってこさせた。私達にはそこから引っ越す金もなかったから、そこに住むしかなった。」

先生は「はぁ」とため息をついた。

「ここまでが、プロローグよ。」

「プロローグにしては随分長いな。」

庄司は冷淡な声で言った。

「そうね。でも、ここからは本編よ。」

これには庄司は何も言わず先を促した。俺はそれを黙って見て先生が話し始めるのを待った。

「ちょうど14年前の今頃....


暑い日が続き、扇風機は必需品となっていた。この夏扇風機を使わない日はなかった。

この日も村人からの嫌がらせはあった。村長にいびられ、村の大人には陰口を言われ、話しかけると無視され、馬鹿なガキ共は家に石を投げ込んだり、大声で罵声を浴びせてくる。

しかし、こう毎日だと段々感情が麻痺してしまう。怒りという感情を抱くことさえ面倒に思える。ただうるさいのは我慢ならない。時々、全員殺してしまえば静かになるとか考えてしまう。

しかし、それは実行に移せない。というか移そうにもその気力も体力もない。何故なら、家の中では酒びたりになってしまった夫、連と2人の子供がいるからだ。

連は3週間前に会社から不当解雇と言っていいやり方でクビにされた。それ以来、連は酒びたりになりずっと酔っているような状態だ。

それに、子供2人は2ヶ月ほど前に生まれたばかりで目が離せない。到底、村人の嫌がらせと格闘している時間なんてない。

「連!連!」

「うっ..いてて」

時刻は午後6時をとうにまわってしまっている。

飲み過ぎの二日酔いだ。何日間かぶっ続けで飲んだ後、こうして正気に戻る時があるこういうときは朝に起こしてもまだ酔っていたりするので昼過ぎもしくは、夕方には起こすようにしている。

「ゆき?どうした?」

「畑から食べ物取ってきてくれる。」

「分かった。」

テーブルの上に置いといた水を飲み干すと畑のほうへと行った。

幸い村人は畑には嫌がらせをしなかった。きっと、自分達の作った物をよこしたくなかったからだろう。

数分して戻ってきた連は、カボチャ、レタス、しそ、その他もろもろを担いでいた。

「結構とれたはね。」

「そうだな。子供達見てるから飯作ってていいよ。」

「うん。ありがとう。」

連は正気の時は家事や子育てを手伝ってくれる。

私は連に子供を預けて、夕飯の支度を始めた。

夕飯の支度をしている間連は子供達と風呂に入っていた。風呂からは楽しそうな声が時折聞こえてくる。

連は正気のとき子供の前では笑顔でいようと努めていた。いや、もう子供の前でしか笑顔でいる事は出来なかったのかもしれない。

私の前だと申し訳なさそうに顔を背けるばかりだ。

「出来たわよー」

「ご飯出来たって」

子供達は言葉を理解しているのか分からないが連に抱えられてやってきた。

「おいしそうだねー」

こうして見てると普通の夫でお父さんにしか見えない。

「どうしたの?食べよ。」

「あ、うん。」

ボートっしてたらしい。

夕飯の後片付けをして風呂から上がると連は居間にいた。

「子供達は?」

「疲れて寝ちゃったよ。」

「そっか」

子供達の寝顔を見て微笑ましく思っていると連が隣に立った。

「可愛いな。」

「ええ、可愛いわね。」

「愛おしいな。」

「ええ、愛おしいわね。」

そんなやり取りをしていると連は台所に行って缶ビールを取ってきた。

「少し飲まないか?」

「少しだけね。」

私は連が注いだビールを飲んだ。すぐさま眠気に一気に襲われそのまま眠ってしまった。

「ごめんな。愛してるよ。」

連がそう言うの聞いて意識がなくなった。

気がつくと朝になっていた。背中に毛布がかけられていた。

家の中を探し回ったが連はいなかった。

不思議に思って外に出てみた。

そこには、この世とは思えない惨状が広がっていた。

刺殺体が大量に辺りに転がっていた。

どれもほとんど1発で殺られているようだ。村長や私達に特に酷い嫌がらせをしてきた奴らは死体にいくつもの刺傷があった。

この時点で犯人は連だと分かっていた。

村中探したが連はいなかった。

だから、掟で入れないようになっていた神社に行ってみた。

そこで、連は首を吊ってい死んでいた。

「連!連!何で...何で...うぁぁぁぁぁ!」

私は泣き崩れた。その時、足元落ちていた黒いノートに気づいた。

表紙にはボールペンで「遺書」と書かれていた。

『これを読んでいるという事は俺の死体をみてしまったんだね。

ゆきお前には迷惑ばっかかけたな特にこの3週間はほんとに酷かっ た。ごめんな。ありがとう。

庄司と永司のことを頼んだ。あいつらの成長見たかったな。

けど、俺は引き返せなかった。

俺が村の奴らを殺したのは道ずれにするためだ。

俺はシラフの時でも村の奴らに殺意を覚えてしまう。きっと、酔っている時はもっと酷いんだろう。

けど、お前は俺を止めてくれる。その時に俺は愛するお前らに酷 いことをしてまいそうな気がするんだ。

だから、俺は村の奴らと地獄に行くよ。お前らはこっちに来るなよ。』

読んでいる間涙は止まらなかった。

読み終えた今も涙は流れ続けている。

「連どうして...どうして!」

私はノーを抱えて走って家に帰った。

子供達の顔を見た瞬間に安堵と不安に襲われた。

子供達が生きていることの安堵。この先この子達とここではない場所で暮らしていかなければなならない不安。

安堵に浸っている場合でも泣いている場合でもない。

これからどうするかを考えなくてはならない。

まずは、食料。これは村中のものを食えばいい。

次に金だ。これに関しては村長の所ぐらいしかないだろう。他の所は大して持ってないふうであったし。

しかし、村長の所の金は金庫の中で暗証番号が分からないと開かない。

何かないかと連の残したノートをめくった。

すると、ちょうど真ん中ぐらいに「村長の金庫の暗証番号」と書いてあり、その下に「1421」という数字があった。

その数字を押すと金庫のロックは解除された。

中には大量の金と金の延べ棒が入っていた。その中から、1000万ほど取ってバッグに詰めた。

そして2、3日この村で暮らした。これからのことを考えて子供は2人も育てらない。

どちらかを誰かに預けるしかなった。しかし、信頼出来る者は誰もいなかった。両親は去年交通事故にあって他界した。連の母親は連が小さな頃に死んでしまっているし、父親は病気で床に伏せている。

決断を下さなければならなかった。

隣村の村人を観察して気の優しい夫婦を見つけた。子供はいないようだが、子供は好きみたいだ。

だから、そこに永司を預けることにした。

私は庄司を連れて1年間みを潜めることにした。

1年後私はこの村に来た。永司と庄司は同じ所で育って欲しかった。そしてなによりも、私が永司も庄司の成長を見ていたかったからだ。

幸い私は教員免許を持っていたので村の小中合同になっている学校で教師をすることになった。


これが、もう一つの言い伝え。それとこの村にいる理由よ。」

聞き終えても俺は驚きで言葉を思いつかない。

何故、父はそんなことをしたのか。何故、庄司ではなく俺が預けられたのか。そんな事ばかりが頭の中でずっと回り続けていた。

先生は立ち上がり銀色の箱からナイフを取り出しそれをポケットにいれ、箱を逆さにして3度そこを叩いた。

底が地面に落ちた。ように見える。しかし、底は箱にちゃんと付いていた。どうやら裏底になっているようだ。

そして、落ちた底の上にあるものを取った。

「これが、遺書よ。」

そうそれは俺らの父連が残した遺書だ。しかし、庄司はあまり興味が無いようだ。

「何故、俺だったんだ?何故、俺は母さんといることになったんだ?」

「簡単よ。あなたの方が連に似ていたの。」

ああ、そうか。この人はまだ連っていう俺らの父さんを求めるんだ。

「そんな殺人犯と似てるってふざけんな!」

「連は!殺人犯になりたくてなったんじゃない!いくらあなたでも連を悪く言うのは許さない!」

先生に圧倒され、庄司もそれ以上は言わなかった。

「あぁそういえば、まだあなたの質問に答えてなかったわね。」

先生は平静を装って言った。

「昨日はここと学校を行き来してたわ。」

「何でそんなこと?」

「あれのせいよ。」

先生はそう言って俺達から見て右側の林のほうを指した。

そこには、男が木にもたれていた。

「あれは?誰?」

「きっと見れば分かるわ。」

俺らは男がいる所に行った。

その男は昨日ここで俺らを襲った男だった。

「うわっ何でこいつが?早く逃げよう!庄司!」

俺が焦るのをよそに庄司は男の体を探り始めた。

「死んでる。」

庄司のその言葉に安堵を覚えるのとじ

「えっ?」

「多分窒息死だろう。」

庄司は俺の横を通って先生の方を向いた。

「母さんが殺ったんだろ。仲間だったんじゃないのか?」

「ええ、そうよ。確かにこの計画はその男が考えたものだった。私はそいつの協力者だった。ただ、元々そいつを殺すつもりだったわ。けど、あなたたちを襲ったと聞いて早めただけよ。」

「こいつは誰なんだ。」

「そいつは連をいじめてた奴のひとりで今はリストラ対象にされていたようで、連と同じような状況だったみたいだけど。いい気味よ。」

先生は不気味な笑みを浮かべて男を見下すように見ていた。

「庄司気づいてるんじゃないの?」

先生はまた、不気味な笑みを浮かべた。

「庄司気づいてるって何に?」

「母さんはあの男を含めて村人を殺してる。そうだろ?」

「クックックッハハハ」

先生は狂ったように笑った。

「何がおかしい!」

「いや、やっぱり似てるわそういとこ。凄くキレ者で、すぐに頭に血が上る。そういとろこがね。」

「だから、そんなさ...」

「それより聞きたいことはないの?2人とも」

先生は庄司の言葉を遮った。また、『殺人犯』と亡き夫を罵られたくなかったのだろう。

「誰を殺した?」

庄司は閉口してしまったので俺が聞いた。

「えり、しろ、ゆら、しん。それと、あなたを預かってくれていた人達よ。」

えり、しろ、ゆら、しんはそれぞれ先生の元教え子でこの村に残った奴らだ。

「何でだよ!何で!父さんや母さんを!」

「彼らはなるべく最初に殺したわ。」

「何で最初に!」

「後になれば、この惨状を見ることになる。」

「だから、最初に殺したって!ふざけるな!」

「そうね。あなたの怒りは最もよ。でも、少しでも知ってる人が死んでいるのを見るのは辛いものよ。」

その言葉には重みがあった。本当に体験しているから。

「これ以上はもういい。最後に言いたいことはあるか?母さん。」

「あなたたちを愛している。」

庄司はナイフを両手で持ち先生に向かって走っていく。

先生も庄司と同じようにナイフを持ち庄司に向かって走っていく。

俺はその光景を見ていることしかできなかった。

「俺と一緒に死んでくれ!」

両者がナイフを刺しあって血を流している。

俺はすぐ駆け寄って、庄司を左腕に抱き、傷口を右手で塞いだ。

「庄司!」

「えい...じ...ごめ...ぐはっ」

庄司は血を吐いた。

「もう喋るな!」

「俺は...もう..だめだ。悪いな...先に...いっ..てる...ぜ」

庄司は目を閉じ、もう目を開けることはなかった。

「うぁぁぁぁぁ!うぁぁぁぁぁ!クソ何で俺だけ残したんだよ!クソ!」

初めて死に直面し、止まりかけた思考がおかしな回転を始めた。

死んだ状態の人間は見た。しかし、生きている人間が死んでいくのを間近で見たのは初めてだ。

「え...い..じ...がっ...こ..う..に」

先生はそう言って庄司と同じように目を閉じた。

「はぁ...はぁ...あぁぁぁぁぁぁぁ!」

俺は泣き叫びながら走ってその場を去った。

振り返ることはできなかった。


「はぁ..はぁ...」

学校に着いた。昨日はここで俺と庄司と先生と勉強していたんだ。

昨日のことのはずなのに随分昔に思えた。

教室に行った。

教卓にロープと手紙が置いていた。

手紙は何度も見たことのある字で書いてあった。

「これを読んでいるって事は私はあなたたちのどちらかに殺されてしまって、どちらももしくはどちらかを殺せなかったということだね。

もし、後者だったならごめんなさい。辛い選択を強いてしまうことになって本当にごめんなさい。

真実を知ってしまったあなたたちがどうするかは分からない。

ただ、これは1つの選択肢としてこのロープを置いときます。」

手紙にはそれだけ書いてあった。

もう、俺はどうするか決めていた。

誰も信じられなくなり、何もかもを失ってしまった俺がこの世界で生きていくなんて絶望的な答えは出せない。

俺は教卓に立って教室を見渡した。

「広いな。」

呟いたその言葉は闇に吸い込まれる様に消えた。

「すぐ、そっちにいくからよ。やり直そうぜ。」

涙は出てこない。怖くもない。

何もない孤独な世界で生きていくよりはずっとマシだ。

俺は自分の机の真上の天井から吊るしたロープに手をかけた。

首を輪っかに通し、机を蹴った。

苦しみはしばらく続いた。


何も感じない世界、何もない世界に俺はいた。

ーここは、

「永司」

「永司」

「行くぞ」

聞き慣れた2つの声と新たな慈しみのある声その声のする方にいるのは庄司、母由紀恵、父連だ。

「うん。」

そちら側へ俺も歩き出した。そして、4人で肩を並べて歩く。

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