パーティー 1
「ルべリア……素敵!」
「そうですか?」
わたしは改めて姿見の中の自分を見てみた。
白を基調としたドレスは、会場が蒸すことを考慮して麻布で、シャリシャリしていて涼しい。変形したコートのようなこのドレスの下に、綿布の薄い長袖ワンピースを着ているのだが、それは白地なのに袖口のひらひらした邪魔な部分とスカートのこれまた沢山ひらひらした部分とが朱に染まっているもので、特注品だそうだ。
袖口は大きすぎて暗器が仕込めないし、スカートにスリットがないため太ももにナイフを着けていても取れないのが不満といえば不満である。
ブーツでないため足にも仕込めないし……。
仕方ないのであるかないかの胸の谷間から鳩尾にかけて小さなナイフを垂らしてみた。幸い、首を飾るルビーのじゃらじゃらした部分で紐が目立たない。でも、怒られるかもしれないので秘密である。
「スカートは膨らませる必要があるのでしょうか。鯨の骨は鎧に比べれば軽いですが、邪魔です」
「そうねー、邪魔ねー、仕方ないわねー」
「ギュゼル様?」
「髪型はどう? いつもの自分じゃないみたいでしょう?」
「はぁ。まぁ、そうですね」
地毛が短いため、数えきれないほどのピンで留められた記憶がある。タンジー婆やは乱暴なので、少なくない回数頭皮を削られてかなり痛かった。似た色の赤毛を乗せ、さらにピンで留め、上からじゃらじゃらと飾りの付いた鎖を巻き付けられた。
それに化粧も、デコルテから上以外は隠れているからと、白粉を塗りたくられていつもより肌が白く見える。かきむしりたくて仕方ないのだが、それも許されないだろう。唇以外は薄く色付いているだけなのがマシ、と言える。
一番嫌なのが耳飾りで、ブラブラしない小さめのをとお願いしたのに「髪がアップだから耳でバランスを取るのよ」とあしらわれてしまった。これまた瞳の色と同じようなルビーの、とても大粒の物で落とさないかと冷や冷やする。というか、陛下からの贈り物を果たしてわたしが身につけて良いのやら……。
「やっぱり耳飾りは外しませんか?」
「ダメー!」
駄目ですか。そうですか。
「せっかくのドレスアップなのに、ルべリアったら文句ばっかりじゃないの。他に何かないの?」
「ギュゼル様がお綺麗で、誇らしいです」
「まぁ! ルべリア、騎士様みたいね 」
「騎士、ですけど」
「物語の中の、姫に想いを寄せる、もちろん男性の騎士よ」
「そうでしたか」
恋愛物語の騎士はそんな生き物なんですね。わたしの知る物語ではもっと血まみれで戦っておりましたよ。
「私は、まだ十二になってないから仕方ないけど、前髪すら上げてもらえなくて。子どもっぽくて嫌だわ」
「お似合いですよ」
「そうかしら……」
「そうですよ。その濃紺のドレスに金の髪がとても映えていらっしゃいます。中央の白い切り替えと白い袖のおかげでデザインも引き締まっておりますし、翠玉の首飾りが引き立ちます。耳飾りもティアラも控えめなのが逆にギュゼル様の魅力をより一層引き出しているように思います」
「ルベリアってば、貴女ってば……。ううん、何でもない」
わたし、何かおかしかったでしょうか?
さあ、そろそろ時間だ。靴下を穿いて舞踏靴を身につけて、戦いに行きましょう!
一頭立ての小さな馬車に乗り、わたしとギュゼル様は城への小道を揺られて行く。後ろでは奥様とタンジー婆やが見送ってくださっている。どうかお任せを。ギュゼル様はこのわたし、ルベリアが必ずお守り致しますから。