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魔王子は女騎士の腕の中で微睡む  作者: 小織 舞(こおり まい)
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胸騒ぎ

 詰所にて簡単な質問にいくつか答え、書類に署名し、空腹が限界になった頃にようやく解放された。その間ひっきりなしに女性衛士、女性職員、はたまた通りがかりの一般人までがわたしの様子を覗き見しては黄色い悲鳴を上げて去っていった。



 ……こういう見せ物状態は、見習い時代にもよくあったので慣れていますが。



「ルべリア、少し話せるかしら? 昼食でも、食べながら、ね?」


「勿論、喜んで。店はお決まりですか?」


「ふふ、良いところを知っているの」


「エスコートさせてください、ユージェニア隊長」


「……今は、ユージェニアで良いわ」


「では、ユージェニア。お手を」



 わたしがユージェニア隊長の手を取ると、ひときわ大きな悲鳴が上がった。……ユージェニア隊長は大変お美しいし、人気者ですからね。



 わたしたちは衛士に見送られて詰所を出た。





◇◆◇





 ユージェニア隊長おすすめの店はちょっとお高そうな個室のある店だった。マルクートという国の料理を出すところで、わたしには縁がないところだ。



「ここなら、何を話しても安全だから」


「そうですか」



 ユージェニア隊長のウインクの意味はさっぱり分からないが、隊長が仰るならば大丈夫なんだろう。



「さっそく聞いても良いかしら」


「はい」



 ユージェニア隊長が身を乗り出すと、卓の上に豊かな乳房が乗っかる。たぷんという音さえ聞こえそうだ。



「アウグスト殿下だけれど、ルべリアから見て、どこかおかしなところとか、ない?」


「……魔物討伐からも無事にお帰りで、どこもお変わりなくお過ごしかと」


「ん~、じゃあ、言い方を変えるわね。殿下はギュゼル様の暗殺犯についてお調べという話だけれど……進んでいらっしゃるのかしら?」


「もうすぐにでも解決するそうです」


「…………そう」



 ユージェニア隊長は眉をしかめて、深く考えていらっしゃるようだ。しかし妙な質問だ。アウグスト様に変わったこと、など。まさか、アウグスト様まで暗殺の対象に? ならば何故ユージェニア隊長が……。



「隊長、アウグスト殿下に何か?」


「いえ、その……」


「ここだけの話にしますから!」


「…………そうねぇ」



 ユージェニア隊長は迷っていらっしゃるようだ。力は使いたくない、頼みこむしかないな。



「お願いします、隊長」


「……知っておいた方が、良いかも、しれないし、ね」



 ユージェニア隊長はぷっくりした唇を尖らすようにして妖艶な笑みを作った。ちょっとドキドキする…!



「まず、事件について話しましょうね」



 概要はこうだ。

 ギュゼル様を毒殺しようとした犯人は、城に出入りしている者である。入城には許可が必要だが、該当者が多すぎて特定は難しい。離れにショコラを届けた者は、普段は出入りしない者だったらしく見つからなかった。



 次に、ショコラを調べたが差出人は不明。ギュゼル様から出た名前はキンバリー伯爵家の長男エルンストのものだったが、キンバリー伯爵はそれを否定。



 ショコラの店を回り調べた結果、ログサム伯爵がいつも使っているパンドーラ商会の名が上がった。しかし、パンドーラ商会の長は行方不明になっており、ログサム伯爵とは話が出来なかった。



 パンドーラ商会がアウグスト殿下の領地であるゼイルードの商会に吸収されていることや、アウグスト殿下の部下が王都の中に正規の許可なく潜伏しているらしいことから、アウグスト殿下の関与を疑う声が上がっている。しかも、アウグスト殿下は城の中に本来は入れるべきでない身分の者を招いている。



「……つまり、ギュゼル様の暗殺はアウグスト殿下の仕業と仰りたいのですか」


「そういう声がある、と言っているの」


「…………」


「それに、この件についてはもう軍務部の手を離れているの。入城の許可といい、捜査の打ち切りといい、相当の権力者の指示よ。今まで王都に長く滞在した試しのないアウグスト殿下がこの事件の前後から逗留なさっていることに理由を求める者もいるというわけなの」


「そんな……。殿下は事件があったからこそ、こうして王都に留まって尽力してくださっているんですよ?」


「……貴女の気持ちは分かるつもりよ」


「しかし!」


「でも、王太子殿下のお加減が凄くお悪い今、アウグスト殿下のお立場は微妙なのよ」


「……?」


「ルべリア?」


「王太子殿下は、テオドール様は昨日もお元気で、今朝もギュゼル様と城へ向かわれましたよ?」


「ええっ、そんなはずは……」


「騎士たちへ伝わる情報が、間違っている……?」


「……それって」



 城の警護を任されている騎士は多い。だが、国王陛下や正妃様を除く王室の人間は直属の騎士を持つ。彼らは軍務の口出しを受けない独立した存在だ。そして彼らが己の主人について語ることはない。



 城の中は複雑で、全ての情報を握る者は本当に一握りしかいない。後は皆、言うなれば歯車のようなもので自分の周りの出来事しか知らない。ならば、軍務に流れるその偽情報は誰かが意図的に流しているというわけだ。



「城の中でいったい何が起こっているというの……」



 ユージェニアは隊長は喘ぐように仰った。

 わたしも同感だ。何かがおかしい。絶対の信頼を置いていた“城”という名の国の要が根本から揺らいでいる。



「わたし、戻ります」


「そうした方が良いわ。でも、ああ、気を付けてね……」


「はい、ありがとうございます!!」


「今、車を回して……」


「いいえ、わたしは走った方が早いですから!」



 わたしは店を出ると、陽の気を体に回して身体能力を強化した。これで早く、長く走り続けることが出来る。わたしは一目散に城へ向かった。

ここでの車とは、馬車を差します。

人力車も牛車も、車は車!

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