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魔王子は女騎士の腕の中で微睡む  作者: 小織 舞(こおり まい)
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村の生活 ★

ルベリアのイラストを追加しました。2016.09.20

 トマス=ハリス・ラペルマは家に入るなり、ふーむと唸った。昨今髭が薄くなってきた顎をさすりながら家の中を眺め回す。



「薪は割ってある、掃除は……ふむ。洗濯物も入れてあり、皿も洗ってある。……が、畳み方が酷いな。欠けた皿が積んであるのは何故だ?」



 流しに近寄り、さらによく見る。



「木皿が真っ二つなのは、何か不満があるのを言えずに当て付けているのか……?」


「ち、ちがっ、違います! ちょっとぶつけたら割れてしまって……」



 先程から自室の戸を半分開けて覗き込んでいた彼の娘が弁解しに飛び出してきた。



 昔から全くといっていい程、娘らしい事が出来なかったが、まさか騎士として勤めだしてからも進歩していないとは……。



「花瓶が無いな……」

「う。落として、割りました……」



 沈黙が下りる。トマス=ハリスは嘆息した。

 娘を見下ろすと、唇をきゅっと結んで何かに耐えているように見えた。こんな表情も昔と変わっていない。



「五つ揃いのこれを、お前が割ったのは二つ目だ」


「すみません……」


「他に二つ、お前の母が割り、残りはあと一つしかない。それは出さずに置くから墓に供えてくれ」


「な、父さん……?」


「さて、片付けるか」


「わ、わたしが……」


「無理するな」



 トマス=ハリスは、男のように短くなってしまったルべリアの赤い髪を掻き混ぜた。首を竦めてくすぐったそうにするのも変わらない。



 娘が戻ってからもう、ゆうに二巡り……二十日近く過ぎたが、王太子殿下が港や主要な町に触れを出してルべリアを探しているために、まだこの村に留まらせている。



 しかし、「親戚の若い騎士が休暇を使って槍術(そうじゅつ)指南を受けに来ている」という言い訳も段々苦しくなってきた。



 何より、ルべリアは普通に接しているつもりだろうが、見た目は「若くて独身の爽やかな好男子」で、しかも「強いのに嫌みがなくて、誰にでも優しく親切で、どんな小さな変化も気付いて誉めてくれる」とか、どんな恋愛小説の王子様なのだと。



 おかげで隣村や町からもルべリア、いや、偽名のデイヴィスか、そいつを見ようと少女が詰め掛けている。これでは「赤髪」と「ラペルマ」と「女を虜にする」という組み合わせから聖堂が真実に気付くのもそう遠い話ではないだろう。



「本当に……息子だったら良かったのになぁ」


「へ?」


「いや、何でもない。ところで、職はどうするんだ?」


「えーと……」


「身許を明らかにすれば王太子に連れていかれるし、黙っていれば騙すことになる、とか思ってるんだろう? 図星か。なぁ、このまま男として操気術で女相手にマッサージするとか占いするとかで生計を立ててみたらどうだ?」


「わ、わたしに占いは出来ませんよ?」


「適当で大丈夫だろ」


「父さん!」


「聖堂に閉じ込められて一生過ごすよりマシだ。それも嫌なら夜中に泣いてないで元居た場所に帰れ」



 父親の言葉に、ルベリアは痛みを堪える表情になった。この頑固な娘は、こうと決めたらそれしか見えなくなる、それを曲げさせるのは一苦労だが、こんな顔を見せるくらいには未練があるのだろう。



「時には理屈抜きに自分の心に素直になることも大切だ、後悔して生きるよりも大胆に進んでみろ。何をするにしたってお前には時間も選択肢もないんだ」


「しかし……。わ、わたしだけの気持ちではどうにもなりませんし……、身分が違いすぎますし……」



 娘が胸のあたりに手を当てて苦悩している様を見て、こんな時まで男らしくイケメンに見えるなんて、と呆れてしまう。



 その時、玄関の戸を叩く者があった。

 二人は顔を見合わせ、トマス=ハリスが開けに行った。



 外には誰もおらず、ただ女性の胸元に着けるのが似合いそうな小さな鈴蘭を束ねたブーケが一つ置いてあった。留めてあるピンには上質の紫水晶(アメシスト)が嵌まっている。



「ルベリア、きっとお前にだろう。どこのご婦人に声を掛けたんだ?」


「あ……」



 ルベリアは頬を染めておずおずとブーケに手を伸ばした。受け取ったそれにそっと口づけるように香りを楽しんでいる。



 それはさながら、貴婦人からの贈り物に想いを込める絵物語の宮廷騎士のようだった。



「は……! いけません、もう、行かなくては!」


「どうした?」


「殿下がいらっしゃる……。わたしはここには居られません。父さん、お世話になりました。追われているわたしを匿ってくださってありがとうございます」


「そうか、行くか……」


「はい。誰か訪ねてきたら、わたしは居ないと言ってください」



 ルベリアは素早く自分の部屋へ戻っていった。ブーケは持っていくつもりだろうか。



「逃げると男は追うものだぞ、娘よ。王太子殿下はよほどお前にご執心と見える」



 トマス=ハリスはやれやれと首を振った。

 いくら娘を好いてくれる男だとしても、嫌がるのを引き合わせる訳にもいくまい。



 トントントン……



 またも戸を叩く音がする。先程のブーケが無言の先触れだとすると、いささか到着が早すぎる気がするが……?


 トマス=ハリスは(いぶか)しみながらも返事をし、戸を開けた。





illustration ルベリア・ラペルマ

* * * * * * * * * *

挿絵(By みてみん)

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