対峙したよ。
今回は発明品の仕組みについて無謀にも説明しております。
なるべくさらっと読んでいただきたい…。
場が一瞬静まり、ヒロインが私に目を向けた。
シンプルな侍女のお仕着せを身に纏い、白銀の髪も後頭部でまとめた薄化粧の私は、彼女が最後に見た悪役令嬢の姿とは似ても似つかないからわからなくても無理はないだろう。
王子たちの背後に置物のように控えていた私は、公爵令嬢らしい悠然とした足取りで彼女の前に進み出た。
王子と宰相子息は何か言いかけたが、結局は黙って私に場を譲った。ヒロインはやはりよくわかっていないようで唇を尖らせた。
「あのさ、あなた誰?いま私はアーロンと大事な話をしているのよ。とっとと出ておい来なさい!」
相変わらず、品性のかけらもない。おもちゃを取られた子供が駄々をこねているようだ。王妃様の教育も彼女の固定観念を打壊すまではいかなかったようである。どう考えても王子よ、お前甘やかしまくっただろ。
私はこれ見よがしにため息をついた。呆れた様子を隠すことすらしない。それにますますむっとするヒロイン。
私はあっさりとペースに乗せられる彼女に、冷ややかに告げた。
「お久しぶりですね。クレアさん。私はティファニー・シルヴェスター。かつて王子殿下の婚約者候補筆頭でもあった者です」
「はぁ?」
ヒロインは本当に驚いたらしい。菫色の瞳が零れ落ちそうなほど大きく見開かれる。
「・・・は、なん、で、あんたが・・・?」
「なんで、ですか、そうですね――」
私はふっと唇に淡雪のように小さく微かな笑みを浮かべた。
「私は今回の作戦の功労者の一人なんですよ、これでも」
あの日、王子たちが依頼してきた日、私は今回の作戦に一切の手心を加えないことを課長の前で宣言した後、王子は全てを明らかにしたいと言った。全てを知りたいと、そうでなければ意味がないのだと。
宰相子息が不貞をしたかどうかについても、彼自身を守りたいというよりヒロインの行いを正確に把握したいという欲求からくるものだ。
ヒロイン――クレア・エリソンは多くの罪を犯しすぎてしまった。それらを吟味し、彼女にふさわしい罰を下す。
それらは王子や他のメンバーにも言えることだ。何もかもつまびらかに。そして全ての責任を負って、その罪にふさわしい罰を。
というわけで、今回のポイントは何といっても正確かつ客観的な情報を得られるということ。つまり私が何を作ったのか、もうわかるだろう?
というわけで作りました。ビデオカメラ。
ビデオカメラといっても私がとにかくビデオカメラのイメージを伝えてアーネストさんとデュークさんに試行錯誤してもらったので、正確にはビデオカメラではない。
今回我々が作ったビデオカメラ(仮)は、胸元から下げられるペンダントタイプのもので、王子以下七名のメンバーはここ数か月、常時これを付けた状態で生活してもらいました!
とはいっても、王子と宰相子息以外は事情を知らずにただ装飾品として身に着けていただけなんだよね。第二王子の配下としての勲章云々みたいな適当な理由つけて。もちろん、ヒロインにもつけてもらったよ。王子の婚約者の証云々という適当な理由つけて。
それからは王子と宰相子息も交えて五人で映像検証してみたけど、いやー、ヒロインすごいよ。ヒロインじゃなくてもうビッチだよ。これは。いっそ清々しいよ!
王子はもういろいろ悟りを開いているのか、食い入るように見ていた。その隣で宰相子息は赤くなったり青くなったりし、私は私で居心地悪い思いをしたりした。他人の情事を見せつけられるほど気持ち悪いものはないね。
そんな私たちの横でアーネストさんとデュークさんは快哉を叫んでいた。彼らの名誉のために言っておくが、二人に特殊な性癖があるわけではない。
彼らの喜びの理由は、一にも二にもビデオカメラ(仮)の性能の良好さである。このビデオカメラ(仮)は課長をして「大量生産化は極めて難しい」と言われる超高度な術式の組み合わせの集合体なのだ。
本当にお疲れ様でした。アイデアしか出せなくてすいません。でも地下の実験場にほぼ泊まり込みになったときは一緒に泊まってご飯届けたり、お菓子作ったり、イメージを高めるために発言しまくったりとそれなりに頑張って働いたよ。
お蔭で5キロ痩せたよ。私だけじゃなくて二人もげっそりとやつれたり無精ひげそのままだったり、一緒に泊り込んだりしたものだから知らなくてもよかった部分をお互い知ったりとディープな日々だったよ。うん。
そんなビデオカメラ(仮)はそのまんま「映像記録装置」と呼ばれている。エイハコと呼べないのが無念でならないよ。
仕組みとしては時間魔術と光魔術(癒し魔法とかではなく光そのものを操る魔法だよ。レーザービームとかね!)の融合だ。
えーと、時間魔術は無機物の時間を操ることが出来る魔法で、この無機物というのは今回は内蔵された光魔法のことで・・・。
ものすごくざっくり言うと、光魔術に記憶させた記録を、時間魔術で操っているということなんだ。
無機物にも記憶がわずかながらあるというのはずっと昔から提唱されていたんだ。ただ、何らかの形で実用化へという方向には向かなかったようだけど。それでも今回、私が「映像」という概念を与えたことで、それが一気に進むことになった。
えー、それで光魔術に創造魔術(無機物を合成したり分解したりするよ)を組み合わせて私の説明した映像というものを再現してもらって・・・、ここで全てを説明するのは無理なので、割愛するよ。
ただ私が「その場にあったことを再現する」という部分を強調したせいか、最終的には立体映像がペンダントからぺかっと浮き出るようになったよ。
魔法の力ってすごいね!
「あなたが行ったことは全て王子殿下も目にしていらっしゃいます。・・・あなたが複数の男性と不貞をしたところをね」
目にして、という部分を強調したつもりだが、ヒロインは私の言ったことの半分も頭に入っているかわからない様子だった。
甘く可憐な声で王子にすがった。
「ねえ、ねえアーロン!なんでこの人がこんなところにいるの?私をいじめた人なのに!?いやよ、怖いわ、怖い。ねえ早く追い出して!」
そう言って王子の胸元に擦り寄った。
こうすれば王子は彼女を抱きしめ、やさしい声で心配ないよ、と囁いて、衛兵に銘じて悪役令嬢を追い出してくれるのだと、これっぽちも疑っていない様子だった。
しかし。
王子はそれを手荒い動作で振り払った。その動作の荒々しさと言ったら、ヒロインが体を支えきれずに倒れこむ勢いだった。
「・・・アー、ロン・・・?」
「――お前は、本当に、何も理解しようとしないのだな」
大理石の床にぺたりと座り込む婚約者に、王子は呟くように言った。
「・・・クレア。確かに私は一度はそなたを愛した。真に私を思いやってくれる、可憐で愛らしい人だと。しかし・・・」
王子はガラス玉のように虚ろな瞳を、ヒロインの花のような顔に向ける。
「お前は、誰も愛してなどいなかった。いや、人を愛するということの正しい意味すら知らなかった。ただ欲望のままに私を・・・私たちを欲しただけだったのだろう?
安心しろ。そなたが罪人なら、私もまた罪人。何の罪もない令嬢を生贄にし、人々を恐怖で黙らせ、正しい人々の言葉から耳をふさぎ続けた。
私は――俺はどうしようもない罪人だ。王族として生きていい人間ではない。
クレア。もう何もかも終わりなんだ。俺も、お前も。・・・いや、最初から何も始まってなどいなかった。お前は私を愛していない。そして俺も、もうお前を愛してなどいない」
今回のビデオカメラ(仮)は、投射機能付きです。ホログラムのね!