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再会しちゃったよ。

日刊文学ランキング1位ありがとうございます(*´ー`*)

 その時私と民間魔道具開発課の愉快な仲間たちは、新たに冷凍庫の開発に取り組んでいた。これもまた「料理を冷凍できる箱型の魔道具」という設計で、我が課はこのまま箱シリーズと銘打って売り出すべきやもしれない。


 やはりなんといっても冷凍庫の機能と言えば「食料の保存」だ。現在ある食料保存庫は主に地下室の氷室と呼ばれる場所で、生鮮食品の保存や夏場にアイスクリームを作ることも出来る。そのため今すぐ作ってもエンバコほど需要はないのではという意見も出たが、そのエンバコの術式を応用できてすぐに製品化できるだろうという点から結局開発が進められることになった。

 それに考えてみてほしい。この冷凍庫、エンバコと同じように持ち運び可能なのだ。きっと食品輸送に大いに貢献してくれるだろう。現在は産地消費を地で行く我が国だが、食料の輸送とそれに伴う食文化の普及が進めば経済活動は間違いなく活性化するだろう。


 そこで私がイメージを意見しつつ、あーでもないこーでもないと議論していた、ある昼下がり。


 なぜか課長に呼ばれた。

 内密の用件らしい。

 私はめったに使われることのない応接間に向かわされた。我らが課の本部は前世のコンクリートな外見とは違い、石造りで、ちょっと規模の大きい一軒家と大差ない大きさだ。

 しかし地下にはその建物本体よりも広そうな実験場がある。ここでいろいろ危ないことをやるよ。主に軍部も狙えただろう実力の持ち主、デュークさんがね!


 そして応接間の脇の控室に通されると、そこには課長と、なぜかデュークさんとアーネストさんがいた。


「極秘の依頼らしくてね」


 ロマンスグレーの課長は穏やかなテノールボイスで言った。少々困惑しているようであり、出来れば避けたかった、という本音が伺える。


「そりゃまた穏やかじゃない」


 デュークさんは肩をすくめて軽薄そうな態度をとりつつも、猛禽類を彷彿とさせる琥珀の双眸を鋭くした。


「なぜ俺たちなんです?」


 アーネストさんは目元にかかる灰色の髪を細い指に搦めた。元が色男だから十分絵になる気だるげな仕草だが、表情はデュークさんと同じく苦いものを含んでいる。


「これは極秘中の極秘らしくてね。現在開発途中の冷術式調理箱の開発を休業して、総員で取り組んでもらっていいものじゃあない。だから大体のメンバーにはそちらに回ってもらって、こっちは少数精鋭で取り掛かってもらいたいんだ」


 その少数精鋭の大事な一席が私でいいのでしょうか。


 視線でわかったのだろう、課長は苦笑して私に言った。


「何せ君はエンバコの発案者だからね。今回もそう言ったちょっと普通では考えられないようなアイデアを期待しているみたいなんだよ」


 私は少し息苦しくなった。

 自分の仕事を評価してもらえた喜びはもちろんあるけど、それの倍くらいの緊張感で胸がいっぱいになった。

 期待してもらえているということ。

 そしてその期待に応えなければいけないこと。

 今回選ばれたメンバーであるデュークさんもアーネストさんも、とても優秀な人だ。この人たちの足手まといにならず、結果を出さなければならないのだ・・・。


 何も言えずにいた私の肩を、デュークさんが軽く叩いた。


 私は思わず彼を見た。デュークさんは私と視線を合わせず、悠然とした態度には少しの揺らぎも見受けられない。

 それはアーネストさんも同じだった。顔が完全に仕事モードだ。


 私は一度視線を落とし、すぐに課長に向き直って頷いた。

 まだまだ自分に自信を持つことはできなくとも、この二人と一緒なら頑張れると思う。いつも通りの二人の態度が何よりも心強かった。


 とにかく本人たちに会ってごらん、と言われ私たちは控室から応接間に続く扉を開けて、中に入った。


 そこは清潔であるという以外はいたって普通の部屋だった。中央に木のテーブルと椅子が並べられていて、明り取りの窓から光が差し込んでいる。

 隅にはティーセットが用意されている。


 客人達は既に座していた。その前にはすでに湯気の消えた紅茶が並べられている。


 そのどこか所在なさげに座る二人の男に、私は見覚えがあった。

 あるどころではなかった。


「・・・王子殿下?」


 私は間抜けのように口をぽかんと開き、思わずそう漏らしていた。


 そう、そこにいたのはお忍び用らしい比較的地味だが手の込んだ衣装を纏った第二王子と、同じような格好の宰相子息だったのだ。


 あの日のことがフラッシュバックする。


 狭い部屋。居並ぶ貴公子たち。ヒロインの少女。私に向けられた七つの悪意と一つの無関心・・・。


 殿下は最初訝し気に形の良い眉をひそめていたが、はっとした表情になった。気付いたのだ。私に。


「・・・ティファニー嬢?」


 宰相子息も弾かれたように俯きがちだった視線を上げ、信じられないものを見る目で私を見た。


 嫌だ。その目で――そんな目で私を見るな・・・!


「ティー?」


 パッと。重苦しい枷のようなものが弾けた。顔を上げるとデュークさんとアーネストさんが不審げに、気づかわしそうに私を見ていた。


 ティーというのはここでの私の愛称だ。家族にはティフと呼ばれているのだけど、皆が呼びやすいからって、ティーと呼ぶようになった。

 そうだ。大丈夫。


 私にはもう、自分の力で手に入れた居場所があるのだから。


 私は毅然と顔を上げた。王子なんて怖いもんか。

 デュークさんとアーネストさんに続いて席に着き、穏やかならぬ依頼をしてきた客人達に向き直る。


「・・・さて、自己紹介させていただきますと、私はアーネスト・クロウリー。この課で研究員として所属しております。隣のこの男はデューク・ジーン。その隣がティファニー・シルヴェスター。二人も私と同じく我が課の研究員です。」


 アーネストさんは温度を感じさせない口調ですらすらと言った。翡翠の瞳がつい、と私を見たが、もう大丈夫です、という気持ちを込めて視線を返す。すぐに視線は外されたけど、多分伝わったはずだ。


「それで、今回はどのようなご用件です?・・・王子殿下」


 アーネストさんは私のこぼした言葉から察したのか、それとももう既に知っていたのか、相手の正しい名称で呼んだ。その割にはずいぶんぞんざいというか、不遜とすらいえそうな態度だ。

 実際、私たち三人は懐疑に満ちていた。第二王子からの極秘依頼など、トラブルの予感しかしないし、うちの課が適切とも思えない。いったい何なのか。


 王子殿下は一言も発さなかった。アーネストさんの振舞を咎めることさえしなかった。ただただ茫然とした表情で私だけを見つめ――、不意に。


 がばり、と。


 頭を思いっきり下げた。


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