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就職したよ。

2000字とかって言ってたけどあっさり4000字オーバーしました。

スイマセン(´・ω・`)

 というわけで就職したよ。


 何がというわけでなんだ、と言われそうだけど、私もきちんと考えたのです。これからのことを!

 なんといっても私、貴族学院を自主退学しちゃったからね。表向きは病気っていうことで。ぶっちゃけ教養っていう面からしてみれば家庭教師を雇えば全く問題はないのだけど、あそこはやっぱり社交の場、ていう機能が強かったからねぇ・・・。

 そこを途中退場したものだから社交界でも強いコネクションはないも同然。これから先は修道女のごとく慎ましやかに生きていくのがお似合いなのです。はぁ~。


 でもでも、私ってやっぱりまだ若いし、腐っても公爵令嬢。

 実は魔力持ちなのだ!それも豊富かつ良質な!

 そういうわけで、私には就職の道があるのです――魔術師という名の!


 魔術師というのはこの世界のどの国にも一定数存在し、主に軍事面でその能力を発揮する存在だ。魔力持ちは基本的には貴族を中心に現れるが、たまに市井にも生まれたりする。貴族はもちろん、平民も魔力持ちの多くは王立魔術院に所属する。

 そして完全な実力主義社会なのだ。魔術師って。

 平民から大出世して院長を務めた人もいるし、公爵家の生まれでも下っ端扱い、なんてことがざらにある。


 つまるところ、学院退学なんていうレッテルも気にならない、まさに理想の職場なのだ。


 さて、先程魔術師は軍事に従事する人間が多いというようなことを言ったけど、最近はそうでもない。なぜならこの世界は現在平和だから。平和条約結んでるから。

 勿論今でも自主防衛を怠る国はない。そんなもの国として機能していない。


 しかし平和は平和だ。軍事に気を使い過ぎ、貴重な魔術師を腐らせるのは惜しい。

 そこで近年行われているのが、魔術の軍事目的以外の普及だ。

 一般的には建設や資源の採掘、医療などの公共事業を中心に広まっている。

 元々軍にはそういう役割もあったから、この辺りは比較的スムーズに進んだ。

 そこでこの国家事業は次のステージに進んでいる。

 それはすなわち、魔術によって作られ機能する「魔道具」の民間での普及。

 魔力を持たない人々も平等にその恩恵を受けられる、新たなシステムの構築である。


 具体的には、魔石っていう魔力をある程度貯められる電池みたいなのを仕込むことで魔力なしでも使える道具を平民にも使用してもらい、経済活動に役立ってもらおう、ということなのだ。

 わが国では魔術院の民間魔道具開発課という比較的新しい部署があって、日夜研究に励んでいるらしい。


 ここだ。


 私はそう思った。


 だって、軍事とかはまず無理でしょ、その他公共事業も専門知識が必要そうなのばかりで選りすぐった実力者ばっかりらしい。

 それに比べて民間魔道具開発課は若い部署だ。きっと今なら私みたいなやつでも意見が聞いてもらえるような柔軟性もあるだろうし、ちっちゃい課で人材不足だからやる気のあるやつは来い!みたいなオープンなスタンスだし。

 ここならやっていけそうです。


 そういうことで両親にこのことを話しました。

 了解してくれました。

 面接受けました。

 受かりました。


 職ゲットだぜ。

 とはいっても本当に下っ端の下っ端ですが。


 王宮の敷地内に立つのにふさわしい、貴族所有の荘厳な御城とも見まがう魔術院本拠地。その外れにぽつんと立つ、本殿と離れみたいな位置と大きさのわれらが民間魔道具開発課。

 うっそうとした木々に優しく抱かれるようにして存在する我らが課は、毎日毎日ちゅどーんとか、ぱりーんとかいう音が響き渡っています。

 実験のための音と、アイデアが浮かばなくて苛々していて魔術ぶっ放した音の二種類の音だよ。やばいよ!


 でも後半の音は、私の尽力で徐々に減ってきている。


 切っ掛けは些細なことだ。


 私はこの課に入ってから、職員用の宿舎に住んでいる。2LKの一人暮らしには少々贅沢な物件である。ちなみに風呂とトイレは共用。もちろん男女は別だけど。


 そう、今生で初めての一人暮らしである。


 父は最初侍女を一人、通いで向かわせようとした。いわゆるホームヘルパーさん。それを拒否したのは私だ。その時私は自立する気満々だったし、下っ端のくせにお世話係がいるとか世間知らずの貴族令嬢です!って自分で言いふらしているようなものではないか。


 それに私は前世で一人暮らしをしていた。

 そのため大丈夫と余裕こいていた。

 けど、忘れていたよ・・・。


 この世界、電化製品がないのです。


 前世の己がいかに文明の利器に頼っていたのかわかりました。仕事でくたくたなのに自炊する元気なんてないよ・・・。

 基本、食事は食堂で摂っています。

 洗濯物も係りの人に頼んでおけば翌日には届けられるから不自由していないけれど(部屋に金盥と洗濯板持ち込むわけにはいかないからね)、掃除は別。

 掃除機ください。


 そんなこんなであわあわとしながら一人暮らしに何とか慣れてきたころ。思った。


 電化製品、うちの部署で絶対に採用してもらえるよ。


 この世界はモチーフが中世ヨーロッパ風で、技術の発展は前世の産業革命・・・ぐらいかな。つまるところ、前世のように自動でいろいろこなしてくれる道具が必要になってくるはず!


 そんなわけでアイデアを課長に提出したかったのだが・・・。これはかなり手こずった。私の柔軟性強そうだから新人の私でも大丈夫でしょー、などというお気楽思考がそうそうまかり通るはずもなかったのだ。


 私の最初の仕事はお茶くみと掃除。

 研究になんて、一ミリも関わらせてもらえない。


 課長本人は穏やかな雰囲気のロマンスグレーなおじ様だ。とっても優しそうで、私にも他の研究員にも慕われている。

 しかし職務には忠実で、真摯な御仁だった。

 私はまだこの課に来てから日も浅い、半分部外者みたいなものなのだ。


 私が慣れるために――、そして周囲の信頼を得るために、こうした下積みが大事なのだと否応なく突き付けられた。


 勿論私はまじめに働いた。このころにはもう公爵令嬢なんていう肩書は忘れ去り、格好もお下げ髪によれよれの白衣という冴えないものだった。

 それでもこうした過程で周囲が私のガッツを認めてくれたのだと思う。


 まあ地味に取り入る方法も考えていたのだが。


 その一環が手作りお菓子なのです。

 この部署、新設されたはいいんだけど、中々結果を出せていない。平民出身の人もいるから様々な需要についてもはっきりとわかるのだけど、それをどういった形で実用化すればいいのかわからないのだ。

 前世でだって試行錯誤を重ねてあんな便利道具を開発したのだ。すぐに結果が出るわけがないし、元々軍用目的だった魔術を民間に、ということになると様々な規制も考えなければならないらしい。

 そんなこんなで民間魔道具の実用化は難航していたのだが、悲しいかな財務省は理由まで考慮してくれない。この課の予算は常に逼迫している。

 そこで手作りお菓子である。


 なぜかって?お茶菓子まで削らなければならないほど貧乏だからだよ!


 結果が出せなくて、課全体に漂う空気も正直ピリピリとしている。

 そんなとき、活躍するのが甘いもの!

 クッキーとかマドレーヌとか、フィナンシェなんかを厨房の端っこ使わせてもらって作ったのだよ。


 このお菓子たち、本当にいい働きをしてくれた。

 そろそろ認められてきたかな、という頃合いを見計らって、課長お気に入りのレーズンクッキーと一緒に企画書を提出したら、見事採用されたのだ!


 企画の内容はオーブンレンジだ。クッキーを竈で作るのがあんなに難しいとは思わなかったよ・・・。


「料理を加熱できる、箱型の魔道具か・・・」


 思案気に私の企画書を眺めるのは、わずかにウェーブがかった灰色の髪が涼し気な翡翠の目にかかっている、怜悧かつ端正な顔立ちで、いかにもエリート然とした品の良い雰囲気の青年だ。

 彼はアーネスト。二十二歳。独身。冷たくて偉そうな皮肉屋に見えるけど、仕事はすっごく真面目で根はとても真摯な人だよ。今も私の企画を、新人の真似事と決めつけずにじっくり吟味してくれているよ。

 私の手作りお菓子になかなか手を伸ばそうとしなくて、今でも手を伸ばすのはみんなの後だけど、最後の一個は死守しているよ。本当にいい人だと思うのは私だけかな。


「しかも一度作って冷めた料理も、ねえ。ハハッ!実用化されたら貴族どもがこぞって欲しがるぜ!」


 そう言って口笛を吹いたのは彼の名はデューク。二十二歳。独身。

 跳ね癖のある艶やかなダークブラウンの髪。研究者にしては陽に焼けている、すらりと引き締まった体躯。いたずらっぽい光を放つ琥珀色の瞳に精悍な容貌を持つ、若く凛々しい猛禽類のような青年だよ。

 軽薄な今どきの若者っていう感じだけど、実力主義の魔術院で「軍事に関わらないのが惜しい」って言われている人材だよ。やっぱり魔術をバンバンぶっ飛ばす軍人は魔術師の花形職であることは間違いないのだ。

 彼は私の作ったお菓子に最初に手を付けてくれた人だよ。今も一番乗りだよ。顔に似合わず好きなのはイチゴジャムのクッキーだよ。


 そして他にも個性的なメンバーたちの総力を結集し、オーブンレンジの開発に取り組んだ。

 私は正直、まだまだ開発の部分に関わるには力不足だ。それでもより具体的なイメージがあったらどんどん発言したし、泊まり込むみんなのためにお弁当を運んだり、掃除をしたり、雑用に明け暮れた。


 そして遂に出来ました、温めも焼菓子作りもお手の物!

オーブンレンジ!


 正式名称は「炎術式調理箱」。面倒くさいから「エンバコ」という、妙にほのぼのしたネーミングセンスの職員が付けた通称の方でみんな呼んでいる。


 そしてデュークさんの言った通り、これは貴族層にバカ売れした。それも高位の。

 なぜなら、高位貴族程料理には毒見が必要だから。重用されている人物が恨みを買いやすいのは世の常で、そうした人々は毒見の人を何人も置いているんだ。まあだから当然ともいうべきか、さあ食事にしよう、ってなった時にはもう冷めきっているんだよね、料理。


 どうせなら温かい、出来上がってすぐみたいな料理が食べたい。

 そう思う人はたくさんいる。

 そこでこのエンバコ!冷めた料理でもあっという間にほっかほか!

 しかもこのエンバコ、コンセントじゃなくて電池(魔石)が動力だから、持ち運びが可能なのだ!

 毒見が必要な人々でなくても、いつでも温かい料理が食べられると大人気である。


 もちろん民間にも少しずつ、まずは王都の住民から普及していった。いずれは寒村で薪不足な冬にもおいしい料理が食べられますよ、なんていう域に到達できたらいいなと思っているけれど、それはずっと先になりそうだ。

 軍事や公共事業に比べるとはるかに低燃費で、屑みたいな魔石でも五年ぐらいは保つらしい。けれど使っている術式が複雑で、大量生産に向けた取り組みはまだまだこれからなんだって。


 とにかく、本来の趣旨からは外れるけど、貴族にもさらには王族にまで受けに受けたものだから、我が課は一気に注目を集めた。


 来年度の予算も見直されたし、個人的な投資をしようか、と機会を伺う貴族まで出てきたらしい。


 皆大喜びだ。私もテンションマックスでホールケーキを作り、同じくテンションマックスな皆と飲んで食べての祝勝会を楽しんだ。


 私はこれからもこの課のために尽力しようと改めて誓い、早速次の新作お菓子と企画の制作に取り掛かった。


 第二王子殿下とその婚約者に事件が起きたのは、そんな時だった。


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