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追放されたよ。

今回の連載は頑張るつもりでいる。

 私の名前はティファニー・シルヴェスター。

 由緒正しき公爵令嬢であり、貴族令嬢の中でも、現在唯一未婚の王族である第二王子の婚約者候補筆頭に選ばれるほどの高貴な身である。


 そんな私はなんというか、一対多の状況で、貴族の子弟が通う学院の一室に閉じ込められているよ。建物自体が大理石で出来た、金と銀の装飾も華麗な部屋はとっても素敵だよ。その中央にあつらえられた重厚なテーブルと、それを挟むように配置された真紅の皮張りのソファに座っている。設備はとっても優雅だけど、こういうのなんて言うか知ってるよ。


 吊るし上げだ。


「――以上、これら、クレア・エリソンに対する嫌がらせから、ティファニー・シルヴェスターは本校の生徒として不適切であり、自主退学を推奨ものとする」


 ガラスを思わせる冷たい声で長々とした口上を述べ終えたのは、リチャード・シアーズ。現宰相でもあるシアーズ侯爵家の次男だよ。

 黒髪眼鏡で、鋭い灰色の瞳がちょっと神経質な印象を与える冷ややかな美形だ。


「何か釈明はあるか?シルヴェスター公爵令嬢」


 そう言い放ったのはこの国の第二王子で、さっきも言ったけど唯一未婚で十八歳というお年頃だけどまだ婚約者も決まっていない、超優良物件のアーロン・エフ・フォレスター殿下。手入れの行き届いた黄金色の髪に、真夏の青天みたいに輝く爽やかな碧眼。形の良い鼻梁に凛々しい唇、均整の取れた背の高い体型と、正統派モデルみたいな甘く凛々しいルックスだ。


 そんな彼を筆頭に、この狭い部屋にずらっと並んだ七人の貴公子たち。それぞれ見目良く、高い家柄だったり特別な才能が有ったりするハイスペックメンズだ。

 そしてそんな彼らに守られるように佇んでいるのは、一人の少女だった。

 彼女こそ件の少女、クレア・エリソンである。

 私は彼女のことをよく知っている。彼女にされた噂やらなんやらの嫌がらせについてもよく知っている。それはもう――前世から。


 そう。私は転生者なのだ。そしてここは乙女ゲームの世界。現在悪役令嬢である私の所業が白日の下晒されている――、ということなのだが。


 ここですでにおかしいのだよ。


 私、ティファニーは確かに乙女ゲーム「乙女と七人の貴公子たち」の悪役キャラだ。でもまあ、言ってみればチョイ役である。たしかにヒロインと攻略対象たちの恋のスパイスになるぐらいの働きはしているんだけど、逆に言うとそれぐらいしかしていない。公で罪になりそうなことなど論外である。


 だって乙女ゲームって一部のハード系を除けば基本イケメンとゆるふわした恋愛を楽しむ、女子の夢でありストレス解消ゲームでしょ?

 そこにガチな悪役出してほしい?ましてや実はその悪役令嬢こそが王子の正当な婚約者で、冷静に見てみるとヒロイン略奪者ポジじゃん、みたいな感じのキャラクター出して欲しい?

 ぶっちゃけ後味悪いよね。


 だから私、ティファニー・シルヴェスターは悪役処刑エンドとかまず無いし、せいぜい幸せになったヒロインの陰で「キーッ!」とか言いながらハンカチでも噛んでいるのがお似合いの小物なのだ。小物。


 それなのにこの仕打ちは何ぞや。


 私は逆ハーメンズの防壁に隠れているヒロインに目を向けた。

 あるんだよ。逆ハールート。乙女の夢のイケメンパラダイスだからね!


 ヒロインことクレア嬢はとっても可愛い女の子だ。

 ふわふわしたブラウンのセミロングヘアに菫色のぱっちりとした瞳を持つ、子犬っぽいというか、天真爛漫を絵に描いたような雰囲気の美少女。流石ヒロイン。


 悪役令嬢であるティファニーは、クレアとは対照的なルックスだった。腰まで流れる白銀の髪は真っ直ぐで、肌は透き通るように白い。目元が少々ツリ気味の大きな瞳はアイスブルー。顔立ちは品の良さと気の強さが入り混じった、いかにもお嬢様ーていう感じだ。

 可愛いっちゃ可愛いんだけどね。チョイ役だから鼻筋すらっと、眼も睫ばさばさ切れ長な本気の悪役顔から比べれば愛嬌あるよ。気の強そうな子猫みたいだからね。


 それはいいとして。

 え、何この状況。王子殿下が出向いていることといい、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、それぞれの階級から選りすぐったメンバーを出してきましたよ的なそうそうたる顔ぶれなんだけど。


 これ詰んだ。


 このメンバーに退学迫られているとか詰んでいるとしか言いようがないよ。だって我が家は公爵家だけど、そこまですごいわけじゃないからね?やっぱチョイ役だからなのか、公爵家の中でもそこそこの地位、ぐらいだからね。婚約者候補筆頭、ていうのも貴族位最上位の公爵家の年頃の娘が私だけ、ていうことだからね。とほほ・・・。


 そしてこの布陣それぞれの表情と、王子殿下の表情を見て分かったこともある。


 彼らはこれが冤罪だとわかっているのだ。

 実際、私は何もしていない。噂話だって勝手に蔓延したものだし、その他のちまちました嫌がらせだって他の子が勝手にやったことだろう。

 けれど私は婚約者候補筆頭で、いつのまにかまことしやかにこれらの騒動の大本にはある公爵令嬢の存在がある、という噂が立てられ、遂にこれはティファニー嬢の意向に沿ったものだという大義名分を得た下位令嬢たちの暴走が起こったのだ。


 しかしこれもまた、怪しいと言えば怪しい。だって、今リチャードが読み上げた中には「私に直接指示された」なんて言葉も入っていたもの。


 情報操作。

 そんな言葉が浮かんだ。


 彼らは私を裁こうとしている。その背後にあるこの騒動の真犯人たちを裁くという、真の目的の下。


 いうなれば私は見せしめなのだ。生贄だ。


 あまり権勢が強いと言えないとはいえ、公爵令嬢を裁くほど殿下はこの男爵令嬢を愛しているということを示すため、彼女を悲劇のヒロインにするために。


 完全にはめられた。貴族の世界では足を掬ったり掬われたりは日常茶飯事のはずなのだけれど、今回は私がお粗末だったと言うほかない。

 もう、逃げられない。退学を拒否すれば村八分よろしく、公爵令嬢としての立場も意味をなさずにどんどん見方をなし崩しにされ、ぼっちにされる未来が目に見えているよ。しかもここでの人脈は社交界でそのまま引き継がれるから、一生ものの損失だよ・・・。


 私はせめてキッと強く前を見据えた。

 そこには王子の優美な顔がある。

 引き締まった、真剣な表情だ。自分の大切なもののために陰湿な方法に手を染めたとは思えないほど、清廉な雰囲気を漂わせた好青年そのものの佇まいだ。


 ちらりとクレア嬢にも目を向ける。

 彼女はのぼせ上がっていた。頬は薔薇色に上気し、菫色の瞳はとろんと熱く潤んでいる。「夢見る乙女」とタイトルを付けて額縁に飾っておけそうだ。


 私は一瞬だけど彼女を哀れに思った。

 彼女は何もわかっていない。王子がどんなことをしているのかも、彼女を待ち受ける妃という未来が、決して幸福ばかりではないことも。

 自分が同い年の少女に冤罪を押し付けていることも。


 彼女の中では彼女はヒロインなのだ。素敵な貴公子たちに愛される、乙女ゲームの幸せなヒロイン。それはこの世界が乙女ゲーム出る限り、自明の理であり必然なのだろう。


 そしてわかっていなかったのは私もだ。自分は嫌がらせなんてしないから大丈夫、なんて思っていたのにこのざまだ。


 これからは、現実を見て歩いていこう――。


 そう強く決意して、私は王子に承諾の言葉を述べた。



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