主人公、RPG4
第四段です。
「まぁ、気にするなって」
ほかほかと湯気が立つ肉料理を前にして、俯く吉村に師匠が慰めの声をかけた。
フォークをぷすりと温野菜の人参に刺しながら師匠が続ける。
「大丈夫だって。最初はだれでも失敗の一つや二つはするさ!」
それでも吉村は俯いている。
もぐもぐと口の中にいれた人参を咀嚼しながら師匠が言う。
「元気出せって!箒の飛ぶ練習して家の壁ぶち空けたことなんて気にしてないから!」
「気にするよ、普通!?」
吉村はだーんと、机を叩いた。
騒がしかったパブが一瞬静かになって、また騒がしくなった。
「いやぁ、しかし箒の練習で家の壁ぶち開けた奴、俺初めて見たわ。」
師匠がけらけら笑いながらビールのような発泡酒を呷る。
遡ること、約小一時間前。
吉村と師匠は箒の特訓をしていた。
師匠がついていない状態で箒を無事浮かすことはできたものの、コントロール出来なかった吉村はそのまま箒を急発進させ、庭の木に突っ込んだ。
このままだと、こいつ死ぬわ。
一瞬で察した師匠は、今度はしっかり自分がつくことを決意する。
「浮くことは出来たんだよな?」
「うん」
吉村を木から降ろしながら師匠が質問した。
お前なんかした?と師匠が尋ねると、
「してない、勝手に箒が動いた」とふて腐れながら吉村が告げた。
「お前、もしかして前に体重かけた?」
「分からない」
吉村がそう言うと、「多分十中八九そうだろう。」と師匠が断言した。
「前にも後ろにも体重かけなかったら、箒は動かねえんだ」
もっかいやってみ?と師匠に促され、吉村は先ほどやったように箒の上に立とうとした。
それを見た師匠が「え、何やってんの?」と焦った声を出した。
「え、普通こう乗るんじゃないの?」
「違えよ!?」
とんでもない乗り方をしていた弟子に驚愕しながら、師匠が否定した。
「だって、師匠この乗り方してたから」という吉村に師匠が慌てて言った。
「それ一応上級者テクの乗り方だから!一般の堅気の人は座るから!」
自分は堅気ではないというような言い方ではあったが、とりあえず正しい乗り方ではなかったらしい。
よいしょ、と吉村は箒に跨った。
はぁ、と師匠は大きく息を吐いた。
こいつはどこまで俺の寿命を縮める気だ。
「でもこのやり方、浮かばなかったんだけど」
「そこは、こう、あれだ。こうぶわっと下から風で押し上げられるような…」
もだもだと手を動かしながら師匠が説明するが、ちっともわからない。
擬音語オンパレードな説明に吉村が言った。
「師匠」
「うん?」
「教え方下手?」
「うん、ごめん。俺も思った」
素直に謝った。
結局立ち乗りでの練習になった吉村であったが、順調ではなかった。
「いいか、浮かんだらお前はあくまでゆっくり、本当にゆっくりと前に進むんだ。分かったか?」
「OK」
師匠にそう支持され、吉村は手でOKサインを作った。
そして先ほどの要領で宙に浮く。
体重をかけ過ぎないように、慎重に。
少しずつ体重をかけると、箒はよたよたと動きながら前に進む。
「よし!そのままだぞ!ゆっくりな!?」
師匠の声を聴きながら、吉村は真剣な顔つきで箒を前に移動させる。
と、その時。
「ふぇ、ふぇ…ふぇっくしゅん!」
くしゃみが一つ、吉村の口から飛び出した。
と、同時に。
がくん!と箒の柄が下に下がる。
「あ」
びゅん!
箒がものすごいスピードで出発した。
「うわあああああああ」と吉村が叫ぶ。
「ヨシムラ!後ろ!後ろに体重かけろ!」
そのまま、また木に衝突するコースに入った吉村に慌てて師匠が大声で指示する。
吉村が慌てて後ろに体重をかけた。
がくん、と後ろに下がった箒は、木に衝突するぎりぎりで上へ回避する。
吉村はそのまま、箒に振り回される。
右に左に、そのまま直進したかと思えば回転したり。
「師匠!ヘルプヘルプ!」
「と、とりあえず飛び降りてこい!」
空の上でびゅんびゅん箒に引きずり回される弟子に、師匠が両腕を広げて言った。
ちょうどその時、かかとの窪みから箒の柄が外れた。
「うわぁあああああ!?」
そのまま真っ逆さまに落ちる吉村を、後ろに前にと微妙に位置をずらしながら師匠が受け止める体勢に入る。
そして、ぼふんと吉村をキャッチした。
同時に箒が、ぎゃんと音を立てて二人に向かって飛んできた。
さっと師匠がそれをかわすと箒はそのまま一直線に飛び、
ずがーん!
家の壁に穴を空け、止まった。
家に空いた巨大な穴を二人は呆然と眺めていた。
師匠がお姫様抱っこの状態で抱える弟子に言った。
「ヨシムラ」
「何でしょう、師匠」
「お前、しばらく箒禁止だ」
危なすぎて任せらんねえ。
師匠の言葉に吉村はただ素直にうなずいた。
「…師匠、ごめん」
しょんぼりしながら吉村が謝った。
家の壁に穴を空けたことにより、家の中がめちゃくちゃになってしまった。
仕方ないので二人はこうして宿屋に泊り、今はパブで食事を摂っているのである。
「だから気にすんなって」
師匠が肉をフォークに刺したままぶんぶん振った。
そりゃあ、家の壁を箒で穴空けられたのは初めてだけどな。
師匠がそう言うと、吉村はぐっと声を詰まらした。
「それでも、俺は師匠なんだ。弟子の仕出かした一つや二つくらいの失敗で怒ったりしねえよ」
「師匠…」
吉村が若干涙で潤んだ目で師匠を見た。
「顔に似合わないよ、その発言…!」
「俺の師匠らしい発言を全否定か、ちょっと表でろお前。」
怒らないって言ったじゃん!という吉村に「お前が弟子らしくない発言するからだろうが!」と拳骨を一発お見舞いした。
殴られた頭のてっぺんを摩りながら、吉村は前から気になっていたことを質問する。
「…そういえば師匠って何歳なの?」
吉村の質問に師匠はにやりと笑った。
「何歳に見える?」
師匠のその発言にうーん、と吉村は首を捻った。
容姿からして10代後半から30代前半の間なのは確かだ。
しかし年齢の幅が広すぎて特定できない。
何歳なんだろう。
酒は飲めてるから20代?でもここは異世界だからもしかしたら10代かもしれない。
うんうん唸る吉村を見ながら師匠が「悩め悩め」と笑いながら発泡酒を煽った。
家の壁が直るまで約2日。
そこからまた師匠との箒の特訓が始まる。
to be continue?