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7. 伝説の剣を引き抜いてやった、後悔はしていない

 トウヤは伝説の剣の柄を握った。

 柄はトウヤが両手で持っても十五センチ程余裕が出来るほどに長い。地上に出ている剣身は五十センチ程であるが、その途中から浅く反りがある。剣身の形状はおそらく反りの浅いサーベルに近く、それ以外は全体的にロングソードに近い。つばは剣身と柄とは垂直方向に伸びているため、下端が湾曲した巨大な十字架のように見えるだろう。


 端的に言うなら、両手持ちの変則的な大剣だ。


 地面に突き刺さっている長さにもよるが、トウヤは剣身だけでも一メートル程はあろう剣を想像していた。そして、それは偶然にも正しかった。


「……行くぞ」


 トウヤは柄に両手をかけ、両足を踏ん張って引き抜こうとする。


「……くっ!!」


 しかしそれはびくともしなかった。まるで地面と一体化しているかのように、ほんの一ミリも動かない。

 数秒間、四苦八苦しているトウヤを見かねたステラは怪訝な様子で口を開いた。


「トウヤさん……?」

「だ、大丈夫だ」


 格好つけた手前、今さら抜けませんとは言うに言えないトウヤ。


「握りやすい場所を、探しているだけだ」


 柄を握り直したり、足の位置を変えたりしながらトウヤは誤魔化した。しかし、冷や汗が止まらない。


「俺はこれでも神威召喚を受けたのだからな。うん、これぐらい簡単だ!」


 虚勢を張りながら、解決策を模索するトウヤだったが、そんなもの一つしか思いつかなかった。

 しかしそれを実行に移す前、不思議な事が起こった。




『神威召喚だと……!?』




 頭に直接声が響いた。若い男の声だ。どうやら驚いているらしかった。


『貴様、神威召喚を受けたとは本当か?』


 トウヤは周囲を見回したが、近くにいるのは首をかしげるステラとじと目で見返してくるエマがいるだけ。あとは少し離れた場所から好奇の視線がいくつか。しかしそのどれもが驚いた様子を見せてはいない。


『おい、柄を握っている貴様に聞いているのだ。答えろ!』

「……え?」


 トウヤは視線を伝説の剣に向けた。


「まさか……お前の声か?」

『そうだ。伝説の剣『バンブルーシュ』の“中の人”だ』

「中の人などいない」


 トウヤは何となく反射的に突っ込んでから、バンブルーシュを握る力を強めた。


「まあ意志があるのなら話は早い。この主人公、朧ヶ埼刀夜の相棒となるためお前は今までここに突き刺さっていたのだ」

『おい、さっきの質問に答えろ!』

「冒険の始まりだバンブルーシュ!!」

『無視するなぁあぁああ!!』


 トウヤは再び引き抜こうと引っ張ってみたが、さっきと同様毛ほども動かす事は出来なかった。


『ふん、気が済んだが?』


 なぜか勝ち誇ったような中の人。


「くそ、どうやったら抜ける……?」

『お前には抜けんさ。それに俺は本物の勇者かそれと同等の力を持つ者以外には使われる気はない』

「俺が勇者だ!」

『お前ではなくて、キティの事だ!』

「誰だ……それは?」

『魔王を倒した勇者に決まってるだろう!!』

「ああ、元勇者の事か」

『“元”だと……?』


 トウヤの頭に響いていた声が、急にその声質を変えた。洞窟に響く声のように、暗く、冷たく、がらんどうだ。


『そんな、馬鹿な……あの女が死んだとでも言うのか!?』


 トウヤはその声に思うところがあったのか、自分が神威召喚を受けた事や元勇者が現在微妙な立ち位置にある事などをかいつまんで話した。

 ただし、中の人の声はトウヤ以外には聞こえていないため、周囲の好奇の視線はいつの間にやら冷たいものに変わっている。


「そして俺が元勇者を倒すために召喚された朧ヶ埼刀夜だ!」

『ふん、そう言う事か』


 元の調子を取り戻したようで、トウヤの頭に響く声は尊大さと不機嫌さがにじみ出ていた。


「という訳でバンブルーシュよ。俺と元勇者を倒すために力を貸してくれ」

『嫌に決まっているだろう!』

「……理由を聞こうか」

『俺は確かに、ここで次なる勇者を待っていた。だがその基準は神威召喚を受けたか否かではない。俺はキティを倒せる者を待ち望んでいたのだ』

「ならば利害が一致するだろう? 何が不満だ?」

『お前だからだ』


 にべもなかった。


『仮に神威召喚を受けたとしても、俺を引き抜けないような男が、キティに勝てるわけがない。ましてや、その気品のカケラもない猪突猛進な性格に人の話を聞かない浅慮とあっては、愚にもつかぬ魔獣にすら劣るだろう』


 汚いチリでも払うような言い草に、トウヤは内心で何かがブチ切れる音を聞いた。


「ほう……では聞くが、もし仮に俺がお前を引き抜けたらどうする?」

『……万が一にもありえない仮定だな。口にするのも馬鹿らしいが、そうなったとするならキティとの約束もある。おとなしく力を貸してやってもいい』

「今の言葉、忘れるな?」


 トウヤは再び柄を力強く握ると、地面をしかと踏みしめた。深呼吸をして全身の力を抜く。


「その身に刻め、これが俺の勇者としての資質だ」

『はっ、今さら何をするというのだ?』


 勝ち誇った声がトウヤの頭に響いた。それに対してトウヤはニヒルな笑みを浮かべて余裕を演出しつつ、答える。


「主人公は、伝説の剣(リミーゲゴ)の一本や二本、簡単に引き抜くものなんだよッ!!」


 自信満々にそう言いながら、




(『限界突破(ブレイクスルー)』起動!)




 トウヤは容赦なくスキルを発動させた。


『うおおおおおおっ!!?』


 途端に余裕をなくした声が、トウヤの頭の中に響く。


『この……』


 最後の抵抗でも試みているのか、剣刃が突き刺さった根元に魔法陣が輝いた。

 それでも、ゆっくり、ずるずると。先程まで微動だにしなかった剣が地面から引き抜かれていく。


『くっ……トウヤ、といったか貴様』

「ああ」


 会話の間にも十センチ、二十センチと地面から剣刃が露わになっている。


『このリゼ・グレイシス、今回は負けを認めよう。だが、これだけは言わせてくれ』


 ふう、とため息をついた後、中の人ことリゼは今までで一番大きな声で叫んだ。






『これただの力技じゃないかぁぁぁああああああああああっ!!!』






 同時、硬質な音を上げて伝説の剣バンブルーシュは、庭園から盛大に引き抜かれたのだった。

バンブルーシュ


 元勇者が使ったとされる伝説の剣。

 刃一メートル弱、柄四十センチ強。重量三キロ程。反りの浅い片刃肉厚の両手剣。切っ先諸刃(もろは)造り(切っ先から二十センチ程が両刃。このため、必要な時に峰打ちが出来るだけでなく、突きの殺傷能力が上がる)。

 片刃なので厳密には刀と呼ぶべきなのだろうかとトウヤは迷った。だがデザインに日本らしさがカケラもなく、結局トウヤは剣と呼ぶ事にした。

 中の人がいるが、今のところトウヤ以外は知らない。


 アビリティ


 1 破壊不可

 2 自動再生

 3 ???


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