3. ちょっとやり過ぎた、後悔はしていない
ワイバーンにのしかかられたトウヤが初めにした事は、現在の自分の能力についての考察だった。
(今の身体能力だけで、ワイバーンは倒せない。スキルが何かは分からないけど、あの神がくれたものの事だろう。だったら、あの時の……体に力が満ちたような感覚を思い出せば、いけるはず!!)
トウヤはそう思いつつ、同時主人公ならばこういう時どうするかについて考えていた。
(主人公なら……おそらく使えるはずだ。知らない世界の言語を、僕は既に理解してるんだから。スキルだって!!)
トウヤはまず自分の体に意識を向ける。そして、思いつく限りの方法で、自分の情報を引き出そうとして見た。
(解析! 鑑定! 第三の目! アナライズ!)
心の声は黒歴史の彼方へと響いた。
しかし収穫がなかったわけではない。
それはこの世界が予定調和的な存在であったという訳ではなく、単純に常時発動型の言語翻訳機能が、スキル発動のトリガーとなる部分を意訳したためだった。
(見ようとするだけで見える? ……いや、『視る』!)
トウヤはその感覚だけを頼りに、奇跡的に彼のステータスを見る事が出来た。
朧ヶ埼刀夜
レベル1(0%)
体力13/95
魔力10/10
攻撃19
防御12
魔攻7
魔防5
器用11
敏捷13
幸運22
称号
・『異世界の客人』
・『神に愛されし者』
スキル
・『限界突破』
フラグメント
・神威召喚
流れた情報を、即座に観察する。目の前にはワイバーンのアギト。ブレスが放たれるまでの時間はほとんどない。
(言葉が分かったり、この情報を見れたりする原因は『異世界の客人』ってやつかな。で、スキルの方は『限界突破』って奴が恐らく……)
分析の傍ら、ドラグーンに観察を使って見るトウヤ。
ドラグーン
ランク6
体力2028/2043
魔力771/978
攻撃592
防御477
魔攻232
魔防135
器用248
敏捷389
幸運151
スキル
・中級炎属性魔法
・ブレス
・飛行
フラグメント
・召喚獣
ふざけている。
それがトウヤの正直な感想だった。
全ステータスがトウヤを十数倍圧倒している。体力などに至っては五十倍近い開きがあり、魔法だって使えると来た。正直、このままのトウヤで勝てる訳がない。
(『限界突破』!!)
発動できるかどうか怪しかったが、どうやら意識的に使おうとする事でスキルというものは発動するらしい。
トウヤは体の中心から、力が湧き出てくるのを感じた。それは熱が出た時の熱さのようでありながら、心臓の鼓動のように波打って、体中に広がっていく。広がって、体全体に力が満ち溢れた。
(これで……ッ!?)
だが、死に瀕し加速したトウヤの思考をもってしても、ここで時間が尽きた。
ワイバーンの口の前、赤く輝く魔法陣が起動したのだ。
ワイバーンが得意とするスキル、ブレスである。
この世界で、ブレスはとても厄介なスキルとして知られている。
中距離からの攻撃を可能とするだけでなく、裁定が特殊なのがそのもっとも大きな理由だった。
この世界では物理攻撃は防御、魔法攻撃は魔防によってダメージが減少する。だが、ワイバーンのブレスは自前の火炎袋による発火と、火属性魔法による補助によって放たれている。
結果、ブレスは物理攻撃であり同時に魔法攻撃でもあるという特殊裁定が下される事になる。
そのため、防御が高い前衛は魔防の低さゆえにその身を焼かれ、後衛は逆に防御の低さのために打ち崩される。
……無論、そのような事を差し引いても、今のトウヤにこれを耐えるだけの能力などあるわけがないのだが。
しかし、そんな事を知らなくても、トウヤはこれを食らって生きていられるとは、とてもではないが思えなかった。
(負けるか、こんな雑魚敵ぐらい、ぶっ倒す!)
両手剣を右腕で逆手に持った。
「届けぇぇぇえええええ!!」
それは生存本能のためだったのか、先ほどの考察のためだったのか。
ワイバーンの開かれた口に向かって、トウヤは思いっきり剣を投擲した。
しかし、それが予想外の結果を生む。
トウヤが投げた剣は風を切り裂く音を上げてとんでもない速度で飛び、ブレスを吐きだそうと頭を上げたワイバーンの顎に直撃した。どころか、ワイバーンの巨体が十メートル程吹っ飛んで、石壁に大穴を空けた。
幸いにもトウヤの投擲が下手くそだったため、柄頭のほうが当たったので絶命はしなかったが、ワイバーンは脳震盪を起こして気絶してしまっている。
トウヤが投げた剣はワイバーンに当たった後軌道を変えてなお、天井まで飛んで行って刃の半ばまで突き刺さって、天井に亀裂が入る。
ついでに行き場のなくなったブレスも天井に向かって放たれたが、こちらは天井が多少焦げただけだった。
ワイバーンのブレスを防いでなお、トウヤの無茶苦茶な腕力に結界を破られたゼリアスは内心で舌を巻いていた。
「……ほう」
ただし、ゼリアスはそんな事よりも弟の召喚獣をトウヤが打ち破ったのを見て、今後の影響――特にその原因となるトウヤの性格や能力について分析していたため、最後まで微笑を崩す事はない。
だが、他に居合わせた面々は皆、驚愕に目を見開いている。
ステラはもとより、彼女の召喚獣にして老樹ノードウッドですらトウヤの能力に驚きを隠せずにいる。
召喚獣を倒されたキンザは驚愕するも、誰よりも早く気を取り直してトウヤをにらみつけた。その目に見え隠れするのは嫉妬の炎ではなく、あまりにも若い対抗意識であった。
そしてこの部屋の中で、
(……え?)
誰よりも一番、トウヤが驚いていたという。
朧ヶ埼刀夜(『限界突破』発動時)
レベル1(0%)
体力13/95
魔力3/10
攻撃1900
防御1200
魔攻7
魔防5
器用1100
敏捷1300
幸運22