10. 色々と確認してみる、後悔はしていない
トウヤが目を覚ました時には、既にアステリカに到着していた。今はもう夜で、窓からは薄明かりが差し込んでいる。
どうやら気絶した状態で背負われている場合、荷物扱いになるらしく『楔』を通る事が出来たようだ。
今はベッドの上に寝かされており、ベッドの傍らには布で巻かれたバンブルーシュがあった。自動再生は多少手元から離れていても有効なのか、腕の傷も既に癒えている。便利な能力だ。
トウヤは今、ステラから渡された銀色のカードを眺めていた。
それはいわゆるギルドガードというものだった。
魔力を通す事で持ち主を認識し、ステータスを表示してくれる一品だ。身分証の代わりになるだけでなく、魔獣の基本的なデータを参照したり、知っている相手にメールのような文章を送ったりする事が出来る。
これも以前に召喚された異世界人が作ったものらしく、トウヤは個人的にこれも日本人が作ったのだろうと推測している。
ギルドでの仕事の諸注意は今度ギルドへ行ってから聞けばいいとの事である。ステラはバンブルーシュを引き抜いて断章世界を探索後、余った時間でトウヤのギルドカードを作ってしまうつもりだったらしい。
簡単な手続きで済むはずだったのだが、トウヤが気絶していたためステラが登録用紙を代筆し、ギルドカードだけを受け取って来たのだ。
代筆は異世界人にはよくある事らしく、簡単に受理されたとの事。
しかし、そんな事は今のトウヤにとって瑣事に過ぎない。
(どうなっているんだろう……?)
トウヤはギルドカードを裏表をしげしげと見ていた。これも『楔』同様念じれば欲しい情報が浮かび上がるようになっている(逆に言えば、見せたくない情報はいくらでも秘匿する事が出来る)。
そこには以前からトウヤが視てきたステータスが浮かび上がるのだが、その値がトウヤの疑問の種となっていた。
朧ヶ埼刀夜
レベル1(0%)
体力95/95
魔力10/10
攻撃19
防御12
魔攻7
魔防5
器用11
敏捷13
幸運22
称号
・『異世界の客人』
・『神に愛されし者』
スキル
・『限界突破』
フラグメント
・神威召喚
値は初めに視た時と何も変わっておらず、違いと言えば体力が全快している事くらいか。
この何が問題かと言うと、そう――何も変わっていない事である。
レベル1(0%)
トウヤはマッドラッドのようなランク1の魔獣だけでなく、ワイバーンとクリアマンティスという中級の魔獣を倒しているにも関わらず、レベルが1つも上がっていないのだ。
しかも、このレベルの横にある数値が経験値だと推測すると、そもそも経験値が1すら入っていないように思える。
(検証が必要だな)
そう結論づけたトウヤは、次の日から行動を開始した。
まずはステラにギルドカードで表示される情報について詳しく聞いてみる事にした。
「ええと、ギルドカードで見る事が出来るのは『ステータス』『称号』『スキル』『フラグメント』の四つです」
「このステータスのレベルの横にある数値は、レベルアップに必要な経験値と取得した経験値か?」
トウヤはギルドカードをステラに見せた。
「はい、そうで……え、レベル1!? しかも経験値が全く入ってませんっ!!?」
「やはり異常なのだな」
トウヤはこの不具合の原因究明は後回しにし、残りの記述についての情報を集める事にした。
「この称号と言うのはなんだ?」
「はい、称号は何かを達成すると与えられるもので、能力値に補正が入ったり、特別な能力が得られたりします」
「ほう、そうなのか」
「例えばトウヤさんが持っている『異世界の客人』はこの世界に召喚された方が全員持っている称号です。これを持っているとこの世界の言葉が理解出来、文字を読む事も出来るようになります」
「それでは、この『神に愛されし者』は?」
「それについては私も分かりません。神威召喚された場合の称号でもないはずですし……」
ステラは何か考えているのか表情がコロコロと変わっていく。しかし、結論は出なかったようで、気を取り直すように頭を振った。
「なら、このフラグメントと言うのはなんだ? 俺の場合『神威召喚』と出ているのだが」
「フラグメントはその人の断片的な情報が記載されます。これは単なる情報で、称号とは違って何も効果はありません。フラグメントが残る期間はまちまちで、『神威召喚』のようなものはずっと表示されますが、短期間だけ表示されるようなものもあります。例えば、『商人』のフラグメントは商人をやめると数日後には消えてしまいます」
「職業などが表示されるだけなのか?」
「いいえ、それだけではなく、悪い事をするとここに表示されたりします。一番分かりやすいもので言えば、不当な理由で人を殺せば『殺人』のフラグメントがつきます。さらに何度も殺人を繰り返せば『殺人鬼』というフラグメントになるそうです。これらは一生消える事がありません」
「フラグメントを見ればどういう人間か一目瞭然と言う事か」
「はい」
「純粋に興味で尋ねるが、ステラのフラグメントを見てもいいか?」
「え!? あー、あの! 見てもつまらないと言いますか、恥ずかしいと言いますか……」
「駄目か?」
ステラは悩んだ挙句おずおずと自分のギルドカードを取り出して、フラグメントの部分だけを見せた。
フラグメント
・貴族
・魔法使い
・召喚術師
・学生
・本の虫
・努力家
・甘党
・引きこもり予備軍
・天然
………………
…………
……
「……雑多な情報が記載されることだけは把握した」
トウヤはどういう情報がどういう基準で記載されるのか分らなかったが、この部分を読めば相手の人柄が把握できる事だけは理解したようだった。
「俺はまだ神威召喚以外のフラグメントを得ていないようだが?」
「このギルドカードの情報は、断章世界系の神様の協力で記載しています。なので、この世界に来る以前に何を行っていたとしても、ここには記載されません。また、召喚されてから数日間は、全く記載されないようです」
「……なるほど。そう言う事か」
トウヤは何気にほっとしたような様子を見せた。何か表示されると困るフラグメントに心当たりでもあったのだろうか。
「それにしても神の力が関係しているとは……このギルドカードは神器のようなものなのか?」
「いいえ、このギルドカードは昔に神威召喚を受けた異世界人が作ったもので、この世界をより良くするために神様と協力したそうです。初代ギルドマスターは今でも、その神威召喚された方と神様の両方であるとされています」
「人間に神が協力する事は多いのか?」
「いいえ、滅多にありません。昔はたまにあったようですが、特に最近は神威召喚の時ぐらいのもので、それ以外は全くないと言っていいでしょう」
「神は複数いるのか?」
「はい、ただ何人いらっしゃるのかは分かりません。各々が役割分担されているようですが、それもはっきりとは」
「『○○を司る神』といったものが存在すると言う事か?」
「はい、おそらくは」
トウヤはしばらく得た情報を整理するために黙考してから、最後にスキルについて尋ねる事にした。
「このスキルと言うのは、召喚された人間は全員所持しているのだな?」
「はい。召喚された方は最低一つはもっています。また、習得した技術も表示される事があります。私の場合、『召喚術』と『魔法』、『速読』のスキルを持っています」
「最後の一つだけ俗物的だな……」
「それでもスキルとして記載されるのは特別なんですよ? 相当の練度でなければ、神様が認めて下さらないので」
「ステラは意外と自信家だったのだな」
「え……あ! いいえ、そう言う訳では!!」
ステラは恥ずかしそうに顔の前で手をぶんぶんと振る。
「そ、それに、私はまだ『魔法』のスキルしか持っていませんよ!?」
「しか、とはどういう意味だ?」
「えっと、スキルの中には成長するものや上位互換があるものがあります。例えば私の持っている『魔法』スキルは初歩的な魔法を使えると得られます。しかし『魔術』スキルはもっと複合的で複雑な魔法が使えないともらえない、とても珍しいスキルです」
「ステラ程の技量があっても無理なのなら、相当レアなのだな」
「い、いえ! 私なんてまだまだです!」
「俺を召喚したステラが、凡人だとでも?」
「あの、えーっと……でも、それは魔法スキルではなく召喚術の範疇なので……」
「同じ事だ。ステラは数ある世界の有象無象の中から、俺を選べたんだ。俺が保証する。ステラは優秀だ」
「……あ、ありがとう、ございます」
トウヤの不敵な笑みに気圧されたように、ステラは視線を下に向けた。褒められて照れたと言うよりも、どちらかと言うと褒められる事に慣れていないようだった。
「ところで、俺の『限界突破』も成長するのか?」
「かもしれません。異世界の方のスキルは固有のものですから、なんともいえませんが」
「未知数という事か」
トウヤはステラから収集できるだけの情報を得ると、今度は騎士団長レオンの元を訪ねる事にした。
レオンからはバンブルーシュをまともに振るために、筋力トレーニングの方法や足運びなどについてアドバイスを求め、ある程度の収穫を得た。
ちなみに、ある程度の、とトウヤが判断したのは求めた情報よりも日本刀に関するうんちくの方が多かった気がしたからである。
何度か素振りをして欠点を指摘してもらい、断章世界系での探索の注意点を確認した後、
ついでに経験値の異常についても尋ねたが、レオンにも心当たりがないとの事だった。
「実践あるのみと言う事か」
何を実践する気なのか、トウヤはそうつぶやいていた。
しかしその日の午後、断章世界に探索に出た際、偶然にもトウヤは経験値問題の原因を発見する。
それはあるトラブルがきっかけであった。




