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在架―27

 留守? と知って即座に頭のスイッチが入ったような、そんな感じでやりすぎてしまった。

 柳にあったことを思うと、また俺の身近な人間に何か悪いことがあったのかと思って。身近といっても、一度母さんに連れられて会っただけだった他人だが。母さんが焚書のニュースを見て、旧友を訪ねた時に会った一人の家だ。

 初めての予告による焚書が日にちを跨いだらすぐにでも実行されるかもしれないんだ。何かあってもおかしくない。

 そもそも、まだ首謀者が捕まっていない。まだ焚書テロはこれからも続くかもしれないんだ。終わってはいない。泰午がもう止めるっていってたんで安心してたけど、その安心感が一気に吹き飛んだ。

 ベランダの窓から中を見た感じでも特に変わった感じは無く、単なる留守にしか見えなかった。ざっと荒して何かひっかかるものが目に付けば良し、でなきゃ諦めて、さっさと逃げるつもりで、窓を割るという非常手段に訴えて入り込んだんだけど。泰午なら見つかっても、不法侵入? 泥棒を見かけたんだよ! とか適当言って開き直りそうだけど、俺は人生そこまで開き直ってない。静まりきった室内に入り込んでから、後悔というかびびった。案外、ものが少ないから徹底的に家捜ししてもあまり時間は要らなかったろう。多分。机の上にコンビニの買い物の袋を置きっぱなしにしているくらいに普通で、たぶん一階に降りたらファミコンが出しっぱなしになっていただろう。ビニール袋の中身は弁当。暖かくなかった。昼に食べようと思って買ってきたなら、まだそれほど経ってなかったはずなのに。よく見ると、日付が5日前になっていた。

 忘れずに柳の手を引っ掴んで逃げ帰ろうと思ったらこれだ。警察署の建物の中に入るのは初めてだよ。

 進入する際、姿を見られたのかな。でも、この狭い部屋に連れてこられてからずっと、俺の不法侵入の件は不思議とスルーされている。なんで? 柳はちゃんと送り返されているかな。柳は関係ないもんな。

 来た。戻ってきた。けっこう長く待たされたな。

 柳もいるじゃん。三人の刑事と一緒に戻ってきた。迷惑をかけてしまったな。

 どうも、焚書テロに関係あるらしい。焚書テロに無関係とはいえないあのおっさんの家に忍び込んだりしたから、テロリストの仲間だと思われたのか……。違う。この刑事達の態度は、そうは言っていない。こう・けいよ? 自分の名前を読めなくなっても、警察手帳には名前が載っているんだな。

 捜査に協力して欲しい? 母さんと文蔚との繋がりに気付かれたのかな。でも、そんなこと、俺を呼んでも何にもならないだろ。かといって親を呼ばれても困る。無能のクズ共が……手詰まりだからって俺をつついても何も出ない。もう何件起きていると思っているんだ?

 ――やっぱり親のことだったか。でも、臣文蔚が焚書テロに関わってないのなら、母さんも何も知らないんじゃないのか? それ以前に俺は、こうして昔のことを訊かれても何も答えられないでいる。小さい頃のことをよく覚えていない。しかし、それが普通じゃないのか? 誰だってそんな小さい頃のことなんかよく覚えていないものだろ。親が誰と会っていたとか、何をしていたとか……

 どうせ訊きたいのは臣文蔚のことだろうと思っていたが、その名前は出てこなかった。まだ帰ったら駄目なのか? 俺を一人残してみんなどこか行ってしまったが、帰れとは指示されていないしな。

 ……錠はかかってないな。

 当り前だ。何も悪いことしていないのに、閉じ込められる理由なんかない。

 隣りもその隣りも似たような部屋だ。それが延々と続き、一部屋に一人ずつの犯罪者が入っている――いや、実際は4,5部屋しかないけど。罪を犯した人間は捕まってまずここに入れられ、その後、順々の工程を経て処理されていく……

 隣りはどんな奴が入っているんだ?

 Aだ。コイツ、Aじゃないか。文蔚の仲間。なんでこんな所に。ていうか捕まったのか。

 ま、警察がまだ、臣文蔚が首謀者だと思っているのなら、当然だな。そう言えば、文蔚に拉致られた件は警察に教えていなかったな。喋るのも面倒だったし。

 ――何?

 ……黙って俺の顔を見ているだけ。何が言いたいのかわからない。いや、俺に対しては何も無いか。単に俺を確認しただけって感じだ。事務的にただそこに居るというだけに見える。後悔するとか警察に腹を立てるとかは感じられない。下手にちょっかい出さない方がいいか。警察の中だし。

 あ……戻ってきた。全員? 柳も刑事もか。

 Aや俺も連れて、どこへ行くつもりだ。柳は俺と同様に何が起きているか分らない感じだ。でも、Aの方は呼び出されるのを待っていたかのようだ。

 何の部屋? 学校の校長室みたいな感じだな。古い革張りのソファ、棚の上の小さなテレビ……何もかも年代物だ。すごい人が集まっている。みんな隅のテレビの方に向いている。

 中継? 生放送なのか。やけに臨場感あるカメラだな。建物の中。

 ……やっぱりか。

 でも、火は見えないな。警報が鳴りっぱなしだ。建物の外が映った。野次馬? 妙に人だかりがこっちを見上げている。消防士? にしては普通の安全第一のヘルメットとガスマスクだけの男が現れた。でも消火器を持っているんだから――文蔚? 文蔚もいるじゃないか。

 ひどいな、これは。分厚い扉を開けた途端に煙りが――

 カメラも一緒に中に入るのか。火が見えるけど、不自然な燃え方だ。本棚の何ヶ所かから火を噴いている。本から花火みたいに勢いよく火が吹き出ている? どういう事? 放火とは違うのか。火ばさみで摘んで、鉄のゴミ箱に集めている。棄てられてからもまだ勢いよく燃えている。これらの本自体が燃えているのか?

 この建物の中に幾つもある書庫から、この燃える本を回収しているようだ。ガスマスクは消化剤が撒かれているからか。

 あらかた回収の方は終わったのかな。まだゴミ箱の中で火を噴いている。ゴミ箱の中にあるのはかなりの数だ。中庭? に持ち出したみたいだ。集められたゴミ箱は五個くらい。あれ? 放置? ゴミ箱が遠ざかる。中庭に置きっぱなしにして逃げる。警察か消防のサイレンの音だ。いや、両方か。だから逃げるのか? 闇夜に乗じて上手く逃げられた様子。生の映像はそこで終りだ。

 さすがに中継を最後まで見ていた警察官は半分もいない。

 また生中継の映像だ。今度は外からだな。文蔚らの映像もどこかのテレビ局が流していたみたいだけど……どうやって? コネとか? さっきの建物の中の状況は煙がひどかったりカメラが慌ただしかったりしていたけど、外から見ると何も起きていないように見える。

 今回は阻止できたようだけど、まだ続くのか。

 これで余計に世間で騒がれることになる。身内の関わっている問題が、世間の目の前に晒されることになるなんて嫌だな。

 Aは……こんな事件があったばかりじゃ、警察がAをすぐに手放すはずは無いな。

 いや――なんとしてもAには臣文蔚を呼び出してもらう。このチャンスを逃したらもう会えないかもしれないし。

 文蔚に、母さんに会ってもらう。

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