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在架―26

 涙を流しながら、遺書を燃やしている。

 正確には遺書ではないな。でも、肩越しに見たあれは、柳の部屋で見たものと一致していた。今こうして頭の中で反芻しようとしてみると、鮮やかに一字一句思い出せるから間違いない。

 何故?

 人は、自分の感情を整理するのに言葉を使う。考えていることを言葉にすることで、輪郭をはっきりさせ、物事を順序立てて、考えを積み重ねていくことができる。そうすることで、自分の感情を冷静に見つめ直す手助けとなる。思いの言語化だ。言葉を使って感情を吐き出すことができるのなら、そういう理由でなら、発語の度に言語量を消費するのも納得できる。柳はそうして、内容はともかく、あの長文の遺書を書くことで溜っていた感情を吐き出したのかもしれない。そのあと急性言語中毒で混乱したけど、いまは落ち着いている、という感じかな。

 まるで脅迫文書のように、あちこちから拾い集めてきた文書をコピーしてつなぎ合わせたような代物だった。コピーを重ねた証拠に、紙の端の方は黒ずんでいたりコピーしている人の指が写っていたりもしていた。どう考えても、柳の書いたものより先にあったものだ。というか、柳の遺書はこれを書き写したものだったんだ。

 室内で火を点けたもんだから、知らない人が足で踏み消している。柳は、怒られていることにも気づいていないようだ。自分の涙にも気づいていないのかもしれない。

 もう完全に燃え尽きてしまって、もう一度見てみることはできない。でも、間違いない。柳はあれを書き写して遺書とした。柳が遺書の内容を推敲するために、ああいうものをまず作成したのかな。参考のためにいろんな書物から文章を抜き出して集めて。いや、そんな感じじゃなかった。だいいち、今から自殺しようとする人間がそんな回りくどいというか、遺書に文章としての完成度を求めるかな? 言語量を惜しんで、間違ったりしないように文章を練っていたのか?

 いや、何度考えても、そうじゃない気がする。むしろ、誰かが柳に書かせたと考える方がしっくりくる。そうだ、柳が自分であれを作ったというのなら、今こんなにショックを受けたりするか? なんで、泰午が持ち歩いていて、しかも柳に見せたのかはこの際おいておいて――泰午のことは後で考えよう――それは、いままで柳自身も、あの遺書の文章は自分で考えたものと思いこんでいたからじゃないだろうか。自殺未遂のショックで。

 そもそも自殺だったのかどうかも怪しい。自分の意志で自殺しようとしたなら、他人に遺書の文面を考えさせるわけが無い。ということは、自殺自体も他人に強いられたものだったのか? そんなものは自殺とは言えない。柳は自分がどういう事件に巻き込まれているかにも気付いていないんじゃないかという気がする。

 もう外に連れ出そう。ここに居させられない。

 泰午を逃すべきじゃなかった。あいつは焚書テロに絡んでいる集団に首を突っ込んでいる。その泰午が柳の遺書の元ネタを持ってきたってことは、柳の自殺未遂は、どう考えても焚書テロと無関係じゃない。なんで柳みたいな大人しい子がこんなことに関わっているのかわからないけど。もしかしたら、泰午に告ったことと関係あるの? いや、それ以前に――柳が父さんの手紙を持っていたことも本人に訳を訊いていなかった。それと、柳は自殺未遂前、臣文蔚の知り合いが経営していた法律事務所にバイトとして出入りしていた。母のだけでなく、両親の手紙が単に思い出の品という以上の意味があるんだ、やっぱり。臣文蔚がテロを実行しているのかどうかははっきりしなくなったけど、焚書テロのグループも手紙を欲しがっているのは確かだ。柳は口封じのために殺されかかったのか?

 いや、わからないけど……

 わからないけど……

 それと、これは? 泰午はこんなもの俺に渡してどうしたいんだ。こんなものを渡したってことは、やっぱり泰午は焚書テロはやめたと考えていいんだな。この住所のリストは、焚書テロの犯行グループに関係している場所? 警察に渡せってのか。

 予告については素っ気なかったな。信じていないのかも。事前に教えるなんてバレバレだしな、普通は罠かと思うか。なぜ予告なんて? これが初めてだ。犯行声明自体、遅かったけど。でもおかげ、今、ネットもテレビも、学校でも、話題は沸騰している。最初は、俺も含めて何か変な放火事件が多いな程度だった。その後、言語関係の施設ばかりが狙われる事件がとどまることを知らずに続くと、様々な憶測や噂が流れ出し、俺が知る前から「焚書テロ」という単語が隅の方で囁かれていた。なぜ焚書が行われるのかといった議論があちこちで交わされ、この状況は、普段は黙っている人達からも多くの言語量を引き出した。

 当日の5日も前に出された予告は、さらにみんなの興味をかき立てたようだ。予告から当日まで日にちがあったせいで、余計に盛り上がっている。中途半端に関わってしまった俺の方が冷めている。事前に予告をしている以上、警察も含めた警備は完璧だろう。失敗はわかりきっている。

 あれ? ええ? これは本当? 下から2行目……最初に母さんと一緒にいった、ファミコンやってたおっさんの家って、確かここら辺だったはず。いや、ずばりあのおっさんの家の事だろ、これは。やっぱりというべきか。あのおっさんも関わっていたんだな。

 文蔚だけじゃない。ここのリストに列挙されている全ての場所が、母さんや父さんの若かった頃と結びついているんだ。

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