悲しい恋
木枯らしの吹く寒い日、私は重い荷物を引きながら今日も仕事場に向かって歩いていた
私の仕事は演歌の歌手、、と、言ってもキャバーレーやホテルを拠点として歌っている
まあいわゆる名前も無い売れない歌い手です。でも結構この仕事が気にいっている、色々な町にいけるしギャラも悪くない{おはようございます}夜だと言うのにこれが私たちの挨拶
{よう、おはよう}この人はこのキャバレーのバンマス(バンドマスターバンドの中で一番偉い人)
{呉さおりです、よろしくお願いします}これが私の芸名
さそっくバンドさんに譜面を渡して音合わせショータイムまで2時間楽屋へ戻ってお化粧を済ませて私は近くの喫茶店へ直行あまりおいしくないコーヒーを飲んでいると{ちょっといいかな}その声に顔を向けると結構いい顔の(今でいうイケ面)男性が立っていた{ええ、何か?}{もしかして今日あのキャバレーで歌う呉さおりさん?}{ええ、そうですけど}{突然ごめん、キャバレーの看板に貼られていた写真を見てどうしても会いたくて会いに来たんだ、少し話をしてもいいかな?」{ごめんなさい、もう少しでショーが始まるから、、}「それじゃ、終わってからまたここで会ってもらえないかな僕もショーを観てここで待ってるから」「ええいいわ!それじゃまた」私は始めて会った人なのにすぐ返事をしてしまった自分に少し驚きと恥ずかしさを覚えた、、今までこんな事はなかったもう23歳なのに彼氏も作らず一人で各地を歩き回ってそれがとても楽しいし下手に彼氏がいるとどこも行きたくなってしまうような気がしてわざとそういうことを避けてきたような気がする、でもあの人だけは避けたくないと強く自分の心の声がした、、この日は2回のショーがとても長く感じられた、何故か私も会いたいあの人に、、、、
ショーを終えて私は濃い化粧を落として急いであの喫茶店へ向かった
あの人はさっき私が居たテーブルにタバコの火をくゆらせながら待っていた、
{お待たせして」「ああ!有難う来てくれて」本当に嬉しそうに彼は言った
「僕は椎名浩二ソフト関係の仕事をしている27歳の男です」と彼は自分のことを紹介してくれ
「僕は、君に一目ぼれしたんだよね いや君の写真にかな」「まあ、それじゃ実物を見てがっかりされたんじゃないかしら?」「いや実物を見て2度惚れたよ」「本当に言っているの」「本当だよよかったら真剣に付き合ってほしい!」「本気にするわよ」私はこの時すでに恋に落ちていた、、知らない町で始めて会った人にこんなに惹かれるなんてありえるのかしら、でもこれは夢でもなにものでもない現実だ
私はこんな事にとまどいながらも自分の中に燃え上がる心を抑える事が出来なかった
それからはスケジュウルをこなしながら、彼の居る町に行って彼とのひと時を楽しんでいた
私が会いに行けない時は、彼が会いに来てくれた。
このままいったら、結婚しようと彼はきっと言ってくるだろう、でも私はもうしばらくこの恋を楽しみたい、まだ結婚はしたくない一緒にはいつもいたいけど、、狂おしいほどのこの今の気持ちを保っていたい
会ったときの狂おしさ会えない時の切なさ、今がとっても楽しい
「何をかんがえてるの」と彼は聞いた、久しぶりに彼と二人でホテルでゆっくりしている「ううん、何もただ幸せだなーっておもっていたの」「もっと君を幸せにしたいなー」「え!」「結婚してくれないか」やっぱり言ってくれた、私はこういってくれるのを待っていたのかも知れない
「ええ!うれしいわ」私はこの時もすぐ返事をしていた
「今のスケジュウルをこなしたら仕事を辞めて貴方のところに真っ直ぐいくわ」
「ああ!待ってるよ」こうして一目ぼれから始まった私たちの恋は完全に熟そうとしていた
私はいつものようにある町のキャバレーで彼のことを思いながら歌っていた
仕事も終わりキャバレーの指定のホテルに戻ると部屋の電話がなった、彼からだ!嬉しくて受話器を取る
知らない女の人の声「呉さおりさんですか」「ええそうです」「落ち着いて聞いてください、私は椎名浩二の妹です。兄は今日の4時28分に亡くなりました。交通事故です」私は言葉が出ない
これはきっと夢明日の朝になったら覚める夢そうよ絶対に夢そう何度も自分に言い聞かせていた
あれからどれほどの年月が経ったのだろう、今も私はキャバレーで歌っている
二度と恋は出来ないだろう、あれほど好きになれる人もいないだろう、今の私は歌が恋人
それでいい、いつも歌っている時はあの人がそばにいてくれるから、、、、