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暗闇の希望  作者: 凛音
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第八章

「蓮華ってば!」


光輝の声にはっと我に返った蓮華の目と鼻の先には光輝が居た。眉を寄せてむすっとしている。どうやら長いこと思いふけっていたようだ。


「どうしたんだよ、ずっと声かけてたのに…」

「……別に」


今更過去を振り返っても仕方ない。蓮華は心の内でため息をついて近くにあった黒いコートに手をかけた。膝くらいの丈の真っ黒でシンプルなコートだが一見して高いものだと分かるそれは明らかにお出かけ用だった。


「どっか出かけんの?」

「買い物。冷蔵庫の中もう何もないし」


そう、昨晩から中身がほぼ空の状態である冷蔵庫。何かしら買い足しをしなければならない。光輝が居るなら尚更のこと…。コートを着た蓮華はもう一着のコートを光輝に放り投げた。


「え、わっ!」


慌ててコートを受け取ったはいいが、その真意が分からなくて蓮華を見る。


「えーっと、蓮華さん、これは?」

「コート渡して家で寝てろって言うと思う?それとも今までそうしてた?」

「え、でも外に出さないって…」

「そんなこと言った覚えはない。私の監視下の許、自由は許さないといっただけだ」

「じ、じゃあいいの?」


光輝が目を輝かせて蓮華を見つめる。蓮華は息を一つついて何も言わずに玄関に向かった。否定をしていないその好意を肯定と取り、光輝は嬉しさ全開で蓮華の後を追った。




(やっぱり連れてくるんじゃなかった…)


本日、後悔2度目の真っ只中であった。目の前では『わーっ!』とか『すっげぇー!!』と感嘆を叫んでいる見知った少年がそこにいる。2歳の頃から研究所を出てないこともあって光輝が興奮することは想定内だった。しかし、一歩歩くごとに『これは何!?』『あれは何!?』とか大声で聞いてくる光輝に人の視線はもちろん集まり、そして光輝に話しかけられている蓮華ももちろん注目の的だった。


「あまりはしゃぐな!」


この台詞も何度目だろうか。そのたび光輝はごめんと笑顔で謝るのだが3歩歩いたらすっかり元に戻っている。だんだん恥ずかしさを通り越して呆れ疲れてきた蓮華はため息しか出てこなくなった。しかし蓮華の心境を悟ってくれない光輝は未だにはしゃいでいる。


「蓮華どうしたの?どっか痛いのか?」


俯いていた蓮華を気遣ってか心配そうに覗き込んだ。蓮華はじっと光輝を見つめ急にその手を取り早足である場所に向かった。


「え、わ、蓮華!?」

「………」


何も答えない蓮華。よく分からないその行動に光輝は困惑していた。だが蓮華に逆らう理由をもたない光輝は蓮華に連れられるまま蓮華の後をついて行く。そして蓮華はある建物の中に入っていく。高級ブランド店だけを店舗しているそこはホテルと間違いそうなくらい内装は煌びやかだった。


「ぅわ…」


感嘆をもらす光輝と違って蓮華は眼もくれず目的の階まで上がった。3階について蓮華たちはある店に入る。


「ここ、服屋?」


光輝が言うとおりそこは結構有名なブランド洋服店。店の奥からは品のある女性店員が営業スマイルと共に出てきた。


「いらっしゃいませ」


丁寧にお辞儀をして蓮華たちに挨拶をする。笑みを崩すことなくいる店員に蓮華は相変わらず無愛想なまま店をぐるっと見回した。


「こいつに見合うもの何着か欲しい」

「承知いたしました。では、見立てはどうしましょうか」

「全て任せる」

「分かりました。それではお連れの方はこちらに…少々お待ち下さい」


店員は光輝を連れて店の奥に行った。蓮華は別の店員に案内され椅子に座り光輝を待つことにした。

一方、光輝はというと店員に連れられて試着室にいた。試着室といってもとてつもなく広く、試着室というよりは一部屋に近かった。そこにはすでに2、3人のスタッフがおり光輝を見て一礼をする。


「こちらの方に見合う服を持ってきてください。見立ては全て任されております。サイズは…そうですね、MからLの間で十分でしょう。それでは取り掛かってください」


スタッフは「はい」と返事をすると機敏に動き出した。見る見るうちに目の前にたくさんの服が積み上げられていく。小さな山になったところで店員とスタッフは光輝に向かっていた。


「それでは今から試着に入らせていただきます」






「お待たせ致したました」


椅子に座って出されていた紅茶を飲んでいた蓮華の前に先ほどの店員が現れた。


「何着かご用意させていただきました。全てご覧になられますか?」

「あぁ」

「では、こちらへ」


店員の後についていき試着室に入る。そこには先ほどと違う服を着た光輝がいた。


「こちらが1着目となります」


蓮華は光輝と光輝の服をまじまじと見た。上は白のノースリーブに黒のパーカーを着て下はシンプルに紺色のGパンを穿いていた。そして首にはアクセントとして十字架のネックレスがかけられている。一見、どこの服屋にでもありそうだがブランド店なだけあって着心地が全く違う。


「紺のGパンは何にでも着合わせしやすい上、足をすらりと見せてくれるのでお客様の華奢な身体に合ったものをご用意させていただきました。上はシンプルにノースリーブとパーカーで解放感を表現してみました」


店員が説明をしてくれる中、蓮華はじっと光輝を見ていた。だが、だんだん恥ずかしくなってきた光輝は蓮華から目を逸らす。


「ま、いいんじゃない?光はどうなの」

「え、俺?別に俺はいいけど…」

「じゃあ次。着せなくていいから服だけ見せて。あ、その服は着ていくから脱がさなくていい」


店員にてきぱきと指示を与えて、残り5、6着を見た蓮華は気に入ったようで頷いた。


「うん、全部買おう」

「ありがとうございます。では、お会計を」


店員はレジで計算をして、他の店員は服を袋に詰めている。


「失礼致します。お会計15万8千円でございます」

「15万ッ!?」

「はい」


声を上げる光輝と違って、涼しい顔で蓮華は店員にカードを渡す。


「失礼します」


店員は蓮華の手からカードを受け取り、レジの方へ行く。蓮華は振り返るとそこには硬直した光輝がいる。


「どうかした?」

「じ、15万って!何でそんなにするんだよ!?」

「一応高級ブランド店だしな。15万なんてまだ安い」


蓮華は「それがどうした」とでもいいそうな顔をして光輝を見る。後期は俯いて徐に言葉を出した。


「俺…金持ってないし、15万なんて大金…」


それを聞いて何を光輝が落ち込んでいるのか分かった蓮華は静かに言った。


「安心しろ。私は他人に気を使うほど優しくもないし心も広くない。アレは全てお前の金だ」

「…は……?」


光輝が声を上げるのと同時に店員が戻ってきてカードとレシートを蓮華に渡す。そのまま蓮華は店を出、光輝もその後を慌てて追いかける。


「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」


閉まっていく扉の向こうで店員が丁寧にお辞儀して静かに扉は閉まった。

だんだん蓮華の性格が曖昧に…

どうなっちゃうんでしょう…

次章、また新キャラ登場なのでお楽しみに!!

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