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暗闇の希望  作者: 凛音
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第二章

学校に着いたのは8時ぐらいだった。蓮華の学校はこの国でも名門中の名門、小中高一貫の共学で一言でいう『お嬢様』『お坊ちゃま』な学校だ。蓮華はざわめく校門をくぐり抜け、自分の教室である3年A組に向かった。


――――ガラッ


話し声で溢れかえっていた教室は蓮華が空けた扉の音で静寂になり、全員の視線が蓮華へと降り注がれる。その鬱陶しい視線を無視して蓮華は自分の席である窓側の一番後ろの席へと座る。蓮華が座ると同時にまた教室は騒がしくなり始めた。そして蓮華は心の内でため息を零す。


(なんで私が疲れなくちゃいけないのよ…)


蓮華は机の中から本を取り出して読みふける。蓮華にとって本は最高の外との関わりを絶つ手段だった。


――――キーンコーンカーンコーン


チャイムが鳴り担任が入ってきて教卓の前に立つ。それと同時に日直が号令をかけて挨拶をする。どこにでもある学校の風景。そして簡単な連絡をするとすぐに1時限目の教師が入れ替わり入ってきた。


「え…はだから…こう…なって…」


教師の声なんて途切れ途切れにしか聞こえない。そもそも聞く気なんて全く持ち合わせていない。

蓮華にとって授業なんてただ座っているだけの退屈な時間。蓮華は常に首席を維持し、スポーツも万能で総合成績ももちろんダントツの1位。

蓮華はぼんやりと窓の外の空を眺めていた。すると朝、榊が話した内容が脳裏に浮かんだ。


----*-----*-----*-----*-----*-----*-----*-----*-----*-----*----


「実は依頼があった」


ピクッと反応を見せた蓮華は口にしていた紅茶をそっと机の上に置いた。


「内容は…誰を殺したらいいんですか」

「くわしくはこのファイルの中だ」


榊はそういって徐に黒いファイルを取り出し、蓮華の前に出した。


「簡単に説明すると、ある組織を壊滅させることだ。その組織はかなりでかくてな、下の奴らでは難しい」


もともと蓮華たちのような幹部が直接手を下す仕事は少ない。たいていのことは下っ端が仕事、暗殺をしている。だから今回のように蓮華が仕事につくのは相手が大きいことを意味していた。


「腕の立つ者で今手が空いているのは蓮華、お前なんだ」


蓮華は少し考える素振りをして榊を見る。


「いつ、やるのですか」

「出来れば今日中だな。依頼者も早いほうがいいと言っている」


蓮華はまた少し考えてから口角をすっと上げた。


「引き受けましょう、この仕事」


蓮華の笑みは背筋が凍るほど冷たく、冷酷であった。榊は蓮華が引き受けたことに安堵の表情を浮べている。


「そうか、助かる」

「いえ、これも仕事ですから」


榊は苦笑をして背もたれに背を預けた。


「では、部下は何人必要だ。用意しておく」

「必要ありません」


榊は蓮華がそういうことが分かっていたかのように、驚くことをせず蓮華を見据えていた。


「だが、今回、いくらお前でも相手がでかすぎる。せめて50人は連れて行け」

「数があれば必ず勝つなんて保障はどこにもありません。逆に人数がいればその分、余分な行動が増え私の邪魔になります。はっきり言って足手まといの何者でもありません」


断言する蓮華に榊はため息一つついて諦めた。


「分かった。今回の仕事は蓮華、お前に一人に任す」

「ありがとうございます」


蓮華はそういうと残っていた紅茶を一気に飲み干した。そしてそっと立ち上がる。


「では学校がありますのでこれで失礼させていただきます」

「ああ。車を出させる。学校が終わったら寄ってくれ。その時にファイルを渡す」

「はい」


そういって榊はファイルを手元にしまった。蓮華は短く返事をして、榊の部屋を後にした。


----*-----*-----*-----*-----*-----*-----*-----*-----*-----*----


気が付けばもう四時限目が終わっていた。蓮華は昼食を持って席を立つと、またクラスのざわめきが一気に静かになった。クラスメートは蓮華が殺し屋をやっているのを知ってか知らずか蓮華と馴れ合おうとしない。逆に蓮華にとってそれはありがたかった。人を寄せ付けない蓮華は人と付き合うのが苦手なわけではないだのが、ただ“独り”がいいと思っているので一人でいるのが好きだった。


――――コツ、コツ、コツ、コツ…


廊下を渡り、階段を上って屋上のドアを開く。普段は立ち入り禁止の札があるので生徒はもちろん、教師も入ってこない。誰もいないこの屋上だけが蓮華が唯一学校で心安らぐ場所だった。


――――ガチャ


外に出ると吹き抜ける風が気持ちよかった。蓮華はコンビニで買ったパンを取り出して食べ始める。時間はたいしてかからなかった。少食な蓮華はパン一個とお茶半分で十分お腹一杯だった。


(残りは確か…英語と数学か…めんどくさいし、サボろうかな…)


うっすらそんなことを考えていた。サボりなんて蓮華にとっては珍しくもなんともない。教師も蓮華とあまり関わりを持とうとしないので怒らないし、サボることに決めた。

蓮華は寝転がって空に浮かぶ雲を何となしに見ていた。するとだんだん瞼が重たくなってきた。


(今夜は久ぶりに仕事もあるし…一眠りするか…)


“仕事”と考えた瞬間、脳裏に榊の姿が浮かんだ。そしてそれを消すように蓮華はそっと瞼を閉じ、意識を闇の中へと沈めた。

今回はちょっと長くなりました?

暗殺まであともう2話ぐらい待ってください。

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