会うは、別れの兆し
扉の前で、足を止める。
「……また」
振り返らずに、アリアは言った。
「また、会っていただけますか?」
一瞬の間。
彼は、少しだけ戸惑ったように視線を泳がせる。
「……はい」
そう、答えてしまった。
理由を考える前に。
アリアは、微笑んだ。
それ以上は、何も言わない。
会場に戻ると、
二人の距離は、自然に離れた。
言葉を交わすこともなく、
それぞれの立場に戻る。
晩餐会は、
滞りなく終わった。
夜。
寝台に横になっても、
眠気はすぐには来なかった。
星空。
冷たい空気。
低く、落ち着いた声。
思い出すのは、
言葉よりも、
間だった。
胸の奥が、
少しだけ、ざわつく。
それは、
計算とは違う感覚だった。
翌日。
オサリアの使節団は、
城を後にする。
アリアは、離れた場所から、
その様子を眺めていた。
もう、姿は見えない。
「昨日のことなんだけど」
テオドールが、声をかけてくる。
「君が、一緒にいた人。
どこかで見たことがある気がする」
「第二皇子でしょう」
アリアは、即座に返す。
「それなら、当然です」
詮索する理由はない。
そういう口調。
「いや、そうじゃない」
テオドールは、食い下がる。
「……何か、変なんだ」
「もう、やめてください」
声が、少しだけ強くなる。
テオドールは、言葉を止めた。
「……すまない。
少し、熱くなった」
それでも、
引っかかりは消えない。
「信じてほしい」
アリアは、答えなかった。
そのまま、踵を返す。
(嫉妬、ね)
そう、片付けて。
いつもの部屋。
書類が積まれ、
窓から光が差し込んでいる。
「アリアさん」
クロエが、少し身を乗り出して言った。
「羨ましいです。
晩餐会に行けて」
「情報が早いわね」
アリアは、手を止めずに答える。
「聞いた話だと、
オサリアの皇子様と、
いい感じだったとか」
「ええ。
かなり、ね」
否定しない。
「クロエも、参加すればいいじゃない。
次は、推薦してあげる」
顔を上げる。
「良い相手を見つけて、
ちゃんとした生活を送りなさい」
「煌びやかな生活、ですか」
クロエは、少し考える。
「私は、アリアさんほどは思っていません」
「そう?」
「ただ……
白馬に乗った皇子様には、
ちょっと、憧れます」
アリアは、鼻で笑う。
「夢ね」
そして、淡々と続ける。
「生活の質は、
夢じゃ守れないわ」
クロエは、何も言わなかった。
否定も、同意もせず。
ただ、
アリアを見ていた。
――その頃。
馬車は、静かに進んでいた。
オサリアへ戻る道。
窓の外には、
見慣れた空が広がっている。
それでも、
昨夜のことが、
頭から離れなかった。
星の話をしたこと。
宝石の話。
「……宝石か」
小さく、呟く。
本当に、
星のことだと思った。
あの言葉が、
なぜか、引っかかっている。
机の引き出しに、
天球儀が並んでいる。
贈り物用のものではない。
自分用の、
研究道具だ。
指先で、
ひとつを回す。
「……」
理由は、はっきりしない。
ただ、
あの夜を、
形に残したいと思った。
それだけだった。




