表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/12

綺羅星の下で、我が星を探す

 晩餐会は、滞りなく進んでいた。


 形式ばった料理。

 決まりきった挨拶。

 笑顔と、社交辞令。


 アリアは、テオドールと会話をしている。


「こちらの料理は、香りが強いですね」


「オサリアの好みらしい。

 トキアスとは、少し違う」


 言葉は、自然に返している。

 相槌も、間も外していない。


 けれど、意識は別のところにあった。


 ――どうやって、話すか。


 それだけだ。


 視線は、何度も会場の中央へ向かう。

 目立たないように、

 それでも確かめるように。


 やがて、場が緩み始める。


 立食に移る合図。


 人が、少しずつ動き出す。

 グラスを手に、

 輪ができ、ほどける。


 タイミングを、測る。


 近づけそうで、近づけない。

 誰かが間に入る。


 遠目に、彼が見えた。


 ノクス先生と、話している。


 トキアス王立大学の副学長。

 学内でも、発言力のある人物だ。


(……あの人と)


 それだけで、評価が一段上がる。


 ノクスは、笑っている。

 堅い場では見せない、柔らかな表情。


 その隣で、彼も少しだけ肩の力を抜いていた。


 きっと、気心が知れているのだろう。

 今の立場を、深く問われない相手。


 ノクスも、分かっている。

 だから、余計なことは聞かない。


 会話が終わり、

 二人は自然に別れる。


 彼は、ひとりになる。


 人の輪から、少し外れた場所。

 居心地の悪さが、隠せていない。


 今だ。


 アリアは、グラスを置き、歩き出す。


「先ほどは」


 声をかけると、

 彼はすぐに気づいた。


「あの時の……」


 一瞬、表情が強張る。


「改めて、申し訳ありませんでした」


 律儀だ、とアリアは思う。


「お気になさらないでください。

 本当に、私の不注意でしたから」


 それだけで、十分だった。


 彼は、少しだけ安堵したように息を吐く。


 言葉を探すような、間。


 その沈黙が、悪くない。


「……こういう場は、少し苦手で」


 彼は、そう言って、会場を見回した。


「分かります」


 アリアは、静かに頷いた。


「このままでは、

 息が詰まりそうですね」


「……外に出た方が、

 少し楽かもしれません」


 誘いは、控えめだった。


 彼は、少し驚いたように目を瞬かせた。


「……ええ。ぜひ」


 アリアは、微笑む。


 声は、落ち着いている。


 けれど、胸の内では――

 小さく、拳を握った。


 二人は、会場を抜けた。


 扉が閉まると、

 音楽と話し声が、一気に遠ざかる。


 テオドールは、少し離れた位置にいた。

 迎える側として、

 それなりに役割がある。


 ふと、視線を向ける。


 アリアが、誰かと並んで歩いている。

 オサリアの第二皇子――

 そう見える人物と。


 追いかける理由は、ない。

 そう思い直し、足を止める。


 ただ、

 どこかで見たことのある顔だと、

 なぜか引っかかった。




 外に出ると、夜気が肌に触れた。


「……綺麗ですね」


 彼が言う。


 空には、星が広がっていた。


「今夜は、特に条件がいいんです。

 この季節は――」


 少し、言葉を選ぶような間。


「この辺りの星が、

 よく見える時期で」


 指先が、空をなぞる。


「例えば、あの星座。

 農作業の目安にもなっていて、

 あの位置に来る頃が、

 種を植える頃なんです」



「この辺りは、

 星が集まって見えるでしょう。

 花が開いたみたいだと、

 言う人もいるそうです」


 話しながら、

 彼は少しだけ楽しそうだった。


「……すみません」


 ふと、我に返ったように言う。


「面白くない話をしてしまいました」


「いいえ」


 アリアは、首を振る。


「とても、楽しかったです。

 こういう話を聞く機会は、あまりありませんから」


 本心だった。


 空を見上げ、

 無意識に、口をつく。


「……あれが全部、宝石だったら」


 小さな声。


「……え?」


 彼が、聞き返す。


「いえ」


 アリアは、すぐに言い直す。


「本当に、綺麗な星だなと思って。

 特に、今お話ししてくださった星座」


 彼は、少し照れたように笑った。


「そう言っていただけると、嬉しいです」


 しばらく、沈黙。


 悪くない時間だった。


「……そろそろ、戻らないといけませんね」


 アリアは、そう言って、立ち上がろうとする。


 その瞬間、

 足元がわずかに揺れた。


「――っ」


 気づいた時には、

 腕を取られていた。


 距離が、一気に縮まる。


 支え合う形で、

 一瞬、抱き合うようになる。


 近い。


 息遣いが、分かる。


「……失礼しました」


 彼が、慌てて距離を取る。


「いえ」


 アリアは、微笑む。


「助かりました」


 胸の内で、

 何かが、静かに動いた。


 計算だけではない。

 それを、認めてしまう。


 彼の方も、

 視線を逸らしながら、

 少しだけ落ち着かない。


 その様子が、

 なぜか嫌ではなかった。


「戻りましょうか」


「……ええ」


 星空を背に、

 二人は再び、扉へ向かう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ