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プロローグ

 盛り上がった木の根に足を取られ、よろけて転びそうになった。

そばにあったゴツゴツと節くれだった木の幹に手をついて、かろうじて体制を保った。

 鬱蒼と木が茂り、空はよく見えないが、まだ夕暮れには時間がありそうだ。

足下は隙間なく草が腰ほどにまで伸びて、獣道すらない。

方向すら判らなくなってから随分歩いた。

動かない脚を引きずりながら何とか前に進んでいるが、一体何処に向かっているのか。


 ガサリと草が揺れる、追っ手か?!重い腕を叱咤して、剣を構えるが、今襲われたらもうダメだろう。

半ば諦めにも似たため息を付きつつ、近くの木を背に音のしたあたりを睨む。


 ガサリと飛び出してきた白い影に、ピクリと背中が揺れる。

飛び出してきたのは、二本角の大きな角兎だ。

俺の腰辺りまでの大きさで、体の色は白く、長い耳の間に二本の短い角を持っている。

基本単独で行動する魔物だが、こちらから仕掛けなければ襲ってこない。

草の間から飛び出してきた角兎は、しばらく此方を見ていたが、出てきた方と反対の草叢に飛び込んで、すぐに見えなくなった。


 俺は背にした木に寄り掛かり、ほうと安堵の息を一つ付くと、動かない足を引きずり、何処へともなくまた歩き出す。


 荷物はとうにどこかで投げ捨ててしまったので、持っているのはもうこの剣だけだ。

疲れ過ぎてもはや空腹すら感じないが、喉の渇きは酷くなる一方だった。

暗くなる前に、とにかく水場を見つけたい。

そう思って、川の音でも聞こえないかと耳を澄ました。


 「…」「…」「…9、40っと」森の先少し明るく見える方から声が聞こえてきた。

(追っ手か?)声のするほうに、出来るだけ音を立てないよう気をつけて、そっと異動する。

どうやら森を抜けて開けた場所があるらしい。

「っ!」どうにか声を出さずにこらえた自分を褒めてやりたい。


 木の陰からそっと覗いて見ると、そこには驚くべき光景があった。





 「37、38、39、40っと。はい、すすんで進んで~。じゃあ次は…。」

ガサガサッ ドサッと大きな音がして、びっくりして振り返ったら広場の向こう、森の入り口の所に人が倒れていた。

 「大丈夫ですかっ」思わず叫んで駆け寄ると、そこにはボロボロの騎士風の服を着た、血だらけの男が一人倒れていた。

傍に座って、よく見ると、体中怪我だらけで、顔色は悪い。

かなり失血したと思われ、すでに意識がない。


 「はあ、どうするかなぁ、これ」ため息を付きつつ、風の魔法で浮かせて、家の中へ連れて行こうと、歩きかけて振り返り

「皆そのまま待っててよ!」と叫んで注意すると、ぴょんぴょんと跳ね回っていた角兎の団体がピタッと止まり、こちらを見て一斉にうなずいた。





 ゴリゴリゴリっと、何かをすり潰す音が聞こえる。

心地良い風が吹き抜け、頬をなでて行く。

美味しそうな匂いに意識が浮上していく。


見たことのない木で出来た天井を見ながらボオッとした意識の中で(さて一体ここは何処だろうか?)っと考えた所で、(敵は!)っと跳び起きようとして、体中の痛みと目眩でドサリと元に戻る。

頭がクラクラして思考がまとまらない。


しばらく待つとゆっくりと思考が戻ってきた。

目を開けてまわりを観察してみる。

俺はどうやら、柔らかいベッドの上にいるようだ。

傷は手当てされている。

痛みと目眩で体の自由は効かないが、拘束されてはいない。


部屋は丸太を組み上げて作ったログハウスっぽい造りの一室で窓にカーテンが揺れて、気持ちいい風が通り抜けている。

窓と反対にある木製のドアは少し開いていて、閉じ込められているわけではないようだ。


今は使われていない暖炉の上の飾り棚には薬草らしき物が干されている。

暖炉の前には天井から卵のような形の、人が入れそうなくらい大きな籠がぶら下がっている。


ベッドの横のサイドテーブルには奇妙な形のティーポットのような物が置いてあり、テーブルの横に俺の剣が立て掛けてある。


少しだけ開いたドアの向こうから、ゴリゴリゴリっと先ほどから聞こえる音がしている。


カランカランと少し低い鈴の音がなり「こんにちは」っと元気な子供の声が聞こえた。

「…の…。」「うん」「…、…て」会話はよく聞き取れないが、どうやら女性の声のようだ。

「ありがとうっ」と言う子供の声とともにカランカランっと又鈴の音がなる。


どうやら敵の手に落ちたわけではないようだと安心したからか、またゆっくりと思考は微睡みの中に溶けていった。


 


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