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第1章-24 虎の森  -ガンダーラ国スワンナヴァンナ-

*********** お知らせ **************

第一話の改稿を行いました。

尚、冒頭に衝撃シーン(残酷な描写)が含まれます。

あらかじめ、ご承知おきください。


ep.1 【改稿】第1章-1 清澄慧、自分探してきます

********************************




(本エピソードは前回からの続き)

インダス川の支流を渡り、危うく大ナマズに喰われそうになった慧。

更に森の中で、今度は虎に睨まれて、、








トラは、(けい)の眼の前に迫り、じっと眼を見据えたまま、ジリジリ近づいて来る。




にじり寄ってくるトラの鼻息が、慧の頬を生暖く通り過ぎていくかのように感じ、トラの持つ独特の獣臭が鼻にツンと来る。









(はい、終わりました)

(集中しろ!気を抜くな!睨み返せ!眼光で圧しろ!)









トラの目と慧の眼、その両者の間には見えない閃光が走っていた。

その閃光のぶつかり合う中心が、徐々に慧の方に近づいてきて、あと1ダヌスに迫ったとき、突然、トラの後ろの草むらの奥で悲鳴のような鳴き声がした。







―ギャギャギャッ!グルゥォルルルーン!―








眼の前のトラが、急に眼光を切って振り返ると同時に草むらの中にジャンプして入っていった。慧は気が抜けてヘナヘナとそこに座り込んだ。


すると、次の瞬間、さっきよりも大きな鳴き声で






―ギャギャーン!―



―フゥオッ ンッガールッ―






という悲鳴とも雄叫びとも聞こえる、トラの鳴く声がしてきた。




慧は、怖いもの見たさと、少し心配な気持ちになり、虎の獣臭が残る草むらの中へ、恐る恐る入っていった。













































































「なんだよ、三連発かい……今度は大蛇ってマジかよ」









































慧の眼の前の大きな樫の木、その太い枝から、頭が慧と同じか一回り大きいニシキヘビが垂れ下がっていた。

ヘビの体長は五ダヌス近くある。秋田犬ほどの大きさの子トラの首を、その口がしっかり咥えていた。


樫の枝葉のすき間から差し込む夕陽のわずかな光が、蛇の鱗に走る白と黒の網目模様を、ぬめるような赤黒さで浮かび上がらせていた。


さっき、慧と睨み合いをしていたトラはそのニシキヘビに飛びかかるが、絶妙な高さがあって手が届かない。





ヘビの方も、必死に尾で巻き付いた太い枝に戻ろうとするが、子供のトラが重すぎて、尻尾で巻き付いた枝まで持ち上がらないのだ。






(あぁ、そういう話ね)




慧は、母トラがニシキヘビに喰われそうな子トラを助ける場面に遭遇していることをようやく呑み込めた。






あたりを見回すと、左手の樫の根元、湿った落ち葉のあいだに、蛇の頭へ届きそうな、ちょうどいい長さの薪ザッポウが転がっていた。



小枝を振り払い、少し長めの木刀の握り具合になったその薪ザッポウを左手の小指と薬指でキュっと握る。すると、左脚が前に一歩、自然に出た。

そのまま、ニシキヘビとの迎撃間合いまで歩み寄り、スっと腰を沈めて青眼(せいがん)に構えていた。







「ハッ!」





っと気合を入れると同時に右足を一歩踏み出した。







―パァ~ン!―







薪は半分に折れて砕け飛び散り、慧の後ろでは別の大きな音がした。







―バサンッ!―











―キャオーキャオーキャオーン―




―フンッ ゴルルル~―










慧は、残心を味わっているようにそのまま動かなかった。



(後ろ!)







ヤナカに促され、ハッと我に返った慧は振り向くと、そこには慧の方を向いてオスワリしているトラの母子がいた。


母トラの眼は、先ほどまで慧を射抜いていたあの烈しさは息を潜め、子を取り戻した母の静かなぬくもりが滲み出ていた。









―ッフォグッ~―







そう言い残して、トラの母と子は森の奥へ消えていった。




--------------



あの構え、踏み込み、そして打ち込みの流れは、自分で考えて動いた覚えがなかった。

ただ身体だけが、ごく当たり前のように、その所作を知っていた。








(汝、要らざるを得ず)

(はぁ、なんですそれ?)







(修行の身、それ以外の物事にはかかわらぬことだ。

……されど、一つ聞こう)

(何でしょう?バンテ)





何故なにゆえに虎に助太刀を?隙を見て、逃避できたはず)

(そうかも知れません。でも俺、母トラに睨まれたとき「ああ、死んだな」って思ったんです。だから、子供のトラを助けたあとに喰われても一緒じゃないかって思えて)





(成程)




(然れど)


(……)


(是、我が身なり)





(おっとっととぉ~!

 まっことにタイヘン失礼しやした~!)







慧は、知らずのうちにトラのテリトリーに踏み込んでしまっていたらしい。


森を出て、インダス川支流の河岸に近い松の林まで戻って座った。そして、夜更けまで瞑想を続け、月が山の端に架かる夜半過ぎになってようやく横になった。





hṃ, ati(ふむ、)kkamma jīvit(生死の狭間で)añ ca maraṇañ ca m(慈愛の心を)ettācitta(保てる者が)ṃ dhāretuṃ samatthā(どれほど) janā nu kh(いよう)o?”





慧が深い眠りに着いたあと、ヤナカの心は起きてそう呟いていた。


しかし、今日一日の出来事は、この先に待つ凄惨な試練に比べれば、まだ取るに足らぬ前触れにすぎなかった。

その宿命(ニヤティ)の深みを、ヤナカはまだ知らなかった。




BGM

"Aik Alif | Noori & Saieen Zahoor "

挿絵(By みてみん)














【脚注】

◯ダヌス

dhanus(弓丈 / 牛車の軸長)

約1.8 m


◯ BGM

Saieen Zahoor は、パキスタン出身のパンジャブ系スーフィー音楽家。

2006年BBCワールドミュージックアワードにノミネート。

※現在のパキスタンは、古代インドのガンダーラ。


<利用例>

1. 最初に文章をエンドまで読み終える

2. 次に、BGM の QRコードを読み取り検索。または "(曲のタイトル)" をコピー、Youtube、Spotifyなどでコンテンツを検索

3. 曲を準備してもう一度最初から読む

4. BGM のところまで読んだら曲をプレイ

5. 続きの物語を読んでそのシーンの世界観を拡げる








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