第57話 本戦開始
「これにて、全ての予選が終了しましたぁぁぁぁ!!!」
「「「うおぉぉぉぉぉ!!!!」」」
コロッセオにて、試合を見ていたプレイヤーたちが一斉に声を張り上げた。その音で空気が揺れ、コロッセオそのものが揺れていると錯覚するほどだった。
「本戦は1on1で、トーナメント方式だよ」
シュカイはぶりっ子のようにウインクした。
長い間真面目に実況していたこともあり、会場にいる一部プレイヤーが声を張り上げた。
「「「うぉぉぉぉぉ!!!!」」」
(うわぁ、単純な人たちだなぁ。それにしても、予選を突破した人たちはみんな強かったなぁ。でも咲良に自慢するために、目指せ優勝だぁ!)
サキはぶりっ子しているシュカイに対して、声を張り上げているプレイヤーのことを単純と一蹴し、彼女は予選突破者の実力を考察していた。
(ベガさんって人は、確実に強いよなぁ。あとはラファエルさんとサタンさんも強い……)
サキとしては、まだまだ考察を続けたかったが、シュカイが本戦のルール説明を始めてしまったため、そっちに意識を戻した。
「じゃあ本戦のルールを説明するよ。まず初めに、基本的なルールは予選と同じだよ。そして追加ルールが一つ、それは会場に設置された舞台以外に身体が付いた時点で敗けになっちゃうから気を付けて!」
(なるほど、吹き飛ばされた時点でほぼ敗けってことかぁ……)
「では本戦第一試合の抽選を始めるよ!! 第一試合の出場者はこいつらだぁぁぁぁぁ!!!」
舞台中央に立つシュカイがモニターを指さした。
モニターに映るのは、サキの印象には一切残っていないクルトというプレイヤーだ。そして対戦相手として映るのは、赤い目と赤い髪をしたプレイヤー、名はサキと表示される。
(いきなり私かぁ、相手のことが分からないからこそ、油断しないようにしないと)
サキとクルトは舞台上に転移させられた。
「よぉ、無名の選手さんよォ、この光のクルト様には勝てねえからよォ、恥ずかしい思いをしたくなかったら、ギブアップでもしな」
「……そのイキった口調は恥ずかしくないんですか?」
サキの正論パンチが、クルトの心を大きく抉った。
彼は胸を押さえて、うずくまってしまうが、メンタルが強いのかすぐに立ち上がった。
「はははは恥ずかしくなんかないわい!!」
「あと、“光の”ってどこから来ているんですか?」
「もちろん【光魔法】から来ているに決まっているだろ!」
「光魔法……あー、【白魔法】の上位スキルかぁ、でもそれを誇りにしているのなら、私に勝てないんじゃないかな? まあ結局は本人の技量次第だと思うけどさぁ」
「なんだと!?」
クルトは食って掛かる。当然、サキの強がりに過ぎないだろうと思っているが、それでも食って掛からずにはいられない。そんな難儀な正確な持ち主だった。
「だって私、【神聖魔法】持っているし」
会場から声が消える。
刹那
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
今日一の声が沸き上がった。
その声は驚愕の声で揃っていた。
「ななななんと!! 無名プレイヤーであるサキ選手が、第三次スキルを持っていたぁぁぁぁ!!!!!」
【神聖魔法】は【白魔法】が進化した【光魔法】がさらに進化した第三次スキルと呼ばれる魔法であり、プレイヤーで所持している者は、ごく僅かだ。その1人が無名選手であるサキであることに、プレイヤーたちは声上げて驚いていた。
(そんなに驚くことかなぁ?)
当事者であるサキだけが分かっていなかった。
彼女自身も【神聖魔法】がレアなスキルであることは分かっているが、第三次スキルと呼ばれていて、大半のプレイヤーが持っていないスキルであるとは、思っても居ない。そしてサキのゲーム知識の大半を占める咲良もまた猛者であるため、サキが持つ知識はかなり偏っている。
そのため会場のプレイヤーたちが声を張り上げる程驚いている理由が分からなかった。
「どどどどうして無名のお前がそんなスキルを持っているんだよ!!」
「おいおい」
「マナー違反だろ」
「なんだよあいつ」
正直、大半のプレイヤーが、どうしてサキが第三次スキルを持っているのか知りたがっていたが、人の情報を聞くのはマナー違反であるという暗黙の了解がNLOにはあるため、会場中からクルトへの非難の声が上がっていた。
「うーんとねぇ、最初のスキル選択でランダムを選んだんだぁ!」
マナー違反のクルトの質問に対して、笑顔で答えたサキ。
彼女に対する会場の反応は、大きく分けて三種類あった。
「「「「普通に答えたぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」」」
「「「「そして可愛いぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」」」」
「「「「てかランダムだとぉぉぉぉ!!!!!!」」」」
1つはマナー違反に対してしっかりと答えたサキへの驚きの声、1つはサキの浮かべた笑みへの野太い声、1つはランダムという運ゲーを選んだサキへの驚愕の声だ。
「お、お、おい、なんでランダムを選んでやがる!」
「えっ、だってそっちの方が面白くない?」
「それだと、戦えない可能性もあるだろ!」
「えっ? 普通にスキルなしでも刀で戦えるよ?」
「はぁぁぁぁ!? 無理に決まっているだろ! 普通に剣道やっていた人でも、スキルがなければラビット相手にも勝てないんだぞ!!」
それは性質の違いが原因である。
現代剣道は心身を鍛えるための武道であり、ルール内で動くものだ。そしてサキの剣術の基盤である春風流剣術は、対人戦と対動物、なんでもござれの自由な剣術。つまり実戦を想定しているものと、そうでないものの差がこのゲームで顕著に現れている。
「私剣道なんてやってないよ?」
「じゃあなんで戦えるんだよ!!」
「私がとある道場の師範をやっているからじゃない?」
(えっ? 春風流使っていたよねあの子……春風流の師範と言ったら、隠れ大富豪として有名な春風美咲なんじゃ?)
サキの言葉を観客席で聞いていたクレハは、サキの存在に対する考察を、頭をフル回転させて考えていた。
クレハに身元がバレていたことなど露知らず、サキはクルトとの戦闘を始めようとしていた。
「両者、準備は良さそうなので、試合開始を宣言しまーす!!」
シュカイが空気を読んで、試合を始めようとした。
「では試合開始!!!」
シュカイのその言葉と同時に、サキは駆け出した。
走りながら抜刀を行い、クルトの動きを観察し続ける。
「こ、言葉だけだろ!!」
クルトは焦りながら、西洋剣を抜いた。
そしてスキル補正による直線的な動きで、迫りくるサキへと剣を横薙ぎに振るった。
「やっぱりスキルだけだと、機械的な動きになるんだね」
サキは剣が触れる寸前に止まる。そして剣が振り抜かれたと同時に、地面を強く踏み込み、一気に接近した。
「ちょっと拍子抜けだね。“春風流・逆三日月”」
サキは刀を下から上へと振り上げ、クルトの剣を絡め捕りながら舞台の外へと弾き飛ばした。
近接武器を失ったクルトは、魔法中心の戦略へと移行するために、サキから距離を取った。
「クソがッ! だが俺は剣だけじゃねぇ! “光之槍”」
クルトは左の掌をサキへと向け、光の槍を創り出した。そして放出する。放出された光の槍は、サキへと一直線に進んで行く。
「魔法に頼ったらダメだよ。まあ私の魔法も見せてあげる。“聖炎”」
サキは刀を聖なる炎に纏わせる。
「特別に私の奥義を見せてあげる。“【闇をも斬り裂く神の一撃】春風流奥義・月読命”」
刀が纏う聖なる炎は、酒呑童子戦の時よりも火力が増しており、炎が放つ耀きはより強くなっている。そしてその刃は鋭く、速い一撃になっていた。
「だが刀に炎を纏ったところで、距離を取ればいいだけだ!」
「確かにそうだね。それは距離が取れたらの話だけど」
サキは軽く膝を曲げる。
クルトは瞬きをした。その一瞬の暗転の間にサキが目の前へと移動していた。
移動の勢いのまま振り抜かれた刃は、クルトの身体を捉え、舞台外へと吹き飛ばした。
クルトは何とか体勢を整えようとするが、吹き飛ぶ勢いは凄まじく、体勢を立て直すことは叶わず、舞台外に落下してしまった。
「勝者はサキ!!」
「「うぉぉぉぉぉ!!!」」
「攻略組の“光のクルト”を倒してみせたのは、無名のプレイヤーサキだぁぁぁ!」
未だ無名のプレイヤーという立ち位置のサキが勝利したことに、会場が揺れる程沸き上がった。
(そんなにすごい人だったんだぁ……でも“不死鳥のクレハ”って人の方が圧倒的に強かったんだよなぁ)
「第二試合の抽選を始めるよ!」
シュカイが第二試合の抽選を宣言すると、舞台が新品のようにキレイになった。
「第二試合の出場者はこいつらだぁぁぁ!!」
電光掲示板に出た名前は――
tips
・クルト
予選第五試合を突破したプレイヤー。月のカグヤ教の教徒。




