第56話 予選4
「予選第七試合は、砂漠だぁぁぁぁ! スタート地点はランダムです。スタートまで5! 4! 3! 2! 1! 試合開始だぁぁぁぁ!!」
冷たい会場は灼熱へと変わる。
少し動くだけで汗が溢れ、照り付ける日差しは体力を奪う。そんな舞台だ。
舞台に立つとあるプレイヤーがモニターに映る。
「……『月のカグヤ教』のために、頑張るとしますか」
そのプレイヤーは全身黒ずくめで、顔も隠している。
華奢な体格に、ソプラノボイスと可愛らしさを感じられるが、腰に差した巨大な槍が違和感を齎している。
そんなプレイヤーの名はベガと言う。
「では参ります」
ベガは砂漠を歩き始めた。
ゲーム内であろうと、華奢な見た目から侮るバカなプレイヤーは数多くいる。
「おい、あいつ1人じゃねえか」
「一番弱そうだから、最初にやっちまおうぜ」
プレイヤーたちは結託して、弱小プレイヤーから消そうと考えていた。その標的に選ばれたのがベガであり、プレイヤーたちは己の武器を構えて、一斉に襲い掛かった。
「はぁ、やはり人とは愚かで、かぐや様の救いが必要だ」
ベガは月のカグヤ教“教祖”の側近であり、一番最初に教徒となった敬虔な教徒だ。
そんなベガは『月のカグヤ教』の光であるかぐやに代わって、闇を一手に引き受ける影。
その立場はベガが持つ魔法にも顕著に現れていた。
「“影槍”」
ベガは己の影から数多の槍を生成する。
影でできた真っ黒な槍は、舐め掛かって来たプレイヤーたちを串刺しにし、一撃でポリゴンへと変えた。
それでも遠距離からの魔法は掻き消せていない。
「取った!」
離れたところにいるプレイヤーたちがガッツポーズを見せる。
「……愚か過ぎて、哀れとしか言えない。かぐや様の代弁者となって救済してあげよう。“影斬”」
槍となっていた影は、一瞬にして刃へと変化する。
影の刃は影本来の性質を無視し、ベガの足元を離れて飛んでいく。迫りくる魔法を掻き消し、その勢いを維持したままプレイヤーへと着弾した。
影の刃はプレイヤーの身体を切り裂き、これまた一撃でポリゴンへと変える。
「ふぅ、もっと手応えのある相手であれば、もう少し力を見せられるが、本戦まで温存することになるだろうな」
ベガの予想通り、その後戦闘が起こることなく、シュカイによって試合の終了を知らされてしまった。
「予選第七試合の突破者が決まったぁぁぁぁ!! プレイヤーベガの大量キルによって、一瞬にして試合が終了してしまったぁぁぁ!!!」
「「「うぉぉぉぉぉ!!!」」」
これまでの予選でボルテージが上がり切った会場の歓声は、大きく空気を揺らす。
そして盛り上がり予選も最終試合を迎える。
「予選最終試合は、廃村だぁぁぁぁ!! スタート地点はランダムです。スタートまで5! 4! 3! 2! 1! 試合開始だぁぁぁ!」
舞台に広がるのは、倒壊寸前の家屋、雑草が伸びきった畑、そこら中に転がる生活雑貨が廃村であることを表現している。
そんな廃村においてある廃材に腰を掛けているプレイヤーがモニターに映る。そのプレイヤーは鼻筋が通った美形の顔、190センチ近い長身にスラッとした身体。イケメンという言葉が最適な姿をしている。
「誰も来ないな」
「イケメン憎し!!」
憎悪にまみれたプレイヤーが襲い掛かる。
イケメンプレイヤーは冷静に、襲い掛かって来たプレイヤーに対して掌を向ける。掌で雷魔法が練り上げられる。
「“雷球”」
【雷魔法】の中で最も簡単な魔法、“雷球”を使用した。
憎悪に支配されたプレイヤーは、雷のボールを避けることができず、身体に直撃してしまう。
雷によって全身に痺れが走り、その場で倒れてしまう。
「憎まれるような覚えはないんだが、もし無意識にしていたのであれば謝ろう」
そのプレイヤーは見た目だけでなく、性格までイケメンだった。
しかし憎悪のプレイヤーは痺れで返事をすることができず、イケメンプレイヤーは首を傾げながらトドメを刺した。
「返事がないってことは、無差別に怒っていたのかい?」
見た目イケメン、性格イケメン、若干の天然さがあり。
そんなイケメンプレイヤーをモニターで見ていた観客たちは、頬を赤く染めてぼーっとしていた。
「誰か来るまで、休憩していようか」
イケメンプレイヤーは頭の後ろで手を組んで、廃材の上で眠りについた。そんな一挙手一投足全てが様になっており、観客の心を掴んで離さなかった。
イケメンプレイヤーだけがモニターに映り続け、予選最終試合はひっそりと終わった。
「あー、予選最終試合終了です。えー、予選突破者はおめでとうございます」
司会であるシュカイもイケメンプレイヤーに気を取られていたようで、試合が終了したことに対する感想は随分とあっさりとしていた。
イケメンプレイヤーのプレイヤーネームは『ペテル』です。




