第55話 予選3
「予選第五試合は山岳だぁぁぁ! スタート地点はランダムです。スタートまで5! 4! 3! 2! 1! 試合開始だぁぁぁぁ!!」
試合開始と共にモニターに映ったのは、140センチほどの華奢な体格な女性だ。
女性は着物を身に纏い、腰には武器と思われる2本の鉄扇が差してある。
「……月は満ちる」
彼女は『月のカグヤ教』という宗教団体の教祖であり、ゲーム内でも本名の『かぐや』を名乗っている。
『月のカグヤ教』は日本における最大宗派であり、その教義の元となったのは、仏教とされているが、仏教勢力の大半を『月のカグヤ教』が吸収したため、その歴史が事実なのかは分かっていない。
『月のカグヤ教』の台頭で、仏教徒が大きく数を減らしているため、日本における仏教徒の数は、キリスト教徒やイスラム教徒に劣っている。
そんなかぐやが出場している第五試合は“カオス”の一言で纏められる。
まず参加している月のカグヤ教の信者たちが、相打ち覚悟で信者以外のプレイヤーに特攻していき、そして生き残ったプレイヤーが信者だけになると、かぐやに首を差し出して、キルしてもらうことで、第五試合は終わった。
かぐやは一切戦うことなく、予選を突破してみせた。
「ななななんと!!!! この第五試合は組織的な行動で勝利してみせた!!!!」
(私はこのゲーム内で月のカグヤ教“教祖”として、月のカグヤ教を世界に布教するためにも、この大会で優勝しなくては……)
かぐやは無表情のまま、舞台から姿を消した。
そして全てのプレイヤーが舞台から消えると、シュカイが次の試合の合図を始める。
「予選第六試合は、氷山だぁぁぁぁ! スタート地点はランダムです。スタートまで5! 4! 3! 2! 1! 試合開始だぁぁぁぁ!!」
舞台が氷山へと変わる。
息を吐けば白くなり、身体は冷えて動きが鈍くなる。
そんな氷の舞台中央に立つのは、2名のプレイヤー。
一方は、神官が着るような祭服に身を包んでいながら、腰には物騒なレイピアが差してある。そのプレイヤーの名前はラファエル、上級職である【大司祭】に就いているトッププレイヤーだ。
一方は、防御なんて言葉を知らないかの如く、防御力の低そうな派手な服で身を包み、手にはガントレットを付けている。そのプレイヤーの名前はサタン、NLOの前身となったNewWorldOnline最後のイベントにて、ラファエルと優勝を争った男だ。
そんな優勝争いをしていた2人だが、咲良改めリーブが優勝を掻っ攫っていったため、2人の決着はNLOへと持ち越しになった。
「そろそろ始めるか」
「……サタンとやるには少し早い気もするが、お前を前にして退く選択はないな」
2人の間には、友達と話すような空気が流れていたが、一転して殺伐とした空気が流れる。
先に仕掛けたのはラファエルだった。
「“光之槍”」
ラファエルは右手をサタンに向ける。すると掌から光が溢れ出し、その光が槍状となって、サタンへと射出された。
「俺も行くかぁ! “拳覇”」
サタンは槍が迫っているにも拘らず、余裕そうに拳を突き出した。
その拳は赤いオーラを纏っており、そのオーラが光之槍に触れると、光之槍は跡形もなく消えた。
「小手調べは止めようぜ、ラファエル!!」
「……それもそうだな。では始めよう。【精霊武装】」
ラファエルがスキルを使用すると、何処からともなく光属性の精霊たちが集まって来た。
その精霊たちは、ラファエルが着ている祭服の上からまとわりつくようにくっ付くと、祭服と同じ模様に変化し、まるで精霊の鎧を着ているような様相となった。
「精霊か。好きだねぇ、精霊」
「文句あるか?」
「いいや、好きな物を使い続けるのは良いことだ。俺もそうだからな【狂化】!」
サタンは全身を赤黒いオーラで覆う。そして瞳は真っ赤に染まっていた。
通常【狂化】を使った者の瞳からは、相手に対する殺気しか読み取ることができないが、現在の彼の瞳からはライバルを前にしたワクワク感が感じ取れた。
「行くぜ!!」
サタンは地面を蹴り、ラファエルの下へと跳躍した。
爆発的な加速によって発生した衝撃は、奇襲を仕掛けようとしていた弱小プレイヤーたちを問答無用に吹き飛ばした。
「……来い」
ラファエルは腰のレイピアを抜かずに、魔法を使う構えを取った。
そんなことは気にせず、サタンは拳を振り抜いた。
「相変わらずの、脳筋っぷりだ」
ラファエルは突き出された拳のエネルギーを外に流した。
拳が地面に着弾すると、氷山は大きく抉れていた。
「ふっ、やっぱり良い技術だ!!」
攻撃を受け流されたにも拘らず、サタンは笑っていた。
「“光之爆”」
ラファエルは容赦なく魔法をお見舞いする。
地面を殴りつけたことによって、がら空きになっているサタンの脇腹へと、光の爆弾を投げつけた。
爆発によってサタンは吹き飛ぶ。吹き飛びはしたが、一瞬にして体勢を立て直し、追撃に備えた。しかしラファエルは追撃を行おうとはしていなかった。
「あぶねぇな」
「相変わらず単純な攻撃だ、サタン」
「何を!」
ラファエルの言葉通り、単純なサタンは安い挑発に乗り、ラファエルの下へと一気に跳躍した。
「だからそういう所だ」
ラファエルは挑発に乗てきたサタンを見て、ため息をつく。
そして冷静に反応して見せる。
「一撃で終わらせてやる。“精霊魔法:暴雷神之一撃”」
ラファエルはレイピアを突き上げた。
彼の号令に従い、雷属性の精霊たちがレイピアの切先に集まっていく。精霊たちは雷雲を創り出し、ゴロゴロと音を鳴らして威嚇する。その音を子供が聞けば、たちまち泣き出してしまうほどの威圧感がある。
「受けて立ってやるよ!! 【憤怒】!!」
【憤怒】。
彼もまた、スキル選択でランダムを選んだ民であり、この世界で最強クラスのスキルである【憤怒】を手に入れていた。
【憤怒】は大罪系と呼ばれ、神代に反映した悪魔の力を模したスキルの一つだ。その力は怒りの感情に比例して、全てのステータスを上昇させる。
「大罪か……しかしお前の力では俺を倒すことはできない」
サタンは右腕に憤怒の力を集中させ、拳を振りかぶった。
その攻撃に対して、ラファエルは切先に集めた精霊たちに命令し、レイピアに雷を落とした。
雷を受け止めたレイピアは、雷によって雷神トールが持つミョルニルのようなハンマーとなり、サタンへと振り抜いた。
「これで終わりだァ!!」
「俺の勝ちだ」
サタンの拳とラファエルの雷を纏いしハンマーがぶつかろうとした瞬間、「試合終了ぉぉぉ!!」とシュカイの声が聞こえて来たかと思うと、2人の攻撃は霧散していった。
「終わりか、勝敗は本戦に持ち越しだな」
ラファエルはレイピアを仕舞いながら、冷静に言う。
しかし短気なサタンは「納得できねぇぇぇぇぇぇ!!」と試合の終了で沸いている会場の誰よりも大きな声で叫んでいた。
「ふっ、やはりお前は変わらず短気だな」
「なんだとぉぉ!!」
「その怒りは本戦でぶつければいい」
「そうか、それもそうだな!」
何度もサタンと戦ってきたラファエルは、誰よりもサタンのことを理解していたため、うるさく騒いでいたサタンを一瞬で黙らせてみせた。
「ふっ、単純だ」
しかし空気が読めないため、度々鎮火しかけている火に油を注いでしまっていた。
「なんだとぉぉぉ!!!!!」
この物語はフィクションであり、登場する人物名、団体名は実在のものとは関係ありません。




