第54話 予選2
舞台上に広がる森林。
モニターが映しているプレイヤーは、設定できる最大値まで大きくした筋肉、全身から漂う王者の風格が、他のプレイヤーを近寄せていなかった。
(俺の名前は田口政宗。この名を聞いて、ピンとくる人もいるだろうな。なぜなら俺は関東最大勢力を誇る田口組“組長”の息子なのだからな。でもヤクザなんて面倒くさいことはしたくなかったから、無難に教師になってみた。それはもう、親父からの猛反発を受けたよね。でもまぁ、比較的まともな価値観を持っているお袋が、説得してくれたから、教師になれたんだが……私立の高校教師も簡単なことばかりじゃなく、ストレス発散も兼ねてNLOを始めたんだ)
強面の顔面か、纏う風格か、何らかの理由によってプレイヤーが近寄って来てくれないため、暇すぎて、心の中で自分語りをして、時間を潰していた。
(最初はストレス発散のためにNLOを始めたんだが、これがもう、楽しすぎて堪らないんだ。休日しかやっていないんだが、運よくトッププレイヤーになれたんだ。これがゲームが楽しくなった理由だと思う)
木々が風に揺られて鳴る、心地よい森のざわめきが、正宗の教師として溜まったストレスを解消してくれる。
(そろそろNLO内の話をしないとキリがないな。第1回イベントが始まった訳なんだが、観客席で見たプレイヤーなんだが、どこかで見たことがあるような顔だったんだ……まあ気のせいだと思うことにした。しかしそのプレイヤーの試合を見て、驚愕したんだよ、『圧倒的だ』ってな)
周囲では剣のぶつかり合い、魔法合戦の音が響き渡っているが、相変わらず彼の下は森のざわめきしか聞こえない。
(ゲーム内の名前を言っていなかったな、俺は《《クリムゾン》》、“破壊のクリムゾン”と呼ばれて、NLO内ではそこそこ有名だ)
するとクリムゾンは頭を抱えてしゃがみ込む。
「あぁぁぁぁ!!! 恥ずかしいぃぃ! 何でこんな年になって、中二病みたいな名前で呼ばれるんだよォ!! 確かに子供のころは“破壊”みたいな言葉に惹かれていた時期もあったが、いまはもう、黒歴史なんだよォ!! はぁまあ自業自得と言ってしまえば、それで終わりなんだけどさ。だって色々破壊しまくっていたからな。でもさぁ、二つ名が破壊って……もういいや諦めよ」
クリムゾンは再び立ち上がり、周りを見回す。
(てか暇すぎる! 人は寄って来ないし、こっちから探しに行っても出てこん! なぜなんだ!!)
彼にプレイヤーが近寄って来ないのは、とあるクエストをクリアしたことにより、獲得した称号とスキルによるものだ。
纏っている風格もその効果の一部だ。
「予選突破者が決まったぁぁぁ!! なんとこの試合、“破壊のクリムゾン”は一切の実力を見せることなく、突破して見せたぁぁぁ!!」
(本当に何もしていないし、全く楽しくなかったんだが!?)
「流石クリムゾンと言ったところでしょうか。実力を知らせることなく、予選を突破できる素の力を持っていると言うことでしょう」
(どうして何もしていないのに、こんなに褒められるんだよォ! いやマジで、今回の試合は暇すぎたんだが……はぁ、本戦からは楽しめると良いな……)
クリムゾン他2名のプレイヤーが舞台から強制転移をさせられた。
「予選第四試合を始めます!」
舞台から森林がキレイさっぱり消える。
「試合会場は……」
舞台から強い光が放たれる。
「平原だぁぁぁぁ!! スタート視点はランダムです。スタートまで5! 4! 3! 2! 1! 試合開始だぁぁぁぁ!」
光が消えると、舞台には広大な平原が広がっていた。
隠れる場所などほぼなく、遮蔽物はポツポツと生える木々のみ。
「ふぅ、気配を消してっと」
そう言ってとあるプレイヤーの姿が消える。
そのプレイヤーの姿が消えたのではなく、気配を消したことによって認識できなくなっただけだ。
(僕は日本唯一の忍び一家、服部家の次期当主として、この大会で名を残さないと)
彼は服部善蔵。プレイヤーネームはハンゾウ、服部家勃興の祖である服部半蔵から取った名前だ。
法整備によって忍者修業が難しくなってしまった現代でも修行ができると聞いて、NLOを始めたゲームニワカのプレイヤーだが、忍びとしての天性の才が、彼をトッププレイヤーまで押し上げていた。
彼はドンドンとプレイヤーを暗殺していく。
本来、職業で忍者を選択しようとしていたが、選べる職業にはなかったため、仕方なく【暗殺者】という職業を選んでいた。
「おい!」
「あれ? 僕に気付いているの?」
「当たり前だ! 俺の名はサンダユウ、お前と同じで忍者の末裔だ!」
「サンダユウ? 忍者? 名前的に百地家の血を引いているんだろうけど、既に忍者の一族は、僕ら服部一族しか残っていないんじゃないの?」
「俺ら百地一族はなぁ! 伊賀の隠れ里から服部半蔵に追い出されて、急襲に逃げたんだ。だから俺ら一族は衰退していった! 服部家の末裔であるお前を倒して、先祖の恨みを晴らす!!」
「そんな歴史があったのかぁ……可哀そうには思うけど、僕も負けるわけにはいかないんでね、抵抗させてもらうよ」
2人の気配が消える。
忍者の末裔である2人は、忍者の技術で決着を付けようとしていた。
しかし因縁に決着が付く事はなかった。2人が刃をぶつけ合おうとした瞬間、連続して銃声が鳴った。その1秒後に両者は頭部を銃弾に撃ち抜かれ、一撃でポリゴンへと変わっていった。
「えっ?」
「えっ?」
当事者である2人は、何が起きたのか理解できていなかった。
2人が立っていたところから遥か遠く、舞台ギリギリの端っこでうつぶせになっている少女の姿が、モニターに映る。
「ふぅ、確かあの人は最前線にいた人だよね。早めにキルできて良かったぁ。殺った人数的にもう少しで終わると思うけど、一応移動しておこうかな」
少女がそう呟いた瞬間、シュカイの声が響き渡る。
「予選第四試合の突破者が決まったぁぁぁぁぁ!! なんと今回の予選でキルを行ったプレイヤーは3名しかおらず、その内の2名もキルされたため、予選突破者でキルを行ったのは、1名しかいなぁい!!」
「「「うおぉぉぉぉ!!!!!」」」
会場が割れんばかりの歓声があがる。
(ふぅ、やっぱりあの2名は強かったんだぁ……戦闘に集中していなかったら、不意を突けなかっただろうから、あの2人が戦っていて良かったよ)
控室。
そこにはハンゾウとサンダユウの姿があった。
「おい、服部!」
「なんだ百地!」
2人の間には険悪な空気が流れる。
「この勝負はお預けだ!」
「そうだな、僕もこんな終わり方嫌だからね」
「次こそ、決着を付けてやるから、覚えておけよ!!」
「こっちこそ、服部家の力を見せてやる!!」
2人は反対の道へと進んで行く。
この時、2人の次期当主はライバルを知り、相手を超えて最強の忍びになるための努力を始めた。
ヤーさんとクリムゾンは別人で、サキは偶々強面の男性プレイヤーに挟まれています。
ハンゾウとサンダユウについて、仰々しく書きましたが、この大会が終われば、暫く登場はないです。




