第53話 予選1
予選第二試合に出場するサキは、舞台裏の待機室で待っていた。
そこに設置してあるモニターには、舞台の中央でマイクを握るシュカイの姿が映っていた。
「予選第二試合の舞台は……市街地だァァァァァ!!!!」
(市街地かぁ、でもどうやってコロッセオの中に市街地なんて作っているんだろう?)
『それは考えたらいけないことだよ』
(うっ、直接脳内に!?)
モニターに映る舞台が、市街地へと変形していく。
サキはそのことに対して疑問を抱いていたが、ゲームの神様によるメタ読み禁止令によって、舞台の変化について疑問を抱くのを止めた。
「スタート地点はランダムです! スタートまで5!」
シュカイのカウントダウンに合わせて、会場もカウントダウンを始める。
「4! 3!」
数字が小さくなるにつれて、会場のボルテージが上がっていく。
「2! 1!」
会場のボルテージは最高潮に至る。
「スタート!!!」
サキは眩い光に包まれ、目を閉じてしまう。
再び瞼を開けた時には、そこは中世建築の建物が沢山建っている市街地に移動していた。
「生き残るだけで、予選を突破できるらしいけど、戦わずに行くのはつまらないよね!」
サキはプレイヤーを探すために駆け出した。
数分の間、プレイヤーを発見することができなかったが、大き目の建物を曲がった時、魔法使いらしきプレイヤーの背中を発見した。
「ねえ」
サキは背中を取っていたのにも拘らず、奇襲を仕掛けずに声を掛けた。
彼女は予選を突破したわけではなく、戦闘を楽しみに来ているため、奇襲を仕掛けるのはつまらないと、声を掛けて公平な戦いを挑んだ。
「えっ」
その女性プレイヤーは、声を掛けられると思っていなかったのか、驚いて可愛い声を出していた。
しかし取り繕うように、咳ばらいをしてから、カッコいい低音ボイスで話し始めた。
「何者だ?」
「私は春風流のサキだよ」
(春風流と言ったら、全国に道場を展開している超有名流派じゃん! 私で勝てるかなぁ?)
サキの目の前に立つ女性プレイヤー。
彼女はNLO世界の攻略組に属されるトッププレイヤーの1人。
「私はクレハだ」
クレハと名乗った女性の赤い髪の毛と瞳はサキとお揃いの赤色だが、全ての装備も赤で固めている真っ赤な彼女は、“不死鳥のクレハ”という二つ名で有名なプレイヤーだ。
「敵を前にしたのであれば、戦うしかないだろう【炎化】!」
クレハはスキルを発動させた。
【炎化】スキルを発動させると、彼女の身体から炎が噴き出していく。炎の出力が増していくにつれて、身体の境目がぼやけていき、やがて彼女の身体が炎そのものとなった。
「おー! 凄いですね!」
目の前で炎そのものとなっているクレハを見て、サキは眼を輝かせて叫んだ。
「そうだろ! これはな、赤魔法の上位スキルである炎魔法と――はっ(危なかったぁ、情報屋にも隠しているスキルの獲得方法を話すところだったよぉ。もしかしてそういう作戦なのかなぁ?)」
サキに乗せられて、スキルの詳細について話しそうになったが、スキルというのは価値があるため、容易に話すべきではないことを思い出し、ギリギリ踏みとどまることができた。
「ふぅ、では始めようか」
「はい、始めましょう!」
2人の間に流れる空気が張り詰める。
そして先に動きを見せたのは、クレハだった。
「“フレイムバーン”!」
クレハが纏う炎の勢いが増す。そして纏った炎と共にサキへと突撃する。彼女が持つ熱で、まだ距離があるにも拘らず、サキの額には汗が滲んでいた。
「“春風流・一閃”」
その攻撃を受け止めるため、サキは刀を横向きに振り抜いた。
2人の攻撃はぶつかり合い、周囲のプレイヤーを吹き飛ばすほどの衝撃波を発生させる。
両者は相手の力を確認したところで、一度距離を取った。
「やるね」
「貴女もね(うわぁ、危なかったよぉ。【炎化】を使っていたから、耐えられたけど、全くと言って良いほど剣筋が見えなかった、春風流ってこんなにすごかったの)」
心の中で弱音を吐くクレハだが、そんな思いとは相反して、身体から発せられる炎の火力は増していた。
「今度はこっちから行くよ。“春風流・龍牙”」
その場でサキは刀を振り下ろす。当然、刃がクレハへ届くことはなかったが、龍の牙のような斬撃が射出された。
現実世界では刀を素早く振り下ろした際の残像が、斬撃に見えるだけの技だったが、この世界では“聖炎”の力によって本当に斬撃を飛ばしていた。
「“フレイムウォール”」
迫りくる炎の斬撃に対し、クレハは炎の火力を意図的に上げ、前方に壁を創り出す。
斬撃は同属性の壁に掻き消されるかと思われたが、フレイムウォールを斬り裂き、クレハの炎の身体を斬り裂く。その攻撃は致命傷とまではいかなかったが、大きなダメージを与えることとなった。
「くっ――っ」
クレハはダメージを受けた瞬間、足元がおぼつかなくなり、尻もちをついてしまう。
原因を解明して、立ち上がろうとしたが、既にサキが目の前に立っていた。
「私の勝ちだね!」
と言ってサキは刀を振り下ろした。
『なんと! 予選でここまで見ごたえのある戦いが起こるとは、誰が予想したでしょうか!!』
実況を務めるシュカイが叫んだ。
因果関係は不明だが、その叫びのすぐ後に、大量のプレイヤーたちがサキの下へと集まり出す。
「なんか人がいっぱい来た!?」
「あいつが不死鳥クレハを殺ったプレイヤーだァ!! みんな殺っちまえェ!!」
クレハは男性プレイヤーからの人気が高く、彼女をキルしたサキは、多くの男性プレイヤーから恨みを買ってしまっていた。
「いっぱい居ても、統制の取れていない烏合の衆なんて、脅威じゃないよ。“春風流・龍牙”」
サキは迫りくるプレイヤーに対し、クレハに放った斬撃を再び放った。
炎の斬撃は、サキを襲わんとする男性プレイヤー50人の内、13人のプレイヤーを一撃でキルすることになった。
「ば、化け物だぁぁぁ!!!!」
1人の恐怖が周りのプレイヤーにも伝染し、敗走した農兵が如く、背中を向けて無秩序に逃げ出していく。
背中を向けた相手を逃がすほど、サキは優しくない。
「化け物だなんて、全く酷いこと言うなぁ。逃がさないよ。“春風流・龍砲”」
“龍砲”、相手に突撃しながら、抜刀と共に斬撃を放つ技。
この技を生み出した春風龍之介は己の技量のみで、一度の居合で数十人を斬っていたが、サキはまだまだ未熟なため、ゲーム内のスキルのおかげで使用することができる技だ。
彼女は一度納刀し、神速の抜刀術を披露した。炎を纏った刃が、背中を向けたプレイヤーたちを襲う。
目にも留まらぬ速さで振りぬかれた刃は、背中を向けるプレイヤーたちに二度、三度と斬撃を入れ、ポリゴンへと変えた。
「な、な、なんとォ!!! 予選突破者がもう決まったー!! そして最多キルを行ってみせたのは、無名のプレイヤーだァ!!」
「「「うおぉぉぉ!!!!!」」」
シュカイの実況に、会場のプレイヤーたちが沸いた。
「ふぅ、次は予選第三試合を始めます」
予選突破を果たしたサキは、元居た席に戻ってきた。
しかし隣にいたヤーさんの姿はなくなっていた。
(いないってことは、これから試合ってことかな? 知り合いになったし、頑張って欲しいなぁ)
「予選第三試合の舞台は……森林だァァァァ!!!」
シュカイが叫ぶ。
「スタート地点はランダムです! スタートまで5! 4! 3! 2! 1! スタート!!!」
サキの名前は“北の森”突破者として知れ渡っていますが、名前と姿が一致している者は少ないため、無名選手と評されています




