第44話 王都
眩い光と共に姿を現したモンスターは、つるりとした丸っこくて、ゆらゆらと揺れている水色がかった半透明の流体ボディ。その見た目はスライムそっくりだが、体躯が規格外に大きい。
「あれがエリアボスのヒュージスライムかぁ――来るよ!」
「はい!」
「きゅう!」
ヒュージスライムは身体の一部を触手として伸ばし、サキたちへと攻撃を仕掛ける。
触手による横薙ぎが放たれた。その攻撃速度は、サキたちの想像を遥かに超えるものだったが、想像を超えるといっても常識の範疇なため、その場でジャンプすることで攻撃を避けた。
「行くよ!」
サキたちは着地すると同時に駆け出す。
走る彼女たちを拒むように、触手が向かってくる。正面から突き刺そうとしてくる触手に対して、彼女たちは触れるギリギリで避けることで、次撃までの時間を稼ぐ。
彼女たちが時間を稼いだお陰で、3度攻撃を避けただけで、ヒュージスライムの下まで辿り着いた。
「“春風流・一閃”」
「“アクアボール”」
「きゅう!」
サキの斬撃、アリウムの魔法、カグヤの飛び蹴りが炸裂する。しかしぽよぽよしている流体ボディを持つヒュージスライムに対して、サキの斬撃とカグヤの飛び蹴りでは大したダメージを与えることができなかった。唯一アリウムの魔法だけはダメージを与えていたが、それもヒュージスライムの膨大な体力からすれば微量なダメージでしかない。
そして近付いたことにより、触手による猛攻を受けることになる。
「――っ反撃の隙が無い」
四方八方から鞭のように振るわれる触手を捌くことで手一杯になってしまい、反撃に移ることができずにいた。
サキはうねる触手を斬り裂いていき、アリウムは霊体スキルによって物理攻撃が当たることはないが、念のため避け、カグヤは走り回りながら、どうしても避けられない触手だけを蹴りで威力を殺していた。
すると何度もいなしたことで、魔力を消耗しているのか、段々と触手の勢いが衰えて来たため、サキたちは反撃に移る。
「“ホーリー”」
サキは裁きの光をヒュージスライムへと射出する。一瞬にしてヒュージスライムの肉体まで到達した光は、その流体ボディを貫いた。
彼女が身に付けている装備である“聖女の着物”が持つ【白系魔法ダメージ増加 小】は、ただでさえモンスターに対して大ダメージを出せる“ホーリー”の威力を最大限まで高めることができる。
結果、サキが放った“ホーリー”は、守り特化のスキル構成をしているヒュージスライムの膨大な体力を半分近く削った。
「“アクアアロー”」
アリウムは青魔法のレベルが上がったことで使用できるようになった“アクアアロー”を、サキが放った“ホーリー”によってできた穴を狙って放つ。
水が矢の形になって射出される“アクアアロー”は、“ホーリー”によって作り出された傷跡を抉り、大きなダメージを与える形となった。
「もう少しで勝てるかな――」
サキは呼吸が止まってしまう。
見上げなければ全貌が分からないほどの巨躯が飛び跳ねた。巨躯は元々いた場所より少し前に進んだ場所にて上昇が止まる。上昇のエネルギーを消費し切ったヒュージスライムに待っているのは重力に従った自由落下。
その落下地点になるであろう場所の中心は、いまサキたちが立っていう場所だった。つまり今すぐにでも逃げ出さなければ、大きな2階建て一軒家程度の巨躯の下敷きになってしまう。
「逃げるよ!!」
サキたちはヒュージスライムが跳ねた瞬間に駆け出していた。最も足が速いカグヤは、一瞬にしてヒュージスライムの影から抜け出せたが、サキとアリウムは中々抜け出せない。
あと一歩、足を伸ばせば影から抜け出せるところまで辿り着いたが、ヒュージスライムの巨躯が大きな音と砂埃を上げながら着地した。カグヤはサキを心配して近寄ろうとしたが、落下で生まれた風圧によって吹き飛ばされてしまう。
吹き飛ばされながらも、サキの存在を探すことは忘れず、ヒュージスライムの下を見続けていた。
やがて砂埃が晴れ、ヒュージスライムの姿が露わになる。そこにはゆらゆらと揺れている流体ボディと、その肉体に刀を突き刺しているサキの姿があった。
彼女は落下ギリギリで避けることができ、ヒュージスライムが落下したのと同時に刀を突き刺すことで、その場から吹き飛ばされないように身体を固定していた。
「この距離なら倒せるでしょ。“ホーリー”」
断罪の光がヒュージスライムの肉体を貫く。その輝きは半透明ボディによって乱反射し、ヒュージスライム自体が発光しているような光景だ。
輝きと共に流体ボディはポリゴンに変わっていき、そこには無傷のアリウムが立っていた。
「潰されましたけど、霊だったのでノーダメージでした」
言葉では潰されたと表現していたが、霊体は物理を透過するので、重なっていたと表現するのが正しいが、彼女が重なると表現することは一生ないだろう。
エリアボスのヒュージスライムに勝利したサキたちは、目的地である王都へと向かう。
いくつかのポイズンスライムやウォータースライム、1体のオーガを討伐した頃、“北の森”を抜けることができた。森を抜けた先には舗装された大きな街道と、遠くに見える大きな城壁があった。
「あと少しだし、頑張ろう!」
「おー!」
「きゅう!」
サキたちは街道を進んで行く。
森では高頻度でモンスターと接敵していたが、街道に出た瞬間からモンスターとの接敵が殆どなくなっている。接敵したモンスターも簡単に倒せるような相手ばかりで、戦闘を好むサキからすれば、つまらない道だった。
「もう少しで王都に着くけど、弱いモンスターばかりだったなぁ」
そして巨大な門の前に辿り着いた。
そこには高そうな鎧を着ている兵士が、検問のようなことを行っていた。
「見ない顔だが、何処から来たんだ?」
「ファスターから来ました」
「ファスター? あそこは“北の森”が酒呑童子のユニーク個体に占拠されて、直通ルートが遮断されていただろう? 生まれた場所ではなく、直前に訪れた街を教えてくれ」
「その北の森が――」
サキは兵士に対して頼光は居なくなったと説明するが、中々信じて貰えず、王都の中に入れて貰えなかった。
流石のサキもイライラしてきていたが、ファスターの領主から封筒を貰っていることを思い出し、それを兵士に手渡す。
「これは?」
「ファスター領の領主様から貰いました」
兵士はある程度の地位にいるのか、封筒を受け取ってすぐに開封して中身を確認した。中に入っていた紙を手にすると、目を見開いてサキのことを見る。そして鎧をガチャガチャと鳴らしながら頭を下げた。
「申し訳ございません。まさか本当に酒呑童子が討伐されたとは思わず。それも酒吞童子討伐を行った方を疑うなんて!!」
「いえ、貴方はお仕事をやっていたですから、気にしなくて大丈夫ですよ」
頭を上げた兵士は、もう一度謝罪の言葉を述べてから、サキのことを王都内へと案内した。
そして彼女が王都に足を踏み入れた瞬間、全プレイヤーの下にアナウンスが送信された。
――メッセージ――
王都開放を記念して第1回イベントを開催します
第1回イベントは予選がバトルロイヤル、本選は1対1のPVP形式を予定しています
上位三名には限定商品が贈られます
PVPに参加されますか Y/N
観戦に参加されますか Y/N
参加される方は王都のコロッセオに強制転移させていただきます。
日程 ゲーム内日時 7日後11時から
NewLifeOnline運営より
――メッセージ――
「もちろんYesだよ!」
イベントまでの間、サキは王都の観光や外に繰り出してまだ見ぬモンスターとの戦いを楽しんで行きます。




