第42話 領主館
リリルカと共に街へと戻って来たサキは、酒呑童子に勝利したことを報告するために、領主館を訪れていた。
ファスターの中心部にある館は、作戦から帰還した領主直属の領兵が厳重な警備を敷いていた。
「リリルカじゃないか、お前が連れて来た女が酒呑童子を討伐したんだってな」
「……バンテン殿」
「同僚として嬉しいぞ。お前みたいな出来損ないが、酒呑童子を討伐するなんて極大の功績を得てくれて」
「リリさんは出来損ないなんかじゃないです」
「お前が酒吞童子を討伐した女か? リリルカはでき――」
バンテンと呼ばれる男がさらなる悪口を口にしようとしたところ、館の方からやって来た兵士の言葉を聞いて、途中で口を閉じた。
「バンテン隊長、酒呑童子討伐を成功させた者を連れて来いとのことです」
「そうか、では連れていけ」
「訂正して!」
「大丈夫ですから、サキさん」
サキはバンテンに掴みかかろうとしていたが、リリルカに止められてしまって、やむなく館の中へと入って行った。
「あの偉そうな人って誰ですか?」
「バンテン殿と言って、領主直属の領兵を纏める隊長で、この街で唯一騎士爵を貰っている騎士です」
「強いってことですか?」
「楽しそうな顔をしないでください! 一応この街一番の実力者なんですから」
「喧嘩を売られない限り、戦いはしないよ」
「怖いこと言わないでください!」
サキが笑みを浮かべながら言うため、リリルカは心配で声が大きくなってしまう。
「少しうるさいですよ」
「す、すいません」
2人の会話が廊下に響き渡っていたため、案内をしてくれている家令の男に注意されてしまった。流石に注意されてしまった以上、同じテンションで話し続けられるほど肝が据わっているわけではないため、それ以降2人の間に会話といった会話は生まれなかった。
そして一室の扉の前に着くと、家令の男がノックした。
『入れ』
部屋の中から聞こえて来た声は、渋めの男の返事だ。
既に姿を消している家令の代わりにリリルカが扉を開けると、その先には高そうな椅子に腰を下ろした4,50代程度の外見をしている男の姿があった。
「失礼します。ファスター治安部隊“隊長”のリリルカです」
「冒険者のサキです」
「おぉ!! 貴女が酒呑童子を倒してくださった方ですか!! この度は有難うございました!!!」
その声と外見から想像できない腰の低さで迎え入れてくれた男に対して、サキは驚きで言葉に詰まってしまう。
しかし領主であろう人物が頭を下げていることに気付き、慌てて頭を上げさせようとする。
「いえいえ、大丈夫ですから、頭を上げてください!!」
「そうですか? それならいいのですが……では酒呑童子討伐の件でお礼がしたいのですが、何か欲しい者などはありますか?」
欲しいものと急に言われても思いつかず、俯いて考える素振りを見せる。彼女の中で出てきた第一候補は武器だったが、クエストクリアの報酬で“酒乱之刀”を獲得しているため、すぐに候補から外れた。
その後十数秒間考え続けた末に導き出した報酬は
「では、怪我した人へのケアの強化をお願いします」
「聞いていた通りのお人だ。その願いは出来る限り受け入れましょう。しかしそれだけでは貴女へのお礼とは言えませんので、ウチにおいてある装備品を差し上げましょう。おい、持ってこい!」
「はっ!」
部屋で気配を消していた警備兵が、部屋の外へと走って行った。
「そ、そんなの貰えませんよ!」
「良いんですよ。元々どんな物を求められたとしても、この装備は差し上げるつもりでしたので」
「そうなんですか……それなら有難く貰いますが」
「持って参りました」
装備品を取りに行った兵士が戻って来た。
その男は装備が装着したマネキンを部屋の中央に置くと、再び気配を消した。
「こちらの装備は、遥か昔にこの街で生を受けたとされている初代聖女様が亡くなった際に身に付けていたとされる装備です。彼女の遺言で私の一族が所有権を得ましたが、我々一族では身に付けられずに持て余していたんです。近年教国ブリタニアからの圧力がすごくて、譲渡してしまおうかと思っていたところ、初代聖女始まりの街で新たな聖女が生まれ、その方が酒呑童子を討伐した――運命だと思いましたよ」
「それで私に……」
「はい、この装備は聖女が身に付けてこその装備ですから、ぜひ使ってください」
「……初代聖女様に泥を塗らないように頑張ります」
――インベントリ――
聖女の羽衣【封印中】 レア度10 品質A
白系魔法消費魔力減少 小
破壊不可
防御力+50
聖女の着物【封印中】 レア度10 品質A
白系魔法ダメージ増加 小
破壊不可
防御力+60
聖女の下駄【封印中】 レア度10 品質A
悪路走破
破壊不可
防御力+10
――インベントリ――
「封印中?」
「ええ、その装備は持ち主の成長に合わせて、進化する装備なんですが、元の持ち主である初代聖女様が装備の成長限界まで進化させていたのですが、初代聖女様が亡くなってしまった際に装備自身が己に封印を掛けたと聞いています」
「なるほど……それほど強かった初代聖女様が亡くなった理由って、老衰とか病気とかですか?」
「我が一族に残っている伝承によると、最後のSSSランクモンスターである、八岐大蛇のUM個体である“ノワール”を討伐する際に使用した、聖女の奥義である“神聖修羅”の反動で亡くなったと聞いています」
「SSSランク……」
圧倒的な力を持っていた頼光でさえ、SSランク止まりだったことから、SSSランクのノワールがどれほどの力を有していたのか、想像することすらできなかった。
「そのSSSランクって、ノワールだけに用意されたランクなんですか?」
「いや、過去には複数のSSSランクモンスターが居たとされています。現在では亜人と分類される巨人族の祖先とされている古代巨人のUM個体“ロキ”、海の大王と呼ばれた古代海之大王蛸のUM個体“オクテンス”、全ての龍種を全ていた神龍“ヴェルトロス”、そしてこのマケトニア国全土を汚染させた最悪の毒龍“ノワール”の4体が四大厄災と呼ばれ、SSSランクに指定されていました……少し話し過ぎましたね。もし王都へと向かうのであれば、これを門兵に渡せば、多少の優遇を受けられますので」
話し過ぎた自覚がある領主はサキに封筒を手渡して、帰るように促した。
サキもあまりの情報量に頭が痛くなってきていたので、領主の言葉に甘えて、帰宅することにする。
「酒呑童子の討伐、本当にありがとうございました」
「気にしないでください。逆に私が貰い過ぎたくらいですから」
そう言って、サキたちは領主館を後にした。帰り道はバンテンに絡まれることもなく、敷地から出ることができた。
「そういえば、リリさん全然話していなかったね」
「いくら優しい方とはいえ、あの方は領主であり、上司ですから、緊張しちゃいますよ」
「一回リリさんの家に寄ってもいいですか?」
「急にどうしたんですか? 別に構わないですけど」
「この後、王都に行くんですけど、そのことをリカちゃんに伝えないとなぁと思って」
「……寂しくなりますね」
短い付き合いながら、2人の間には確かな友情が生まれていた。
「また戻ってくる予定ですから」
「……リカと一緒に待ってますね」
tips
・聖女シリーズ
UMがドロップした装備ではないが、初代聖女が長年身に付けていたこともあり、UWに至っている。




