第40話 酒呑童子“頼光”
「試すとは言ったが、これほどやられるのは鬱陶しいな」
頼光は言葉の通り、全身で攻撃を受け止めていたが、これといったダメージも受けることなく、ただ視界不良になるだけの攻撃が鬱陶しくなったのか、膨れ上がらせた殺気と共に刀を振り抜いた。
大気をも斬り裂く斬撃は、治安部隊の大半を薙ぎ払った。頼光に殺意がなかったためか、致命傷になるダメージを負った者は居なかったが、戦線に復帰できるほど少なかったわけではないため、リリルカを除いて戦線から離脱することになってしまった。
「一撃……勝てるわけない」
あまりの力の差を見せつけられたリリルカは、恐怖でその場に座り込んでしまった。いくら治安部隊を任される実力者であろうと、初心者が集まるファスターの内での実力者に過ぎず、世界中探しても一握りしか存在していないSSランクのモンスターに太刀打ちできるはずがない。
「リリさん、下がって」
サキは腰が抜けて座り込んでいるリリルカの前に立って、抜刀した。
「ワシを倒すために武器を変えて戻って来たようだが、それではまだまだ足りぬぞ」
頼光はサキの刀を指さして言った。確かに初心者の刀からすれば格段に性能が上がっているが、結局は初心者から脱した程度の性能しかなく、SSランクのモンスターを相手取るには全く性能が足りていない。
そんなことはサキ自身も分かっていたが、それでも刀を構えて、頼光と戦う意思を見せた。
「私からの質問を聞いてくれない?」
「……いいだろう、何が聞きたい」
サキはこれまでの言動から、頼光は話が通じると思い、思い切って質問してもいいかと確認を取った。彼女の賭けは成功し、質問するチャンスを得ることができた。
しかしいくつも答えてくれるとは思えないため、いま聞くべき質問を導き出すために頭を働かせる。
「どうして貴方はこんなところに居るのですか?」
サキは討伐しないで王都との街道を開放する方法を探るため、“北の森”を縄張りにしている理由について質問した。
「そりゃあ……どうして居るんだろうな? ワシに自我が生まれた時に居た場所がここだったから、今もいるだけだろうな」
「なら私と一緒に旅をしませんか?」
サキのありえない提案に、当事者である頼光は勿論のこと、戦闘の邪魔にならないように這いつくばりながら離れようとしているリリルカでさえ、唖然として足を止めてしまう。
唖然としている頼光、数秒経ってようやく言葉の意味を理解したのか、カッカッカッと快活な笑い声を上げながら、口を開く。
「お前と旅? 面白いことを言うではないか! しかしこのワシと旅がしたいのであれば、納得するだけの力を見せてみろ。なぁーに、殺しはせぬ。お前は面白いからな」
「約束だよ」
「ああ、ワシは約束は守る」
「では行きます。“春風流・一閃”」
サキは腰を下げて重心を低くし、一瞬にして最高速度へと到達する。縮地を利用した高速移動と居合斬りの合わせ技。それの攻撃は、初見では認識することすら難しい高速の一撃だ。しかし頼光にとってその程度の攻撃は、刀を抜くことは要とせず、右手に持っていた酒瓶で軽く受け流した。
「なっ!?」
攻撃を流されたことによって体勢が崩れる。勢いに乗った攻撃を逸らされたことで、身体も頼光の横に逸れてしまう。
そんな隙だらけの胴体へと、頼光は脇差の日本刀で斬りつけようとする。その一連の行動は淀みなく、呼吸するのと同じくらい自然な動きだった。
「くっ!」
サキは急いで振り抜いた刀を自分の前に戻し、胴体へと振り下ろされる刀を受け止めた。しかし体勢の問題と、膂力の差が顕著に現れ、鍔迫り合いでは頼光が圧倒的に優勢だった。
「――っ!」
何とか後方に飛び退くことができたが、一度の鍔迫り合いのみで圧倒的な力の差を実感することになった。
しかし彼女に撤退の文字はなく、再び刀を構えた。
「行くよ!」
「掛かって来い!」
「“春風流・炎舞”」
サキの刀に炎が渦巻いているように見える。否、見えたのではなく魔法による聖なる炎を纏っていた。
「ほぉ、それは聖属性の炎か」
「私は聖女だから、聖なる力を使えるんだよ」
「そんな身なりでか? やはりお前は面白い。だが、その程度の技量では、お前に付いて行くなど到底できねェなァ!!」
サキは刀に纏う聖なる炎を散らしながら、頼光の敗北を認めさせるために駆け出した。
頼光は、刀身が届く距離まで近付いていないのにも拘らず、駆ける彼女の方へと横向きに薙ぎ払う。驚異的な膂力によって振りぬかれた日本刀は、音を置き去りにしながら、突風を発生させた。その突風が駆けているサキを襲い、刀に纏わせていた炎を掻き消した。
「なっ!?」
そのあまりに規格外な行動に、彼女は思わず足を止めてしまう。
だが炎が消えた程度で彼女の強い意志が掻き消されるわけではなく、再び足を動かす。そして頼光へと刀を振り抜く。その一撃は、先ほどよりも鋭く、速くなっていた。
だがそれでも頼光には届かず、日本刀によって軽くいなされてしまう。
「これで終わりか? もしそうであれば拍子抜けだぞ」
「まだまだ!」
サキは何度も刀を振るう。そんな猛攻を、頼光は涼しい顔をしていなしていく。
激しい剣戟は、ただサキの体力を消耗させていくだけで、頼光に対してはなに一つのダメージも与えることができていない。
「はぁはぁ――」
このままではジリ貧だと思い、飛び退いた。そして呼吸と心を整えるために、一度話すのを止める。
「おいおい、急に黙ったが、まさか威勢だけがよかったのか?」
だが出会って間もない頼光では、サキがただ黙り込んだだけにしか見えず、つまらないという感情を高まらせることに繋がってしまう。
「何も言わないのか……元々お前を殺すつもりはなかったが、気が変わった。お前のことも殺すことにした」
「話が違うじゃないですか!!」
近くで2人の激闘を見守っていたリリルカは、頼光の言葉に納得できず、思わず声を出してしまった。
慌てて口を覆ったものの、出してしまった言葉を引っ込めることはできないので、吹っ切れて思いの丈を吐き出すことにした。
「サキさんのことは殺さないと約束したはずじゃないですか!!?」
「はぁ? なぜ何もしていないお前が、ワシに対して文句を言っておるのだ! そもそもお前は、モンスターの言葉が信じられるのか?」
「それは……」
確かにモンスターは狡猾で、人を騙す生き物だ。
それは人の言葉を話せる個体でも一緒なのかもしれない。リリルカの頭の中にそんな考えが浮かび、頼光の言葉に納得してしまう。
『言葉で無理なら』と身体を使って止めようとしたが、頼光の鋭い眼光と殺気によって動けなくなってしまう。
「世間話は終わりだ」
「“【闇をも斬り裂く神の一撃】春風流奥義・月読命”」
頼光がリリルカから視線をサキの方へと視線を戻すと、そこには刀を輝かせながら、縮地を行おうとしているサキの姿があった。
そしてバネのように跳ねる。一瞬にして距離を詰めた彼女から放たれる刃は、春風流の数ある技の中でも奥義と呼ばれる最強の一撃だ。その由来は月明かりの下で要塞を落とした先々々代が由来とされる全身全霊の一閃。
これまでのどんな一撃よりも速く、鋭い一撃は、魔法という非現実的な力が加わることによって何倍にも威力が膨れ上がる。
「これは、拙いかもな」
その威力を悟った頼光は、今まで抜いて来なかった自身の背丈ほどある大太刀、名刀“茨木童子”を抜いて攻撃に備えた。
2人の刀がぶつかり合う。一瞬の鍔迫り合いが起きた後、2人はは反発するかの如く、反対方向へと吹き飛んだ。
「かはっ――!?」
「ッ!?」
サキはその衝撃を受け止めきれることができず、いくつかの木を破壊しながら進み、一際大きな樹木に激突する形で、その衝撃を殺すことになった。
対する頼光は、振り抜いた“茨木童子”を地面に突き立てることによって、その衝撃を殺し、何かに激突することを防いだ。
「すごい一撃だったぞ! 久方ぶりに死を考えた!!」
「……ぅ」
「お前も生きているのか、若い人間にしてはしぶとい奴だ……ここまでできれば満足そうな相手だ。おい、リリルカという者よ」
サキは体力が全損することは避けられたが、意識を失ってしまった。頼光が手を下さずとも、“北の森”に生息しているモンスターの手によってデスすることは確実だ。
頼光はそんなサキの様子を見て、何かを決心したのか、真面目な顔をしてリリルカに話しかけた。
「は、は、は、はい、ななななんでしょうか?」
先ほどの殺気によって完全に委縮してしまっているリリルカは、優しく話しかけられただけでビビり散らしてしまう。
「別に取って食ったりなんかしねぇよ。ただ、こいつを治療してやれとと伝えたかっただけだ」
「ち、治療ですか?」
「そうだ。治療しねえと、別のモンスターにやられちまうだろうからな」
「は、はい」
慌ててサキに駆け寄ったリリルカは、瀕死の状態で眠っているサキへとヒールを掛ける。ヒールでは多少の体力しか回復することはできないが、気絶した意識を戻す程度の効力はあったようで、サキはゆっくりと目を開いた。
「サキさん!」
「りりるかさん?」
サキは完全に意識が覚醒したわけではなく、寝ぼけているような状態で、言葉が舌足らずになっている。そんな可愛らしいサキに、リリルカは思わずキュンとなってしまう。
そんなことを考えている場合ではないと、煩悩を祓うために頭を振る。そして現状を説明した。
「そっかぁ、私敗けちゃったんだ」
「いいや、ワシの敗けだ。格下にここまでやられたら、敗け同然だ」
「でも実際に敗けたのは私です」
「はぁ、面倒な奴だな。ならばワシは降参する」
「へぇ?」
「お前はまだ体力が残っていて、ワシは降参した。つまりこの勝負で敗けたのはワシだ」
頼光の言葉に納得し、サキは自分が勝利したということを受け入れた。
「なら、私と一緒に来てくれるんですか?」
「おうよ」
『“酒呑童子”が仲間になりたそうにしています。仲間にしますか? Y/N』
「もちろんイエスだよ」
『“酒呑童子”が仲間になりました』
「ステータス見てもいい?」
「別に構わぬぞ」
サキは酒吞童子のステータスを確認するついでに、自分のステータスも確認した。
――ステータス――
人物
プレイヤーネーム サキ
種族 人間
体力 326/7850
魔力 7230/19060
職業 聖女Lv31
スキル 刀豪術Lv7 薬術Lv3 料理Lv1 採取Lv2 採掘Lv3 神聖魔法Lv4 テイマーLv5 魔力増加Lv18 毒耐性Lv2
称号 礼儀正しい人 規格外 ギルドマドンナのお気に入り 優しきテイマー
装備
頭
上半身 普通の服
下半身 普通のズボン
靴 普通の靴
武器 鬼斬
アクセサリー 守護のネックレス
オーガの篭手
魔法
聖炎 ホーリー ホーリーソード ヒール エクストラヒール キュア 聖女の祝福 テイム
テイムモンスター
名前 カグヤ
種族 ルナラビットLv14
体力 303/303
魔力 660/660
スキル 月の波動Lv3 噛みつくLv6 飛び蹴りLv4 魔力増加Lv14
装備
アクセサリー レッドスカーフ
名前 アリウム
種族 幽霊少女Lv11
体力 280/280
魔力 980/980
スキル 青魔法Lv8 ポルターガイストLv4 霊体Lv―
装備
アクセサリー
魔法
アクアボール
名前 頼光
種族 酒呑童子Lv159
体力 1530/51639
魔力 5679/5679
スキル 剣神Lv11 酒之鬼 威圧Lv6 指揮Lv8 酒乱Lv19 状態異常無効Lv― etc.
装備
頭 熊童子のヘアバンド
上半身 妖鬼の上衣
下半身 妖鬼の袴
靴 妖鬼の下駄
武器 日本刀【虎熊童子】 大太刀【茨木童子】
アクセサリー 金熊童子のイヤリング右 星熊童子のイヤリング左
魔法
酒の毒霧 酒狂い 眷族召喚
――ステータス――
「強すぎない?」
サキが頼光の強さを噛みしめている間に、新たな情報の嵐が頭の中に響き渡っていく。
『プレイヤーサキが、初めてユニーククエストをクリアしたプレイヤーとなりました』
『プレイヤーサキが、初めてUMを討伐したプレイヤーとなりました』
『“北の森”のUMが討伐されたため、生態系が変化します』
というワールドアナウンスが、サキを含めた全プレイヤーへと届く。
そして彼女のみに届くアナウンスが続く。
ユニーククエスト クリア
【酒呑童子“頼光”討伐及び、“北の森”掃討作戦】
難易度10
成功条件
酒呑童子“頼光”討伐、“北の森”で異常発生している鬼系モンスターを一定量まで減らす
失敗条件
作戦の失敗
成功報酬
『ユニーククエストを特殊ルートでクリアしたので、報酬が変化します』
成功条件
酒呑童子 個体名“頼光”に認めてもらう
成功報酬
称号 【鬼との友好】を獲得
ファスター領主へのコネを獲得
ファスター治安部隊へのコネを獲得
“酒乱之刀”を獲得
そこからは戦闘の結果のアナウンスが続いた。
『称号 【ジャイアントキリング】を獲得した』
『称号 【開拓者】を獲得した』
「――1回帰ろうか」
あまりのアナウンス数に頭がショートしたサキは、確認するのは後回しにして、一度帰宅することを提案した。
殺気を全身で浴びたリリルカも疲労が溜まっていたため、即座に賛成する。
「ワシの前でぼーっとするのではない。隙を晒されたら、思わず斬ってしまいそうになる」
「それは怖いなぁ」
「はぁ、全然怖そうじゃないが?」
「そりゃあ、師匠であるおじいちゃんの方が怖かったからね」
サキの祖父は春風流6代目師範であり、サキを遥かに上回る技量を持っていた。引退して数年経った現在でも、現役のサキでは太刀打ちできないほどの技量だ。
「ワシとお前の祖父、どちらが強い?」
「うーん……今だと頼光の方が強いかな? でも数年前の現役の時はおじいちゃんの方が強かったと思うよ。その時でも全盛期を過ぎていたから、全盛期は頼光でも太刀打ちできないほどの実力差があるんじゃないかな?」
「ワシもまだまだじゃのう」
「……あの、他の人たちは帰ったので、私たちも帰りませんか?」
頼光との会話に夢中となって、リリルカのことを放置してしまっていた。
「あっ、リリさん(まだ帰ってなかったんだぁ)」
「もしかして『帰ってなかったんだぁ』的なことを思ったでしょ!!」
「そんなことないよひゅーひゅー」
サキはド下手な口笛で誤魔化そうとしていた。
「全然口笛吹けてないですよ!! そもそも口笛如きでは騙されませんよ!!!」
「そそそんなことより、早く帰ろうよ。リカちゃんが待っているよ」
サキはリリルカの指摘は聞こえないフリをして、ファスターの方へと小走り気味で向かった。
「そんなことって……あっ、待ってくださーい!」
『そんなこと』という言葉に引っ掛かったのか、少し俯いていたが、置いて行かれていることに気付いて、慌ててサキのことを追った。
「騒がしい奴らじゃなぁ……でもそういうところも面白い、これからが楽しくなりそうだ」
最後まで森に残っている頼光は好々爺のような表情で、楽しそうに走っている2人の後ろ姿を見ていた。
今回、新しく出て来た称号などは、次回のあとがきにでも書きます




