第39話 騎士と拳士
ゲーム内時間にして3日後、ログインしたサキは、言われた通りファスター北側の門へとやって来た。
「リリさん!」
「サキさん、今日はお願いしますね」
サキはリリルカのことを探し出し、発見すると同時に駆け寄った。
「隊長、そちらの方が?」
「ああ、私の部隊に参加するサキさんだ」
治安部隊のメンバーはサキのことを事前に聞いていたようで、サキが討伐作戦に参加することに対して、リリルカに確認を取るだけですぐに納得していた。
「仕事の時は雰囲気が変わりますね」
「そうですね。一応隊長ですから、威厳は持たないと」
サキと話すときのリリルカは、どこかフワフワした印象を抱くが、治安部隊“隊長”としての彼女はハキハキと話し、言葉の端々から威厳を感じられた。
世間話を一通り済ませた2人は、今作戦についての話し合いに移っていく。
「今回の【酒呑童子“頼光”討伐及び、“北の森”掃討作戦】の概要なんですが、サキさんも同行する私の部隊は、“北の森”で異常発生している鬼系統のモンスターを減らすことが主な任務です」
「つまり……」
「はい、酒吞童子と戦う可能性はかなり低いと思います。一応臨機応変に対応するので、もし我々の部隊が接敵した場合は、戦える可能性はありますが、酒呑童子を捜索する領主直属の部隊に比べると、私たちが接敵する可能性は極端に低いです」
「そうかぁ……まあそうだよね。リリさんの部隊は治安維持のための対人間用に編成された部隊で、対モンスター戦は想定されてないもんね」
サキはリリルカの部隊のことを街中の治安を守る部隊だと思っているので、酒吞童子と戦える可能性が低いということに納得できた。
実際は商人の行き来を円滑に行うため、街の外に繰り出して人に危害を加えるモンスターの討伐も仕事の中に含まれている。そのため対モンスター戦を想定されていないわけではないのだが、サキが納得している以上、わざわざ否定する者はいなかった。
「……そろそろ森に入るので、気を引き締めて」
リリルカの言葉に、治安部隊のメンバーの気が引き締まる。
そして彼女たちは“北の森”へと足を踏み入れた。森へと入った瞬間、世界が変わったかのように鋭い殺気が全身に突き刺さる。
「前衛は後衛を守るように順守して!」
「はっ!」
リリルカの掛け声とともに、前衛と思われる治安部隊のメンバーが、一斉に盾を構えて、弓や杖などを持った後衛タイプのメンバーを守りに掛かる。
「――っ」
彼女の瞬時の判断が幸いし、オーガの群れによる奇襲を失敗に終わらせることができた。森に隠れていたオーガたちの攻撃は、前衛の部隊メンバーの盾に拒まれ、後衛に届くことはなかったが、前衛も後衛も反撃に移れる余裕はなかった。唯一、オーガの奇襲が不発に終わった瞬間に動き出した者がいた。
それは“北の森”の恐ろしさをその身で経験している少女だ。
「膂力がすごいオーガ相手に、受け身で戦うのは分が悪いから、攻める気持ちで動いて!!」
サキは1体のオーガの首を刎ねた。
自分よりも幼い少女がオーガに勝利したことが自信となり、治安部隊のメンバーは攻撃に移っていく。
無傷で突破することはできなかったが、前衛と後衛が連携の取れた攻撃を行ったため、最終的には襲ってきた全てのオーガを討伐することができた。
だが森の奥から装備が整っている群れが見えたため、彼女たちに息つく暇はなかった。
「あれはオーガナイトにオーガファイター……それも3体ずつなんて」
オーガナイトとは、軽鎧を纏い、大剣を担いでいるオーガのことだ。オーガ種の膂力と大剣という武器が合わさることによって、驚異的な破壊力を生み出し、ギルドが定めるモンスターランク制度ではCに位置するモンスターだ。
そしてオーガファイターは、通常のオーガよりも筋骨隆々の肉体を持ち、両手にメリケンサックを装着している個体のことを指す。オーガ種の膂力と金属でできているメリケンサックから放たれる拳は、いとも容易く大地を砕く。オーガナイトと同じくランクCのモンスターだ。
「私が前線を張るから、みんなは援護をお願い!」
強敵を前にして委縮してしまっている治安部隊の様子を見て、唯一恐怖に縛られていない自分が動かなければ、敗北は必至と考えたサキが、単騎で駆け出した。
彼女の勇敢な行動に身体を縛り付けていた恐怖の気持ちが緩み、リーダーであるリリルカが代表して動き出す。
「サキさんの援護をしなさい!!」
リリルカの行動は部隊メンバーの恐怖を完全に解した。魔法を覚えているメンバーは魔法を放ち、遠距離武器を持つ者はそれを放つ。
治安部隊からの集中砲火を浴びているオーガナイトとオーガファイターの群れだったが、そこまで効いているようには見えなかった。だがサキにとって多少の妨害でもありがたかった。
先頭に立っていたオーガナイトが、近付いてくるサキを狙って大剣で薙ぎ払おうとしていた。しかし彼女は触れるギリギリで跳び、着地は大剣の面の上にする。そのまま不安定な大剣の上を進むと、オーガナイトの目の前に辿り着いた。
「ふぅ、まあ取らせてくれないよね」
サキがオーガナイトの首を刎ねようとした瞬間、邪魔するようにオーガファイターの拳が放たれる。
その攻撃でどれほどのダメージを受けるのかを想像できないため、サキは大げさに避けるしかなく、せっかく詰めたオーガナイトとの距離が再び開いてしまった。
「まあふりだしに戻っただけだし、あまり気にすることはないかな」
彼女としては特に消耗した物がなかったため、再びふりだしに戻ったことに対して思うことはなかったが、治安部隊のメンバーは違う。彼女たちは魔力や矢などを消耗しており、これが何度も繰り返されれば、いつかは枯渇してしまうことを理解していた。
しかしサキはそんなことは分かっている。分かったうえで、あまり気にすることはないと言っていた。
「だって魔法や矢なんて酒呑童子に通用するとは思えないしね」
「そうだな。ワシに小賢しい攻撃は効かぬ」
彼女の目の前に立っていたナイトとファイターの姿が消える。代わりに立っていたのは、砂埃を上げながら空から降って来た酒呑童子“頼光”だ。
「疑うなら、試してみるか?」
「うわぁぁぁ!!!!」
あまりの威圧感に、治安部隊の1人が魔法を乱射した。乱れた和に引っ張られ、比較的冷静だった者も攻撃を乱射してしまう。
治安部隊からの一斉攻撃を全身で受ける頼光、舞い上がる砂埃によってその姿は見えなくなったが、サキには無事であることが分かっていた。なぜなら氷の海よりも冷たい殺気が段々と膨れ上がっているからだ。
「試すとは言ったが、これほどやられるのは鬱陶しいな」
次回、サキと頼光がぶつかる!




